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本物

とある河川敷に中学生くらいの少年が2人が会話をしている。
「この間よ、これ拾ったんだよね。」
 Tはそう言って俺に拳銃のレプリカのようなを見せてきた。
「拳銃のレプリカ?」
「そうそう、よく見ると精巧に作られててさ重みもずっしりあるんだよね。」
「へえ。」
 俺はあまり興味は惹かれていなかったからか腑抜けた返事をしてしまった。
「おいおい、もう少しリアクションしてくれよ。俺らまだ15歳なのに18禁のレプリカ手に入れたんだぜ。ここまでワクワクすることないだろ。」
「悪かったよ。それで、そのレプリカはどこで拾ったんだ?」
 Tが話す話は盛りすぎる特徴があるから俺はある程度適当に流していたのだが、これで亀裂が入るのも面倒だと思い、会話を広げた。
「それがさ、俺らの地区ってS組ってヤクザがいるだろ?そこの目の前で拾ったんだよ、すげえだろ?」
「それはすごいな。もしかしたら本物かもな。」
 俺はまたかと思い呆れて適当な返しをした。
「これが本物だったらやばいよ、銃刀法違反ってやつだぜ?俺らも立派な犯罪者だ。」
「俺を含めるな、俺は持ってすらないから無罪だな。」
 しかし、俺はTが持つレプリカとやらの銃を改めて見ると本物に見えてきたし、精巧なレプリカにも見える。不安になってきた。偽物だろうと思いたいが、さっきTが言っていたS組の前で拾ったというのが引っかかってる。
「それ撃ってみたのか?」
 少し不安になったので、安心するために質問をした。
「いや、撃ってないよ。だってよ、本物だったらやべえじゃん。」
Tは笑いながら答えた。
「それはそうだが、本当に本物だったらどうするんだ?本当に捕まるぞ。」
「そしたら俺らは人気者だな。AA中学の生徒二人組が銃所持で逮捕!ってな。」
「むしろ不人気者だ。あと毎回俺を含めるな。俺は所持してないし、触れてもない。」
「そしたらよ、これ撃ってみるか?撃ったら本物か偽物かわかるじゃんよ。」
 俺はゾッとした。Tの発言は予想はできていたが、もし本物だったらと考えてしまい不安が増した。早くこの場を終わらせなければと思い、適当な用事をでっち上げることにした。
「試そうとしてる所悪い、俺この後近所の八百屋でおつかい頼まれてたんだわ。」
 自分にしてはくだらない用事だなと思ったが、Tなら信用してくれるという確信があった。
「ああ、そうだったんか、Kも大変だな。」
よし、これで切り抜けられる。
「ああ、面倒だけど行かなきゃな。」
「じゃあさ、そんなに時間かからないし、一瞬で終わるからさ、一瞬だけ見ててよ。」
 俺はさらにゾッとした。
「一瞬って言葉はな、その人の匙加減なんだ、いつもお前の一瞬はいつも長い。」
「本当に一瞬だけ。お願い。」
もうこうなればなんとか理由付けして帰ろうと試みたがTには通用しなかった。
「わかった、そしたらそこのペットボトル目掛けて撃ってみてよ、一瞬だからな。」
「さすがKわかってくれるじゃん。」
Tは調子のいいことを言いながら銃をペットボトルに向けて構えた。全身に緊張が走る。俺は固唾を呑んで見守っていることしかできない。
「じゃあ撃つよ。」
 Tがカウントし始めた、3、2、と数えたところで突然轟音のような破裂音が響わたった。慌ててTを見たが、Tは発砲するどころか破裂音に驚き先ほど持っていた銃を投げ捨てていた。
「T、お前撃ったのか?」
「撃ってないよ、カウント2で突然音が鳴ったんだ。」
 俺らがこんな会話をしていると町の大人たちがS組が大事な物を失くした組員に粛清をしたぞと叫んでいる。
突然のことで訳が分からなくなったが、俺らはあの銃を置いて急いで帰った。

翌日俺はTと廊下で会った。
「人気者にならなくて良かったな。」
「不人気者でしょ?」

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