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映像×音楽×ARで人を招く新時代の招き猫「manekiNEO」はいかにつくられたのか?

コロナ禍で観光地や飲食店が打撃を受けている中、クリエイティブを活用してできることはないか。そんな考えのもとに立ち上がったのが「manekiNEO(マネキネオ)」プロジェクト。実在する店舗やランドマークに足を運んでアプリを起動すると、その場所をモチーフにしたCG映像と音楽を楽しむことができます。このプロジェクトを企画・制作したピラミッドフィルム クアドラのメンバーに立ち上げの経緯や制作秘話について聞きました。



manekiNEO

リアルな場所をデジタル技術(映像×音楽×AR)で
アップデートして人を招くプロジェクト

コロナ禍で客足が途絶えた地域の活性化の為、デジタルに強いピラミッドフィルム クアドラ(以下:クアドラ)と、CGに強いMagrant、音楽に強いotoco3社それぞれの得意分野を活用して、集客につなげることのできるコンテンツができないかと画策してはじめたプロジェクト。実在する店舗やランドマークとなる場所をモチーフにしたCG映像と音楽をオリジナルで作成し、その場所の実景に合成した映像を作成。実際に足を運んで体験できるARアプリに落とし込むことで、その場所に新たな魅力を付与して人を誘引する。今後は観光地などにアプローチして、ARだけでなくVRやMRなどのデジタル技術も活かし、地域を盛り上げていく予定。



メンバー紹介

左から、白井大地、圡田紗友里、清水龍輝、阿部達也。

阿部達也
ディレクター
1988年大阪生まれ。栃木・岐阜・長崎・大阪と転勤を重ね、2011年より上海で就職。デジタルを活用した課題解決や価値創造におけるプランニングとディレクションを手掛ける。2016年に帰国し、現在は東京を拠点に活動中。

清水龍輝
プロジェクトマネージャー
Webのみならず、デバイスから筐体、イベントまで多岐にわたる案件の進行管理を担当。クライアントとスタッフの状況をくみ取り、果断に進めることを信条とする。仕切りなおしと効率化が得意。

白井大地
デバイスエンジニア
デジタルとリアルを織り交ぜた体験を作るをモットーに制作を続ける。回路設計・機構設計、音響照明などハードウェアの制御プログラムを主軸にし、近年ではCGプログラムまで幅広くデジタルコンテンツの制作を行う。

圡田紗友里
デザイナー
2020年新卒入社。グラフィックデザインを軸に、Web・アプリ・VI・印刷物等、媒体を問わずさまざまなデザイン制作に携わる。コンセプトを形にするロゴデザインが得意。 



リアルな場所に人を招くために何ができるか

━━「manekiNEO」プロジェクトが始まったきっかけを教えてください。

阿部__2021年の春頃にMagrantの佐伯真吾さんから「一緒に何かやらないか」と声を掛けられたのがきっかけでした。これは弊社も抱えている悩みなのですが、せっかく良い仕事をしても、クライアントから許可が降りなければ自社サイトに実績を掲載することができないんですね。それがジレンマで。それならば、自分たちの名刺代わりになるようなプロジェクトを協同で立ち上げてみてはどうか、という話になったんです。そこでotocoというMagrantが普段から付き合いのある音楽制作会社も含めた3社で、協同プロジェクトを立ち上げることになりました。

━━「manekiNEO」は招き猫をモチーフにしていますが、どのような経緯でこの案に決まったのでしょうか。

阿部__最初のタイミングで佐伯さんからいくつか要件をもらったんですね。その段階で「観光誘致のためのクリエイティブ」というお題目があらかた決まっていて。また、協同プロジェクトということもあったので、各社の特色が出るものがいいと。MagrantならCG、otocoなら音楽、クアドラならARって。それらを考慮して、僕のほうでアイデアを3つ提案しました。

1つは渋谷にあるハチ公をスマホのカメラでかざすとハチ公がランダムでいろんな犬のCGに変化して、お店を紹介してくれるというものでした。2つ目は、お店にスマホをかざすと、そのお店をモチーフにしたカラクリ時計がCGで出現する企画です。そして最後が、招き猫を起用した案。このときは各店舗ごとに異なるクリエイターがデザインした招き猫が見られるというプロモーションを考えて、“人を招く”という意味合いも良いじゃんと盛り上がったんですけど、一方で招き猫をデザインするだけだとクリエイティブの自由度が制限されるということで、現在の形に落ち着きました。

━━圡田さんはロゴのグラフィックデザインとアプリのUIデザインを担当していらっしゃいますが、どのようなことを意識して制作されましたか?

