見出し画像

指す順6th 自戦記(第3回戦)

決戦の前々日、昼食の鶏混ぜご飯の残りを
おにぎりにして夕飯にした。それを咀嚼していた私は異物感に気がついた。なんと、銀歯の被せ物が取れてしまったのだ。私は焦って行きつけの
歯医者に電話した。最短の予約は土曜の午前中。
決戦当日ではないか。治療の内容次第では、
対局に支障をきたす可能性がある。そして対局日に『はいしゃ』とは実に縁起が悪い。
しかし、そんなこと言っている場合ではない。

対局当日、予約ギリギリの朝10時に起床した。
眠い目をこすりながら、歯医者に向かった。
なぜ歯医者というのは、わざわざ予約をさせておきながら、そこそこ長い時間を待たせるのか。
少し苛立ちを覚えた私だったが、そこは耐えた。

名前を呼ばれ、診察が始まる。取れた銀歯の
被せ物を女医の先生に渡し、これを元の場所に
埋められるのなら話は早い。しかし女医の先生は見逃さなかった。被せ物の下に虫歯、さらにその下に横から伸びた親知らずが…これを抜かないことには虫歯を治療できない。そして、傷だらけの被せ物も新調する必要がある。

親知らずを抜く手術を大学病院で行う方向で
話が進んだが、最短で8月後半とのこと。
抜歯しなければいけないというストレスを抱えながら、1ヶ月以上過ごさなければならない。
抜歯には辛い思い出がたくさんある。
このような精神状態で、果たしてまともな将棋が
指せるのだろうか。不安で心が押し潰されそうそうになりながら対局の開始時刻を迎えた。

前置きが長くなってしまい、大変申し訳ない。
この日に向けて2週間、地獄の研究会(名前はまだない)で『対穴熊』『相穴熊』を想定した練習対局と検討を重ね、何連敗したかわからない。
ちょっと凹みすぎて気を使わせてしまったことは激しく反省している。いやマジで。

前日の研究会では、ある程度の結論が出た。
『居飛車穴熊』には、こちらも『中飛車穴熊』にするのが現時点でベストというか、少なくとも、序中盤でそこまで悪くはならないだろうという見解だった。

ついに対局開始。こちらが『先手』となった。
まずはレートの差に萎縮しながらも、こんなことに怯んでいるようでは、抜歯なんかできないと思い、当然こちらの初手は▲5六歩だ。
お相手は△8四歩、居飛車はほぼ確定だ。
▲7六歩△3四歩とお互いの角道を開けて、
▲5五歩と角道を一旦、遮断した。
△6ニ銀にようやく▲5八飛で中飛車にできた。
△4ニ玉▲4八玉で囲い合う流れになってきた。
さぁ、お待ちかねの『相穴熊』の始まりだ!!

△3ニ玉▲3八玉に△8五歩と飛車先を突いてきたので、▲7七角と上がった。△5ニ金右に▲6八銀と攻めの準備をした。△4四歩と角道を止めてきたところで少し迷った。▲5四歩と仕掛けたくなる病を患っているのだ。だがしかしたかし、ここは我慢。良し悪しは何とも言えないが、▲4六歩とした。ここで△3三角を見て確信した。

「ははーん、これは熊ですね…熊りますよね…」
▲5七銀と攻め駒を進め、△2ニ玉と寄った。
▲5六銀とさらに前線に進め、△4三金と上がった手に対し、▲2八玉と寄ってこちらも囲い合う…
つもりだった。△5一銀と引かれた手に欲が出た。
元気いっぱい▲6五銀と出てしまった。
これはもう病気のようなものだ。
『後先考えず、攻めたい時に攻める病』だ。
これが失敗の始まりだった…(気がする)

△4ニ銀と囲いに合流し、▲5四歩と仕掛けた。
(え?まだこっち囲ってないやん…)と
もう1人の私が囁いたが、聞こえないふりした。
手抜いて△3ニ金と囲いを堅められたので、
▲7六歩とした。これは後々、飛車浮いて回って、石田流っぽくする狙いがあったが、もちろん明確なビジョンがあったわけではない。

△8六歩と突き捨ててきたので、▲同歩とした。
ここで△5四歩と取り込んできたので、ついに
待望の金銀交換チャンス到来。(交換して本当に得なのかは置いておくとして)▲同銀、△同金、
▲同飛と進んだところで、△7六銀。
これは困った。▲5一角と引いたが、△5三歩と打たれ、飛車も引くしかない。△6七銀を警戒して、
▲5七飛としたが、非常に微妙な気がしていた。

すかさず△4五歩と角道を開けてこられたところで、6六に金を打つか、7七にするか悩んだ末、
▲7七金とした。△同銀成、▲同角に△4六歩と
囲いに迫ってきた。いや、これは囲いと呼べる代物ではない。

