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「駆出率が保たれた心不全」(HFpEF)というのがある?・・・でも、そもそも心不全って駆出率が低下したものをいうんじゃないの?

 「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」によると、心不全の定義は以下の通り。

 なんらかの心臓機能障害,すなわち,心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果,呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し,それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群
 
※心ポンプ機能の代償機転:心拡張や心肥大のこと

 つまり、「心臓の駆出機能が低下してる病態」と解釈できそうだが、今は「駆出率が保たれた心不全」という分類があるそうだ。
 HFpEF(ヘフペフ)と呼ばれている。

 上記ガイドラインには「『心不全』は心腔内に血液を充満させ,それを駆出するという心臓の主機能のなんらかの障害が生じた結果出現する」という記載もあるのだが、心不全の程度を「駆出率」や「駆出能」で判断しようとするから齟齬が生じる。
 心不全は、最終的には全身の循環血液量がどの程度低下してるかに焦点を置いてみるべきだと思う。
 その原因として、「駆出機能低下」や「駆出率」が関与してるだけ。

 前述したHFpEF(ヘフペフ)は、正確には「駆出能は保たれているが総駆出量が低下した心不全」という表現が正しいのではないかと考える。
 駆出能は正常だから、確かに駆出「率」は保たれていると言える。でも、左室内の血液量自体が少ないから全身循環血液量が減って心不全症状が出る・・・ということか。
 以下、解説。

 さて、心不全の分類にはいくつかある。
・ステージ(病期)から見た NYHA分類 や ACCF/AHA stage分類
・重症度の指標で、急性心不全の予後予測に有用な Forrester分類
・身体所見から病態を評価できる Nohria-Stevenson分類
など。(下図は急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)より)

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 これらに加えて、左室駆出率LVEF:Left Ventricular Ejection Fraction)の程度から判断する分類が今回の焦点。

 LVEFは、「左室1回拍出量/左室拡張末期用量」で算出され、一般的に55%以上が正常とされている(根拠情報見つからず。ガイドラインにも記載なし)。
 健常人でも左室が空っぽになるくらい駆出しきるわけではないということか・・・。
 これが40%未満(もしくは35%以下)になるとLVEFが低下した状態と判断され、その心不全をHFrEF(ヘフレフ:Heart Failure with reduced Ejection Fraction)と呼ぶ。
 LVEFが50%以上保たれているにも関わらず全身循環が低下して心不全の病態を呈しているものがHFpEF(ヘフペフ:Heart Failure with preserved Ejection Fraction)と呼ばれるもの。
 心収縮は十分なので駆出能は正常だが、拡張不全を起こしているために左室内に溜め込める血液量が不十分で、結局総駆出量が減っている状態と解釈できる。
 2016年からはHFrEFとHEpEFの間、つまりLVEFが40%以上50%未満の病態も示され、HFmrEF(ヘフエムレフ:Heart Failure with mid-range Ejection Fraction)と分類された。
 さらにLVEFが改善した心不全HFpEF improved(またはHFrecEF)という分類もあるようだが、この辺は予備知識程度でいいかも。
(下図は急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)より)

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 HFrEFHEpEFは理解しておこう!
 簡単にまとめると、

 HFrEF:収縮機能障害・・・単純にポンプ機能が低下して駆出率が低下している状態。
 HFpEF:拡張機能障害・・・左室が拡張しきらないために室内に溜め込める血液量が不十分で、駆出機能は正常なのに結果的に総駆出量が低下している状態。

重要なのは、HFrEFには効くACE阻害薬、ARB、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などが、HFpEFには効かないこと!
 症状の改善はある程度あるかもしれないが、生命予後は改善しないとのこと。

 2020年8月発売の新規機序心不全治療薬である「サクビトリルバルサルタンNa水和物」(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)においても、HFpEF患者におけるバルサルタン錠との比較試験(PARAGON-HF)において、優越性は得られなかったとしている。

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仕事より趣味を重視しがちな薬局薬剤師です。薬物動態学や製剤学など薬剤師ならではの視点を如何にして医療現場で生かすか、薬剤師という職業の利用価値をどう社会に周知できるかを模索してます。日経DIクイズへの投稿や、「鹿児島腎と薬剤研究会」等で活動しています。