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終わりと始まりのあいだ
夏の朝帰りはたいへん気持ちいい。
思えば、朝帰りの日はいつも晴れている。
このままずっと、ここでこうして眠っていられたらな。
何もかもがどうでもよくなってしまう、だるくてやさしい夜が明けたら、わたしは少しだけ急いでうちに帰る。
誰かとの一日がまた始まってしまう前に。
ラッシュの時間帯に、空いているほうの電車に乗って、スタート地点に戻る。
雨に濡らしてしまった日傘を乾かすこと。
コンビニで支払
目を閉じるとおじさんがいる
さいきん、目を閉じるとおじさんがいる。
目の前にいる。
おじさんは小さく、白黒で、ちょび髭を生やしている。
鼻炎薬カプセルみたいな形をしていて、首のようなつなぎ目はない。
手足は塩こんぶみたいなのがぴょろぴょろ出ているだけだ。
口元がどうなっているのかわからない。
笑っていないけれど、怒ってもいないと思う。
細くて短いまつ毛が2本、くるんと上を向いている。
おじさんはイスに座っている。
キャ
シャワーヘッド 20170821
実は、うちにはシャワーヘッドがなかった。
いやいや、最初はあったんだ。 「なにやらボイラーがおかしい」 「お湯が出ないぞ」 とざわついていたとき、原因をシャワーヘッドだと見抜いた知り合いの手によって外された。
京都旅行から帰ってきたわたしが見たのは、先端が銀色に光るホースだった。
以来、わたしたちはホースで水浴びしていたわけで。シャワーヘッドがないことは日に日に自然になっていった。
案外ホ
ひとしずく 20170517
コンプレックスというものは誰もが何かしらに対して抱いているのだろう。
彼女のそれはまた違う。
たとえば、腕が3本あればいいのに。
たとえば、超能力があればいいのに。
悩む隙のない、諦めたもの。
彼女は自分の睫毛をそういうものと捉えていた。
睫毛が長い人は美しくて憧れだ。
睫毛の多い人が羨ましい。
そんな思いはとっくに消化済みなのだ。
前向きな諦めなの、と言う。
これ以上減らさないよ
およぐ人、はしる人 20170414
指先に力を入れる余裕がない。水の抵抗を考えられない。今までどうやって進んできたのか、浮いていたのかと、不思議に思うほどもがき溺れている。絶望という言葉を思い浮かべる暇もないわたしは、確実に「ひとり」だ。
負荷がかかると、まったく新しいことをしたように戸惑う。無意識に出来ていたことが出来なくなり、ああそうだ、「当たり前」なんて無いんだったと気づく。わかっているつもりでわかっていなかった、知っている
忘れたくないこと 20170424
「ここのコーヒーおいしいの。」
「ここの卵かけごはん食べてほしい。」
ただそれを伝えるだけなのに、堪えきれないという風に笑います。
駅でまちあわせだと思っていたのに、着いたら「まず南口を出て歩きます」とメッセージを送ってきて自分のいるところまでわたしを歩かせます。
おすすめのメニューをたんと頼んでおきながら、「ご飯を食べてきたわけではないけれど気分的に食べたくない」といってわたしの胃を困らせ
命の範囲はどこからどこまでか
大切なものを増やすのが本当に苦手だ。
わたしはとても臆病だ。
自分で「恋人」や「友達」と定めたものに対してどう向き合えばいいのかわからない。
優先順位を決めることができず、そのしゅんかん、いちばんちかくにあるものしか大切にできないときが多くある。
遠くで悲しんでいる人に、本当の意味で寄り添えない。
顔が見えない人に思いを馳せることができない。
目の前で涙を流している見知らぬ人に、心を持って