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宇宙飛行士挑戦コミュニティ AIM (前編)[中澤淳一郎]

宇宙メルマガTHE VOYAGEとFFS理論の古野俊幸さんとのコラボ企画として、2022年2月にオンライン開催した「宇宙飛行士への転職応援!FFS理論をもとに月面遭難脱出ワークショップで自己分析」にご参加頂いた内山崇さんと、宇宙飛行士挑戦コミュニティAIMのコミュニティメンバー、足立憲正さんにAIMについて取材させて頂きました。

2021年10月から本格始動した『宇宙飛行士挑戦コミュニティ AIM(Astronaut In the Making)』
今回の前編ではコミュニティの設立の経緯・活動内容・参加メンバーについて、Space Seedlings(SS)の中澤淳一郎が初取材。
4月に締め切られたJAXAの宇宙飛行士募集には応募総数4,127名がエントリー。そのうち書類選抜合格者数は2,266名。5月初旬には第0次選抜の英語試験がオンラインで実施され、英語試験合格者のみが次の一般教養試験等に進むこととなっています。
多くの方々が今回の宇宙飛行士募集に注目している中で、本気で宇宙飛行士を目指す人が集うAIMについてご紹介していきます。

AIM設立の経緯
 AIM(エイ・アイ・エム)の設立には内山崇さんの熱い想いもさることながら、AIM参加者である足立さんも大きく関わっていたそうです。
 内山さんはこれまで宇宙飛行士選抜ファイナリストという自身の経験をもとに、宇宙飛行士エバンジェリスト(伝導者)として書籍の執筆だけでなく様々なメディアを通じて本気で宇宙飛行士になりたいと思っている方々に様々なメッセージを伝えてきました。

宇宙飛行士選抜試験-ファイナリストの消えない記憶
内山崇/SBクリエイティブ

ただ、その頃は内山さんの方から一方通行で情報を伝える形になっていたと言います。そんな折に、次年度におよそ10年ぶりに宇宙飛行士選抜試験が執り行われるとのニュースが。
 それを聞き、
「もし宇宙飛行士選抜に挑戦する人たちが、互いに情報交換しつつ切磋琢磨すれば、険しい山の頂に挑めるのではないか。そんなコミュニティがあれば、、、」
 と考えたのがAIM参加者の足立憲正さんでした。足立さんは当時、内山さんのエバンジェリストマガジンの読者でした。
 足立さんは言います。
「マガジンを拝読させてもらっていたのですが、私にとって内山さんは本の中の遠い人でした。そんな内山さんと直接やりとりさせてもらいたいというのと、宇宙飛行士選抜に挑戦する人たちの横の繋がりがあればいいかなと思い、メッセンジャーでいきなり不躾だったんですが連絡させてもらいました笑」
 この一言が決め手となり、AIMの発足につながったそうです。

note 宇宙飛行士挑戦エバンジェリストマガジン/ 内山崇

AIMの活動内容
 AIMでは、月に2回ほど「内山からのお題」として、宇宙業界に関する答えのない問題や宇宙に関連するニュースについて、自分が宇宙飛行士だったらどう答えるのか、しっかり深掘りして考え議論する場を設けているそうです。ただこれまで一年ほど活動を続けてきた中で、手探りの部分も多かったと内山さんは言います。選抜のプロセスが進むにつれ、参加者の求めるものが変化することが想像されるため、月1〜2回のミーティングを行い、どんな活動をしていくのか参加者と相談しながら、相互コミュニケーションを取りながら運営しているそうです。
 先日中澤が参加させていただいた4月24日のAIMミーティングは、宇宙飛行士選抜書類審査の直後の開催でした。参加者の合否の共有の際には、「落ちた」「受かった」、その情報だけでなく、各人がこの選抜にいかに情熱を持って取り組まれてきたかが、部外者の私にもひしひしと伝わってきました。一つ一つの言葉に込められた魂の密度にただただ圧倒されました。あの場で、選抜の当事者たちが仲間の思いを聞き、いかに心を燃やしていたか。みなさんにも想像してみていただきたい。

「内山からのお題」とは
 お題のテーマは多岐に渡るそうです。そのうちの一つを紹介していただきました。内山からのお題「JAXAチャンネルの再生回数を伸ばすにはどうすれば良いか?」
 例えば宇宙飛行士が宇宙から帰還する度、報告会を実施しその動画はJAXAのYoutubeアカウントにアップロードされますが、その視聴者はおおよそ1万人ほど。Youtube業界では少ないと内山さんは言います。あれだけ魅力的なコンテンツが既にある上で、なぜそこまで伸びないのか。ここから5万人、10万人へと視聴者数を伸ばすためにはどうすればよいのか。そういったことをAIM内では議論しているそうです。