縄文土器弥生土器、どっちが好きかと聞かれたら、どっちも土器だが、美濃囲い穴熊、どっちにするかと聞かれて、どっちも選ばずに囲いになれなかった姿だ。

ここでヤケクソの▲3三角成!!!
これはもう少し考えるべきだったかもしれない。
△同桂に、交換した角をもう一度7七に打った。
飛車走りを防ぐのと同時に、どこかのタイミングでうっかり3三の桂馬がピョンピョンしてくれるのを祈った手だったが、現実はそう甘くはない。
△8八歩と手筋っぽい嫌なやつ。
▲同角と応じるしかなさそうで、結局、
△8六飛と走られてしまった。

当初の予定では、囲いに合流するはずだった左金を仕方なく、角の隣にそっと添えて一安心…と思いきや、△4七歩成▲同飛△6九角!!!
パッと見た感じ、絶望的なポジショニング。
焦った私はとりあえずコーヒーを飲んだ。
そこそこ苦かったが、それと同時に、
「▲4八飛でよくないこれ?これよくない?
よくなくなくなくなくなくない?」と脳内の
スチャダラパー featuring 小沢健二が囁いた。

△7八角成、▲同飛、△8七金、もちろん痛い。
わかってたとはいえ、飛車か角、どちらか片方しか救ってあげることはできない。ならば、最後に記念の王手!!!本日二度目の角ダイブ。
△同銀に▲5八飛と回った。ただ逃げているわけではない。どこか良さげなタイミングで▲5三飛成を狙っている。いけるならすぐにでもいく覚悟だ。

△7八金…これは明らかなる罠だ。▲同飛に
△8九飛成が飛車当たりになる。これはマズイ。
ここで勝負するしか勝ち目はなさそうと判断し、
▲5三飛成を決行したが、もちろん△8九飛成としてきた。美濃囲いっぽく▲3八銀とするのも考えたが、いまさら感がハンパないので、▲5九歩と何かそれっぽい受けになりそうな手を指した。
△4七歩と垂らしてきたので、「怖いなー怖いなー」と脳内の稲川淳二が囁きかけてきたが、とりあえず無視して▲6六角を打った。

狙いとしては、9九の香車を守るのと同時に、
4八の地点をに何か打ち込まれた時に働いてくれそうというのともう一つ、やはり3三の銀がうっかりどこかに動いてくれるの待ちだ。そこで△3六桂…これは明らかに何か狙いがあると睨んだ。
取ると、△6四角の王手龍取りがあるが、龍で角を取っておけば、桂馬はタダでゲットできると考えたので、恐かったが、取ってみることにした。

読み通りの進行となり、△6四同歩と龍を取った。
そこで▲2五桂『タラレバの桂』の手筋だ。
もし仮に、△2四銀と避けてくれれば、
王手放置で勝てるという特殊な手筋だ。
本譜、そんなミラクルは起こらない。
▲6八飛と王手をされた。悩ましい。
ここでまたまた美濃囲いっぽくする手もあるが、
やっぱりしたくない。何となく、美濃囲いを捨てた男として、それは許されない気がして、
そっと▲4八歩と合わせた。

△6七飛成と角に当ててこられたが、ここが反撃のチャンスと見た。▲3三桂成、△同金からの本日
三度目の角ダイブ!!!△同玉から詰み筋を考えた。こちらの方が残り時間に少しアドバンテージがあったことが幸運だった。

何度も書いているが、私の終盤力はゴミ屑以下だ。普通に読んでも寄せれるわけがない。そこで逆に、私がやらなそうな手から考えた。やりそうな手だと桂打ち、意外と角打ちは考えない。そしてもう一つ、将来的に王手が途切れた時、5五に角を打たれるとマズそうな予感がしていた。

『敵の打ちたいところに打て』
『ワクチンは打てる時に打て』
だ。
△4四金と合駒されたので、▲4五桂とよくある手筋っぽいやつを打った。△4三玉と寄られたので、
広いところに逃げられないよう、▲5三金を打った。△3ニ玉に▲3三銀、ここまでは順調に読み通りだった。△2一玉に少し悩みながらも、最後の守りを剥がす為に▲2ニ銀打と銀を重ねた。

ここで△1ニ玉とされた時にどうするかが、
完全に読み切れていなかった。恐らく▲3一銀不成とすれば、必至っぽい感じになるような気はしていたが、そこで攻めに転じられると、自玉がどれくらい安全なのかが、正直よくわからなかった。
本譜は△2ニ同銀と取ってくれたので、そこからは読み筋通りに進めることができた。

▲同銀、△同玉、▲4四角、△3一玉、▲2ニ銀、
△4一玉、▲4ニ金までで、何とか今期2勝目を
あげることができた。

これもひとえに、忙しい中、私のようなミジンコのために集まって、研究会(そろそろ名前つけたい)に付き合ってくださった皆様のおかげなので、本当に感謝しかない。(穴熊にしなくて、
まことにすいまめーん)

また、毎日ひたすら1手詰ハンドブック300問
3手詰ハンドブック2種各200問計700問
『駒サプリ』でひたすら毎日解き続けたことも
決してムダじゃなかったのだと思う。(多分)

今回は日付を跨ぐ前に書き終わりたかったが、
何やかんやでこんな時間だ。(深夜3時33分)
かなり長くなってしまったが、
親知らずの抜歯が憂鬱でたまらない。

この記事が参加している募集

将棋がスキ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?