
妄想旅へようこそ~自分の価値観をめぐる旅
その日、わたしは東京に泊まっていて、朝起きてコーチングの集中クラスに向かうところだった。
前の日に宮越大樹コーチがいつも講義の前にしてくれる「モーニング漫談」の中で、西表島から由布島に渡ったときの話をしてくれたんだけどね。そこで島を開拓したおじいの生涯に思いを馳せ、涙を浮かべつつ語る師匠の話に耳を傾けながら、わたしの耳には三線の音色が響いていたわけさー。
西表島、石垣島、黒島、竹富島、沖縄本島、座間味島、阿嘉島・・・いろんな島で民宿に泊まったけど、座間味の宿でも、黒島でも、どこでもおばあが味噌汁を作ってくれたっけ。座卓の上の味噌汁を眺めていると、お椀から魚のしっぽが飛び出していて、隣の人のと、入ってる魚の大きさも種類も違うのさ。それって最初は驚いたけれど、考えてみたら当たり前のことさー。
その日、港であがった魚がまちまちなんだからさ。スーパーで買ってきたんとは違うんよ。宿のごはんのおかずが、全員同じでないといけないなんて思い込み、どうしてできたんだろうかね?

・・・それからわたしは、ホテルを出て歌舞伎座の前を通りがかった。玉三郎と勘九郎のポスターがあったんだ。えっ、勘九郎!?いや違うよ、十八代勘三郎はもうとっくに彼岸の人になっていて、これは十九代なんだよ。だけどなんだ、このタイムスリップ感は。玉三郎があまりにも30年前と変わっていないから、わたしの意識は遠い学生時代の、歌舞伎をはじめてここに見に来た頃にまで引き戻されていった。
真夏のカンポ広場で焼かれて
それからわたしは、初めてのユーレイルパスでドイツ・イタリアから中欧をめぐった旅にタイムスリップする。あたしは真昼の人気のないシエナのカンポ広場で寝そべっていて、赤く焼けたレンガの上で真夏の太陽にあぶられながら、広場の搭の先端を眺めていた。そうして、ついに夢見ていた景色の中に入り込んだ自分に酔いしれていたとき、ツレのA子が呟いたんだ。
「ねえ、もうわたし、この旅行に疲れちゃったよ・・・。」

それからA子とはフランクフルトで別れ、目まぐるしく日は昇ってまた沈み、ヨーロッパ大陸からインドネシア・バリ島に渡ったあたしは、デンパサールの夜の空港にひとり降り立っていた。
ニワトリを満載したバスでパラダイスをめざせ
「ああ、こんな真っ暗な空港で、宿も決まってないんだけど~。しまったなぁ。」でも嘆いたって始まらない。ネットも携帯もない時代だよ。あたしはまだ多少、人相のよさげな兄ちゃんのバイクタクシーのケツに飛び乗り、「なんでもいいから、中心部の安宿へ!」と命じて、とにかくその夜はなんとか一夜の寝床を得た。確か、日本円で750円くらいだったと記憶する。
翌朝、さらにバカパッカーは挑み続ける。次は「ツーリスト用でない、ジモティー用のバスで、ウブドを目指すんだ!」デンパサールのバスターミナルを発車して、二輪車に無理やり荷台をつけたみたいな開けっ放しの小型バスにあたしは延々、揺られ続けた。
この乗合ミニバスは辻々で止まって、買い出しに来た田舎の人やら、地元の学生たちを延々乗せたり降ろしたりした。屋根の上に積まれた生きたニワトリやら、生肉をぶら下げたバリ人たちを眺めながら、肉は臭いしお尻は痛いし、さすがにだんだんくたびれてきて、そこはかとない後悔を噛みしめながら。ようやく緑豊かなウブドに降り立ったのは夕方近く、4時間も後のことだった。(タクシーなら直行で1-1時間半程度の行程)

そのあとのウブドはさすが、パラダイスだったよ。迷い込んだ人家で踊りを教えてもらったり、衣装を着せてもらってお祭りに出してもらったり。ひとりでぶらぶらしてたら、しょっちゅうジモティーが構ってくれたっけ。90年代のウブドは観光化されているとはいえ、まだまだ長閑な田舎町で、あたしの夢見た通りの棚田や芸術家の村や、祭礼の日々が、そのまま憧れたとおりに存在していた。

そうか、あれから30年近くも経つんだ。
それからあたしも仕事をしだして、つかの間の休暇の旅行に一流ホテルといわれるところに泊まってみたり、ワイハのコンドミニアムと呼ばれる施設に滞在してみたり、家族で再びバリを訪ねてリゾートしてみたりもしたよ。
ラグジュアリーな体験も、ジャングルトレッキングも、ラフティングツアーも忘れられない味わいがあるけれど、やっぱり忘れられないあたしの旅の「原点」は怖いもの知らずの冒険心で、たったひとりで行き先を踏破していったあの頃のひとつひとつの「経験」と「達成感」と「人との触れあいの記憶」に立ち返っていくのだ。
旅の原点が妄想旅を創りあげる
ひるがえって、このような旅行に簡単に出られない今のような局面にあって、私の理想の旅とはどんなものだろう。銀座を歩きながら、脳内で「妄想旅」に出かけてみる。
歌舞伎座から和光にたどり着くまでに、あたしは南インドからヨーロッパの美術紀行を経て、大西洋を渡ってアメリカの東海岸から西海岸までを横断していた。
そんな自分の理想の旅は、過去のキラキラしたアンダマン海の中の風景や、忘れがたいバリのジモティーとの思い出や、高山病に悩まされながら到達したアンナプルナ山系のビューポイントから見た8,000m級の山々の雄姿などから作られている。それに豪華海辺のホテルで海風に吹かれながら食べたブランチの味わいや、人気のない早朝の哲学の道に咲く桜を独り占めしているところとかをトッピングすることで、さらにグレードアップもしている。
つまりは、だ。私の過去のキラキラ体験のかけらを綴り合せて、その想いや感動の総体として、私は脳内の「妄想旅行」を創りあげているっていうわけだ。

妄想旅から見えてきた自分の価値観
わたしが今、ガッツリ取り組んでいるコーチングでは、「自らの本当の願いを知ることで未来を描き、それを実現するために行動をしていく」ことで人は幸せになれるのだと考え、それを支援しようとする。
「何が自分の本当の願いなのか」、それは人がこれまで生きてきた中での経験、そしてその経験を通じて感じてきた「価値観」によって支えられていることが多い。例えば喜び、楽しさ、共感、達成感、ワクワク感、充実感などを感じた経験は何なのかを振り返ることで、その人が大切にしている「価値観」を導き出すことができる。
過去のワクワクした体験や達成感を感じた体験、人とともに喜び感動できたエピソードを振り返ることで、その人の大切な価値観が見え、それを心の底から追体験することにより、その人が未来の人生で大切にしたいものが見えてくるというわけだ。
この朝、歌舞伎座から銀座3丁目までの間で世界を妄想旅してみたけれど、それはわたし自身の大事な価値観をめぐる旅でもあった。そしてこれから実現したい「未来への旅」を形づくる、たった15分間の短くて長い旅の始まりだったのだと思っている。
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