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日本の宇宙ビジネス最前線

(アイキャッチ画像 提供:バスキュール/スカパーJSAT/JAXA)

「今、宇宙ビジネスが熱い!」

最近、このフレーズを良く使わせてもらっています。実際、宇宙ビジネスがメディアで取り上げられる回数も増えました。特に、これまで宇宙に関わりのなかった企業やニュー・スペースと呼ばれる宇宙のベンチャー企業の活躍が目覚ましいです。ビジネスの分野も、ロケットや人工衛星のみならず、地球観測や宇宙ステーションに月探査、さらには、エンターテイメントや衣食住と、多種多様に幅広く拡がっています。今回は、日本の宇宙ビジネス最前線と題して、ワクワクするような日本の宇宙ビジネス、特にJAXAの宇宙ビジネス推進施策「J-SPARC」の枠組みのもと、宇宙ビジネスを目指すプロジェクトを幾つか紹介させていただきます。

「KIBO宇宙放送局」

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©KIBO宇宙放送局

みなさんは、国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟は良くご存じだと思います。この「きぼう」は、スペースシャトルにより3回に分けて運搬され、2009年7月に完成しました。「きぼう」は、ISSの中で、最大の実験モジュールで、船内実験室と船外実験プラットフォームの2つの実験スペースからなり、船内実験室では、実験ラックを使用して微小重力環境や宇宙放射線などを利用した科学実験が、船外実験プラットフォームでは、宇宙空間を長期間利用する実験や天体観測・地球観測などを行っています。さらに「きぼう」は、船内実験室にエアロックを持っており、ロボットアームを操作して、実験装置を出し入れしたり、小型の人工衛星の放出などを行ったりしています。そして、この「きぼう」は、大学や国の研究のみならず、民間企業等がビジネスを目的に利用することもできます。実際に、これまで製薬会社が医薬品の開発に利用したり、広告代理店がCMを撮影するために利用したり、衛星企業の超小型衛星を放出するなどの利用がありました。

みなさんは、某携帯電話会社の白い犬が、宇宙ステーションに滞在する古川聡宇宙飛行士と会話していたCMは覚えてますか?
そして、J-SPARCでは、株式会社バスキュール及びスカパーJSAT株式会社と共創して、「きぼう」を利用して宇宙メディア事業「KIBO宇宙放送局」を立ち上げることとしました。これにより、世界初の宇宙からの双方向での超高画質ライブ番組の配信を実現できるよう取り組んでいます。既に1回目の配信は、「ペルセウス座流星群」が地球に訪れる8月12日の夜に決定していて、メインクルーは、若手人気俳優の中村倫也さんと菅田将暉さん。彼らの姿と声が宇宙に映し出され、そこから地上に向けて番組が配信されます。これを切っ掛けに、これまで宇宙になじみのなかった人々が宇宙を眺めてくれることで、新しい宇宙ビジネスがスタートできるとたいへん嬉しい限りです。繰り返しになりますが、この「きぼう」は、誰でも利用することが可能です。地上400kmの高さで、90分かけて地球を一周します。微小重力環境のため、種も仕掛けも無く、モノが空中を浮遊します。是非多くの人に「きぼう」を利用して欲しいと思っています。

「日本発宇宙観光ビジネス」

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提供:PDエアロスペース(株)/KOIKE TERUMASA DESIGN AND AEROSPACE

宇宙ビジネスを推進するにあたってもっとも重要になるのが、宇宙輸送機(ロケット)です。宇宙輸送機がなければ、そもそも、人工衛星も探査機も人も、宇宙に行くことはできません。また、目的の軌道や惑星に人やモノを送るためには、発射する方向や時間も自由に決めることが大切です。更に、宇宙輸送機の値段は、そのままミッションのコストに乗っかります。このため、宇宙への自由自在なアプローチのためには、いつでも好きな時に好きな方向に発射できる低コストな宇宙輸送機の開発が鍵になります。

J-SPARCでは、北海道大樹町で小型ロケットMOMOの打上げを行っているインターステラテクノロジズ社、和歌山県串本町にロケット発射場「スペースポート紀伊」を建設中のスペースワン社、日本版スペースシャトルを開発しているSPACE WALKER社、宇宙と空をシームレスに繋げる革新的エンジンの開発を行っているPDエアロスペース社の4社と共創活動を行っています。そして、このうちSPACE WALKER社とPDエアロスペース社が、将来の宇宙観光を目指して機体の開発を行っています。宇宙観光に関しては、これまでも数十億円支払って、ISSに1週間滞在できるというビジネスがありましたが、大金持ち限定でした。今年、アメリカのヴァージン・ギャラクティック社は、いよいよ宇宙と地球の境界線である100kmまで行ける宇宙観光フライトをスタートします。日本発の宇宙観光が早く実現できるように我々も頑張っていきたいと思っています。

「月産月消の宇宙食、そして宇宙での生活」

2020-7月号-特集記事-岩本様-SPACEFOODSPHERE

提供:SPACE FOODSPHERE

2040年には、1000人が月面で生活しています。そして、その食卓には、月で栽培された野菜や培養肉が並んでいます。これらは月面の閉鎖環境で作られました。こんな世界はまだまだ先で、とてもビジネスになる感じはしませんが、実はこの閉鎖環境で食べ物を作る技術は、地球上の地震・洪水等被災下での環境やコロナ禍での環境でも応用できるものです。このため、これまで宇宙とは関わりの少なかった食料生産・加工に関わる企業などもJ-SPARCの共創活動に参加してきています。今年4月には、これまでの活動を引き継ぐ形で、一般社団法人SPACE FOODSPHEREが立ち上がり、現在、40以上の企業等が活動を共にしています。今後、研究所なども整備し、新しい宇宙ビジネスの形として推進していきます。

また、今年7月7日には、宇宙での「暮らし・ヘルスケア分野」に係る新たな宇宙関連ビジネスの創出を目指したJ-SPARC活動が開始されました。先日行った宇宙飛行士の座談会では、無重力である宇宙ステーションの方が、地上よりも快適な睡眠ができるという発言がありました。こうした宇宙での生活に対する気づきや経験をもとに、宇宙と地上で共通する「人の暮らし」に対して、新たなソリューションやイノベーションを創出していくことが目的で、ここからも新たな宇宙ビジネスが生まれることを期待しています。


今回、J-SPARC関連の3つの宇宙ビジネスの種を紹介しましたが、まだまだ私たちが気付いていない種は、さまざまな所にたくさん落ちていると思います。宇宙ビジネスを考えるにあたって大切なことは、まだ誰も考えていないこと、気づいていないことを実現すること。そして、周りができないと思っていることほど、チャンスがあると信じることです。

みなさんもチャレンジしてみませんか?
みなさんと一緒にワクワクした宇宙ビジネスの未来を描けると大変うれしいです。

なお、次回8月号にも寄稿予定です。何を書くかは考え中!



2020-7月号-特集記事-岩本様プロフィール画像

岩本裕之(いわもと ひろゆき)

JAXA新事業促進部長。2018年7月より現職。埼玉県与野市(現さいたま市)出身。慶應義塾大学経済学部卒業。1991年宇宙開発事業団(NASDA)入社。入社以来、宇宙の営業マンとして、宇宙技術やデータの民間移管、宇宙ビジネス推進を業務の軸に、パリ駐在員、(財)日本宇宙少年団事務局長、ワシントン駐在員事務所長なども経験。趣味は登山、ギター弾き語りなど。カープファン。

JAXA新事業促進部 Twitter:@jaxabiz

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