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Little Simz - Sometimes I Might Be Introvert

冒頭のギャングスタな感じとか、続くスウィートなフィメール・ボーカルをフィーチャーする手法は、まんま00年代初頭のヒップホップ界隈の空気感なわけで、彼女自身、94年生まれで、それより以前の音楽についてはあんまり詳しくないとどこかのインタビューで語っていたと思うけれど、マーヴィン・ゲイやEW&Fやロイ・エアーズらのレアグルーヴな雰囲気の横溢したこのテクスチャーは、たぶん直接それらから持ってきたわけではなくて、もっと現実的な近さの過去、20数年前とかに、メアリー・J・ブライジとかコモンとかマーダー・インク界隈とか、その辺でサンプリングされていたサウンドをまた引きしているんじゃないかと。ファンシーなインタールードもおとぎ話のようなディズニーとかの映画音楽をほうふつとさせる。それらはもっと遠い昔から繰り返し焼き直されてきたものだけれど、彼女にとっての直接というのは00年代前後にその原風景があった、ということなんじゃないか。そう考えて実りがあったなと思うのは、正しくこの継承の役割が20数年を経て果たせたのはサンプリングというやり口が吟遊詩人めいて感じられるからで、新進気鋭を追求しながらも、根っこのとこはちゃんと大切にしているようなバランス感覚みたいなのは、じっさい簡単に十年一日の如きありきたりと片付けるわけにはゆかない魅力に溢れている。
で、彼女自身のサウンドで特徴的なのは、これも単に結果論で、意図とか関係ないかも知れないのだが、方法論としてはかなり00年代然とした構造の素材のひとつひとつが、純粋にめちゃくちゃに音が良い。古いレコードからちょっとノスタルジックにパチパチとノイズが弾けつつ流れてきてほしいフレーズのひとつひとつが、イヤホンをしていると生音みたいに耳元で鳴る。これはちょっと不思議な感じがする。
それから、また別の話だが、これがアルバムを通して聴くしかないコンセプチュアルなものだというのも示唆的。インタールードというかスキットというか、どんどん手早く短く消費される方へ向かうような時代の先端を走りつつ逆行するかの、こういう物語的な嗜好にばっちり焦点を合わせているのは安心感がある。
蛇足だが、コワモテになればなるほどキュートさが増してゆくように思えてならないギャップ萌えみたいな感性は、寧ろ受け手側に拠るものなのかもだが、如何ともし難い、しかたのないことだ。

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