圡田__ロゴに関しては招き猫をモチーフにすることが決まっていたので、“人を招く”ということをどうやって表現するのかをいちばんに考えました。UIデザインに関しては、私自身が取り組むのが初めてだったので、いろんなことが探り探りで。どうしたらストレスなく操作できるのかをいろんなアプリを触って確かめてからUIに落とし込んでいます。

manekiNEO ロゴ

━━「manekiNEO」ではARが活用されていますが、技術面でこだわった点について教えてください。

白井__プロジェクトがスタートするタイミングで仕様に対する希望がほぼ固まっていたんですね。たとえば、カメラに映るものをARのオブジェクトとしてリアルタイムに反映させたいとか、太陽の位置によって影のつき方を変えたいとか。僕自身そうした表現に今まで取り組んだことがなかったので、挑戦だと思って取り組みました。

風景がARオブジェクトに変換され、動きが加わっていく

阿部__僕らとしては、ARのクオリティが少し心配だったんですね。今回はスマホを使うことが前提としてあったので、どうしても一人ひとりが持つデバイスに依存してしまうじゃないですか。

白井__特に昔の機種だと、ポリゴン数の多いものとか、複雑な形のものとかは情報処理能力が追いつかなくなるので難しいのではないかという話をしていて。

━━操作性と速度と容量の問題が複雑に絡み合う感じですよね。

白井__まさに。そこで今回はCGのテクスチャをつくり込むことにしました。表面のざらつきであったり、光の反射であったりをリアルに再現するためにMagrantのCGデザイナーさんと調整を繰り返して仕上げています。オフラインレンダリングとまではいかないんですけど、見栄えとしてはそこまで劣らないものがつくれたのではないでしょうか。

様々なCGの表現が使われている

━━清水さんは進行管理を任されたと思うのですが、プロジェクトを進めていくうえで心がけたことはありますか?

清水__自社プロジェクトだからこそ、みんなのモチベーション管理に意識を向けました。受諾案件の場合、予算やスケジュールといった制約があるので、良い緊張感を持ってプロジェクトに取り組めると思うんですね。でも今回はそれがないので、言ってしまえば、すべてが自分たちの裁量次第なわけじゃないですか。

━━良くするも悪くするも自分たちの匙加減による、と。

 清水__はい。しかも今回は3社協同ということで、お互いに人的リソースを持ち寄って体制をつくっています。どこまで要求して、どこまで譲歩するのか、みたいなバランスも自社だけで完結しないからこそ、なおさら視座を揃えて取り組む必要があるのかなと思って取り組みました。


3社の得意領域を活かしたクリエイティブを実現

━━今回のプロジェクトでは、3社それぞれの得意領域を活かして取り組んだからこそ実現した掛け算があったと思います。

阿部__クオリティの高いプロモーションムービーをMagrantが撮ってくれたし、音楽もotocoがめちゃくちゃカッコいいものを仕上げてくれたので、それはクアドラだけでは実現できなかったことですよね。

圡田__映像を専門にしている会社と組むと、ここまでクオリティの高いものができるのかという驚きがありました。あと、私がつくったロゴを最後にかっこよく入れてもらえたのも嬉しかったです。

清水__ARに関してもCGを映像として動かす技術はクアドラにはないですし、発想の部分でもMagrantの力があったから広がりを持たせることができたと思います。あと、音楽もすごく良いですよね。最終的に自分たちの実績になるというゴールがあったので、全社が同じ熱量で取り組めたのかなと。

━━「manekiNEO」は特定の場所に足を運んでアプリを起動すると、その場所をモチーフにしたCG映像と音楽を楽しめる仕掛けになっています。現状では、その土地に足を運んでARを楽しめるのが6店舗。Web上で遊べるARが3つ用意されています。今後はどのような展開を期待していますか?

阿部__パッと思いつくものだと、スタンプラリー的に複数の場所を回ったらクーポンがもらえるとか、謎解きゲームとかに活用できるんじゃないかなと考えています。

清水__そういう意味では行政を巻き込んだ施策は相性が良いと思います。あとは各地にチェーン展開している店舗も面白いですよね。いくつかの店舗を巡るとプレゼントが受け取れるようになるとか。加えて言うなら、ARの魅力って場所や時間を拡張できることにあると思うんですね。そういう意味では、この「manekiNEO」を使うことでそれぞれの土地が持つ過去の記録や未来のビジョンを映し出すことができるんじゃないかなって。

━━観光地であれば案内板としての役割を果たせるし、建築中の建物の完成イメージを拡張して伝えられるかもしれないですよね。

阿部__逆に何もない空き地を活用するのも面白いですよね。デジタルだからこそ、幅広く活用できるんじゃないかなと思います。

清水__こうして形にできたことがひとつ大きいと思っていて。今回は中目黒にあるいくつかの店舗の方々にご協力いただいたのですが、最初に話を持ちかけたときに「ARが何かよくわかんないけどいいんじゃないですか」みたいな反応だったんですね。でも、次からは映像を見せて説明することができるので、興味を持ってくださる人も増えるんじゃないかなと期待しています。

阿部__これまでも自社プロジェクトをいくつか手がけてきましたが、いつも発表することがゴールになっていて、その後の計画が何もできていませんでした。でも、それだと一瞬の盛り上がりで終わってしまうので、この「manekiNEO」は次につなげるアクションを自分たちから起こしていきたいと考えています。2022年も何か発表できたらいいですね。

取材・文:村上広大


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