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廊下の軋み

 私は大学入学を期に亡くなった祖母の一軒家を任される事になった。当初は一人で住んでいたが、しばらくして弟も同居する事となった。一軒家ではあったが部屋はそこまで多くなく、二階の部屋を弟に譲り、私は一階の仏壇がある和室を寝室として使う事になる。


和室に移動してしばるくは何も問題なく過ごした。しかしある日の朝方、寝ているとベッドのすぐ横にある障子の裏側から物音がした。私は目が覚め起き上がろうとした。しかし身体が言うことを利かない。視線だけしか動かす事が出来ない。こちらからは当然見えぬが障子の裏側には廊下がありガラスの窓がある。朝方で陽が少しだけ障子を照らしている。するとその物音が近づいてくるのが分かる。足を大きく踏み鳴らす音だ。廊下の板が「ギィ...ギィ...」と軋む。そしてその音が耳元に入る。
私は初めての金縛りで頭が混乱していた。
加えてこの奇妙な音。声は出ない。
板の軋む音が近づいてくる。音は「ギシ..!ギシ..!」と先程より明らかに大きく、身体に振動が伝わるほど強くなっていた。

何故か吸い寄せられるように視線が障子へ向かう。すると障子越しにゆらゆらと動く影が見える。大きな身体で何かがタコ踊りをするように蠢いている。性別は女だと何故か分かった。髪を振り乱し身体をぐにゃぐにゃと動かし踊り狂っている様に見える。ほんの少しの時間にも関わらず、私にはその動きが長い時間に感じた。するとその影はこちらを向き。障子を開けようとする。私は思わず恐怖で目をつぶる。
ガタガタと障子の開く音が聞こえると同時に身体の縛りがフッと解けた。私は飛び起きすぐさま障子に目をやった。すると全く障子は開いていなかった。身体に脂汗が纏わりついたまましばらく呆然とする。次第に頭も冷えてきた。


もしかしたら弟が庭で何かをしていたのかと思い始めた。夢と現実の狭間があの影を作り出したのだと思い障子を開けた。するとガラス窓には厚いカーテンがかかっていた。外からは何も映らない状態だ。すると弟が2階から降りてきて私の寝室に入ってきた。弟は私に「下からギシギシと大きな足音が聞こえたけど朝から何をしていたの?」と不機嫌そうに問いかけてきた。先程起こった出来事を弟に説明すると呆れ顔で「夢でも見ていたのか」と返された。すると弟の発言を否定するかの様に家のどこからか女のケタケタした笑い声が聞こえ私たちの耳をつんざいた。どうやら私たち以外に同居人がいたようだ。


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