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私の好きなミルクさんの歌 009

この歌は「エール」と銘打たれた応援歌の中の一首です。

・出る杭を弾いて響くオルゴール未来を鳴らせゼンマイを巻け

 ぶっきらぼうな命令口調が続く、ミルクさんには珍しい形の歌ですが初っ端から攻める言葉で一気に畳みかけます。
若さや未熟さに尻込みせず、出る杭になれ。そうでなければオルゴールの音も鳴らせないではないか、未来に向かって力強くゼンマイを巻くのだ。という歌意だと想像できますが、
「出る杭」じゃないと「音が鳴らない」なんて、まさにミルクさんならではのご指摘です。
(オルゴール、何十年かぶりに見なおしました。)
確かに円筒形の原盤にはたくさんの突起があって、振動子がそれに乗って弾かれて音が響きます。
当たり障りのないように安全地帯ばかりを探して歩く若者が多い中で、杭となって抗うことは勇気のいることでしょう。それでも人生が鳴らないオルゴールで終わるよりは、ゼンマイが動く限り音を響かせ続ける存在であって欲しいという応援歌なのでしょう。

投げやりな命令形のスローガンとも思われがちですが、普通のスローガンのような短歌にはない気付きを伴うのがミルクさんの作歌信条の顕れだと思います。

オルゴール繋がりではもう一首、素敵な歌があります。

・不意に鳴る隠してあったオルゴール 胸の奥底に着く第一波

 誰しもにこんな経験があるのではないでしょうか。
何かの拍子にゼンマイの残りが目覚め、ほんの数音だけ音が響きます。
一人で何かをしている時に限って起こるような気もします。進行形の今から離れて、割り込んだオルゴールの音色はまるで湖に投げた石のように静かな水面を乱して沈んでいきます。

(不意に鳴る)の観察力、(隠してあった)と対の(奥底)、(第一波)に誘発される金属の断続的な響き、構成もさることながら、今この場所で起こったかのようなライブ感を伴っているのも、ミルクさんの歌の魅力の一つです。臨場感や現実感、質量感というリアリティが、きちんとした圧力として伝わってきます。
それはミルクさんが世界共通の単位のような、普通のありふれた言葉ばかりを使って作歌しているからこそ伝わるのだと思います。

どんなに魅力的な言葉があったとしても、普段の生活と程遠い言葉であればそれはリアリティとはかけ離れた絵空事を巻き付けてしまいがちです。一旦絵空事だと解れば途端に共感は逃げ去っていき、意識は手の中の小さなスノードームに閉じ込められてしまうのです。

まぁ、そうは言っても短歌を投稿している人達のほぼ全てが、スノードームの中の世界が大好きなようなので、逆に閉じ込められることを喜んでいるのかもしれませんが・・・。

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/