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大好きな郷の記憶

その郷の1番古い記憶

多分5歳くらい。

ただただ遠く、

いけどもいけども曲がりくねった道だった。

そこには母の姉夫婦が住んでいた。子供に恵まれなかったので、行けばとても可愛がってくれるのだが、何せ車酔いがひどい私は着くとヘロヘロでほとんど寝ていた

やっと起き上がり外に出ると、庭からは美しい棚田とその間を下る道と、磯辺と青い海がみえた

途端に元気が出てきた

はるか沖には種子島

すご〜い!きれいだなぁ

さあ海に行こう!と駆け出そうとした時

「帰るよ〜」と父…

またあの道を帰る…

結局遊べないまま、がっかりしながら家路についた

楽しそうな風景を眺めただけだった心残り…

そんな記憶である

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この郷のある町に保健師として22歳で就職した

当時僻地保健指導という保健所の事業があり、それに同伴したのが最初の訪問だった

集中的に2日間で全戸訪問し、健康教育支援をする事業だった

おばのうちがあったところはすでに家がなくなって更地になっていた

おばあちゃん、お舅さん、お姑さん3人をみとり、子どものいなかった叔母夫婦は隣の市の街中に家を買い出て行ったからだ

土地や畑は叔父の弟たちに譲っていた

そこでの私は、郷にゆかりのある子だったこともあり、初仕事で伺ったにもかかわらず、皆さんとても好意的で可愛がってもらった

なれない健康教育でも「おはんのはなしゃまこちよかんにわかっど。よう勉強しやったなぁ(あなたの話はよくわかるよ。よく勉強してこられたね)」と褒めて下さり、さながら学芸会を見にきたように拍手してもらった。

文字通り褒めて育てて頂いた(^^)

でもすぐに気づかされた。

私の知識など取るに足らないものだということを。

この地域には当時すでにお店も自動販売機もなく、最寄りの診療所までは僻地患者輸送バスで1時間以上かかった。(今は途中の国道が整備され1時間弱で行けるようになった)

そのため自分の体は自分で守る。症状が軽いうちに受診するなどの予防意識が高く、自分にとって大切だと思う情報を貪欲に見聞きする姿勢と、活用する姿勢がすでに備わっている方々で、私の教科書的な知識の出る幕など実はなかった。

一緒に行った保健所の年配の保健師さんがスキムミルクの話を教えてくださった。

骨粗鬆症の予防が言われ出した頃、牛乳が手に入らないこの郷でスキムミルクを紹介した3年前のことだったそうだ。それから毎年訪問に来るが、台所にスキムミルクの箱が50−60代の女性のいるお宅には必ず置いてあるのだという。骨を折ると農作業に差し支えるから大事なことだ、欠かさないと言われたそうだ。

それからも、良いと思ったものをくらしに取り入れていく力に驚かされることが何度かあった。

一番は冷凍庫(ストッカー)である。

一人暮らしの方のうちにもいつのまにか購入されていた。

話を聞くとお店がないので、郷の男の人が釣りに行った釣果などもらうととてもありがたい。ただ保存方法として塩つけにするとどうしても塩分が高くなる。イノシシの肉ももらって食べきらないと勿体無い。どうしようかという時に農協の展示会で冷凍庫をどなたかが見てこれは良いと購入した。

それをみんな次々と購入して行ったのだという。一人暮らしのおばあちゃんのお家にもあった。そして日付を書いて保存し古いものから食べていく。

貴重なタンパク源、干し大根などの食物繊維、海藻、貝、体に良いと言われるものを上手に保存しバランスよく食べ、菜もののない時は山に入り天然の三つ葉をとって食べたり、私では太刀打ちできない行動力があった。

それでも地元に帰ってきた若者の話に耳を傾け褒めてくれた。話はたぶん聞いたことあることだっただろうが、ちゃんと聞いて大事に受け止めてくださった。

そうか生きる知恵って、文明の力を活用するって暮らしを大事に生きている人の方が長けているのだ!

「知ってる」と「している」はこんなにちがうのだと教えられた

私が郷からもらったギフトのひとつである



#大好きな郷の記憶 #記憶を活字にする

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