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ナルサス®錠を2mg/dayで定時服用してる患者に、ナルラピド®錠が1mg/回のレスキュー量で処方された。さぁ、どうする?

 医療用麻薬は通常、「徐放錠」を定時服用し、痛みが突出する時のみ普通錠製剤を頓服するという使い方をし、後者の頓服のことを一般的に「レスキュー」と呼ぶ。
 ※普通錠を定時服用する使い方もある。

 医療用麻薬のレスキュー量は添付文書上、指定されている。
 以下に例を示す。(添付文書より抜粋)

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 さて、それを踏まえて今回は、以下のような処方を経験した。
 オピオイド治療は初めての患者だった。

 ナルサス錠®2mg   1錠
  1×朝食後       14日分
 ナルラピド®錠1mg   1錠
  疼痛時           10回分
 【以下余白】

 何の変哲もないような処方内容だが、よく見ると見えてくる。
 ナルサス®錠の1日量が2mgなので、先に示した「レスキュー量一覧」(=添付文書)に従うと、ナルラピド®錠のレスキュー量は2mgの1/6~1/4・・・つまり、0.33~0.5mgが適当と考えられる。
 1mgだと用量オーバーになる。

 添付文書上の文言では、例えばオプソ®やコデイン類は、「目安」とか「適宜増減」というあいまい表現があるので、投与量が既定の用量から少々逸脱していても問題ないと判断できる。
 しかし、ヒドロモルフォンやコデイン、トラマドールはその表記がないので添付文書に記載されている投与量しか使えない(あくまでも添付文書上は)。
 つまり今回、ナルラピド®錠1mg/回は、ナルサス®錠2mg/dayの1/2に相当する量なので、添付文書用量を逸脱してしまうのだ。

 例によって、メーカーDIに問い合わせてみた。
 予想通りの回答だったが、「定時投与量が低用量の場合のレスキュー量についてはエビデンスが見つからない」とのことだった。
 ナルサス®錠の添付文書上の用法用量は以下の通り。

6. 用法及び用量
 通常、成人にはヒドロモルフォンとして4~24mgを1日1回経口投与する。なお、症状に応じて適宜増減する。

7. 用法及び用量に関連する注意
7.1 初回投与
 オピオイド鎮痛剤による治療の有無を考慮して初回投与量を設定すること。
7.2オピオイド鎮痛剤を使用していない患者
 1日4mgから開始し、鎮痛効果及び副作用の発現状況を観察しながら用量調節を行うこと。

 メーカーさんがおっしゃるには、ナルサス®の投与量を4mg~にしているので、レスキューに使うナルラピド®錠は1mg規格からしか作ってないと。
 ナルサス®の4mg未満での使用は想定してないと。
 (「ナルサス®4mgの時のレスキュー量は、1/6でなく1/4にしてください」という意図も含まれているようだ。)

 しかし、ナルサス®の 6. 用法及び用量 の項目には「適宜増減」の記載がある。
 つまり、定時投与量は医師の裁量で、2mg/dayスタートにしても問題はないわけだ。

 ナルサス®錠には、2mgという規格が存在するし、用法用量に適宜増減の記載をするなら、低用量投与もありうることも想定したレスキュー量の設定をしてほしかった。

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 ただ、レスキュー量の「1/6~1/4」という表現、治験段階からその表記だったらしく、元々は海外の臨床結果の投与量をそのまま持ってきてるだけらしくて、エビデンスが見当たらないそう・・・。
 添付文書の記載内容って、エビデンスがないことが多い・・・(ノД`)シクシク
 メーカーDIから、「治験の時のまま変わっていないので・・・」と回答されたことは数知れず・・・(ノД`)シクシク
 「治験の時にその内容に決めた背景は何やったんや?」つーの! そこを知りたいねん! こっちは! それがエビデンスちゅうやつなんちゃうんかい!<`~´>

 さて、別の視点から。
 医療用麻薬適正使用ガイダンスによると、(医療用麻薬の)レスキュー薬1回量は徐放性製剤1日量の1/6を目安に設定する とまとめられており、がん性疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020では、(オピオイドの)レスキュー量は1日量の10~20%を目安に速放性製剤を使用する とある。
 やはり、「極低用量」という印象。

 しかし、上記ガイドライン等でも記載がある通り、あくまでも目安なので、実臨床では比較的高用量でのレスキュー投与も珍しくはないそう(同僚の薬剤師や知り合いの病院薬剤師からの情報)。

 本症例では、定時投与量が低用量だったが、添付文書上特に問題はなく、しかもそれは医師の裁量範囲内なので指摘はしにくい。
 そうすると、ナルラピド®錠は1回0.5錠にするのが妥当だが、麻薬なので調剤リスク上、それも好ましくない。
 よって、今回はナルサス®2mg/day、レスキュー量は定時用量の1/2という比較的高用量だが、ナルラピド®1mg/回のまま変更せずにそのまま様子を見ることにした。

仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。