▲内山さんからコミュニティメンバーへのお題

「これから有人宇宙探査の機運を上げていきたいという今回の背景も考えると、宇宙飛行士にはプロモ的な能力も重要だと思うようになりました。こうした議論を経たAIM参加者が、選抜の中でJAXA側に提案なんてできたらいいですよね笑」と、内山さんは言います。
 一方で、足立さんにも印象に残ったお題について伺ってみました。
『月におりたったとき、あなたならどんな一言を述べますか?』というお題が印象に残っています。高校生の頃からずっと宇宙に憧れていたので、『ずっと会いたかった』と言いたいですね。
 足立さんが少年時代より湛えてきたロマンチシズムが垣間見えます。しかし、内山さんにはロマンチシズムにとどまらない、ある「狙い」があったようです。

事前のシミュレーション
「ちなみに、内山さんは、月に降り立った際にはどんな一言を考えていますか?」
 そんな中澤の間の抜けた質問に、内山さんは意外な答えを返します。
「実は考えていないんですよね笑 課題として出してはいましたが、準備した言葉ではなくてその時に感じたこと、その時の気持ちを、パワーワードで語る能力が求められると思うんです。はやぶさ2の津田プロマネも言うんですよ。練りに練ったものほど刺さらないって。事前に考えているとやらしさがでちゃうんですね笑。ただ、事前に何度も何度もシミュレーションをしておいて、その結果、心の底から出た一言というものに価値があると思います。事前に苦心して考えておく、そのプロセスが重要なんだと思います。」
それに対して中澤。
「ただ、国を背負って立つ宇宙飛行士と考えると、しっかり準備したものを話すべきかとも思ってしまいますが。」
 生意気である。
 世間知らずの青年を相手に、内山さんはこう諭します。
「まさに、そういう議論が起きることが重要なんです笑。事前に準備されたものを『言わされている』感、それがJAXAのYoutubeを伸び悩ませているとも思うんです。内容がいかに優等生で素晴らしいものであっても、自分の心から出たものじゃないことがわかってしまうと冷めちゃいますよね。」
 AIM内で議論される「内山からのお題」。宇宙飛行士の選抜には直接は関係なさそうな内容でも、本質はしっかりと共有されていました。AIMはまさに、将来の宇宙飛行士たちが、宇宙業界の抱える問題点について議論できる場になっているようです。
    
参加者の目線
 AIMにすでに3ヶ月以上参加されている足立さんに、参加者側の視点でAIMについて評価して頂きました。
足立さん曰く、
「私自身は、2008年の選抜にも応募しましたが、一次で落選してしまった過去があります。その時はやはり個人戦の様相でしたが、今はコミュニティでやり取りできるところが大きいです。3月のエントリー時に自己アピールシートを提出するんですが、自分のものを見てもらったり、他の人のものを見ながら『すごいなあ』と思ったり。もう既に、宇宙飛行士選抜に挑む方々との横の繋がりを持てています。」
 足立さんのコメントを伺う限り、AIM設立時を決定づけた願いは、確かに結実していました。

AIMへの取材・前編はここまで!
後編では、AIMのあり方、宇宙飛行士に求められる資質とそれに対するAIMアプローチについて、内山さんにさらに切り込んで質問していきます。6月号でお届けする後編もどうぞお楽しみ‼

【取材時の様子 左上:内山崇さん 左下:足立憲正さん 右上:SS中澤】


内山 崇
第5期宇宙飛行士選抜ファイナリスト。
1975年新潟生まれ、埼玉育ち。2000年東京大学大学院修士課程修了、同年(株) IHI入社。2008年からJAXA。2008(~9)年第5期JAXA宇宙飛行士選抜試験ファイナリスト(10名)。
宇宙船「こうのとり」フライトディレクタ。2009年技術実証機〜2020年最終9号機までフライトディレクタとして、9機連続成功に導く。現在は、新型宇宙船(HTV-X)開発に携わり、月ステーションGatewayを目指す。
趣味は、バドミントン、ゴルフ、虫採り(カブクワ)、ラーメン。宇宙船よりコントロールの効かない2児(小学生)を相手に、子育て奮闘中。
 
◆著書『宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶』(SB新書)            https://www.amazon.co.jp/dp/481560522X/
◆ 宇宙飛行士挑戦コミュニティ(AIM)運営
https://2008astro-final.com/


足立憲正
自動車メーカーとロボットメーカーでエンジニアとして勤務。その後、次世代の子どもたちへのSTEM教育が、科学技術立国日本の未来を切り拓くとの想いで、ロボット・プログラミング教室を立ち上げ、教育事業に従事。https://j-space.jp/
13年前の宇宙飛行士候補者選抜試験に続き、今回2度目の挑戦。

中澤淳一郎
総合研究大学院大学5年一貫博士課程2年。JAXA宇宙科学研究所にてアストロバイオロジーを志し、宇宙生命探査のためのサンプラー開発に従事している一方、個人的興味から彗星の爆発現象やダイオウイカの生態についても研究している。宇宙生命探査の探査対象天体であるエウロパやエンセラダスといった海洋天体について解説するYoutubeチャンネルも運営中。
海洋天体の歩き方Twitter
https://twitter.com/Hitchhike_guide?t=_lfWIi0X9a3ni9-Li5O-qw&s=09




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