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汲み取り式トイレ

彼女と某野外イベント会場に行った時のOの話だ。その野外イベントは、少しだけ都会と離れた場所で行っていた。天気も良く、会場もほぼ満席だったそうだ。その出来事はちょうどイベントの休憩時間に起きた。休憩時間を利用し、用を足そうとトイレに行く事にした。彼女も誘ったが「私は平気」と言うので1人トイレへ向かった。トイレコーナーに着くと、いくつかのトイレの前で、おびただしい人達が列を成していた。Oは一瞬心が折れそうになったが、ここまで来たら並ぶしかない。しばらく並ぶと前にいた女性が入っていった。そろそろ自分の番だ。そう思い女性が出るのをOは待っていた。

すると女性は思いの外、早くトイレから出てきた。顔をチラリと見ると何だか青ざめた顔をしていたが、特に気にもせずOはトイレに入った。中に入ると当然ではあるが汲み取り式トイレだ。多くの人が入れ替わり立ち替わりで、とても綺麗とは言えない。「ああ、さっきの人は潔癖症だったのかな」など思いながら和式トイレの穴を見る。薄暗く異物臭がほんのり臭う。その臭いにげんなりし、早く済ませ出ようと和式トイレに跨った。用を足そうと踏ん張ると何やら生暖かい風が臀部にかかった。「ん?風か?」Oは反射的にトイレの穴を見た。そしてOは半分おろしたズボンとパンツを上げぬまま、思わず立ち上がった。そのトイレの穴に「顔」が出ていたからだ。スッポリとハマり、まるでバラエティ番組のトイレに模したお笑い芸人の様に。それは色艶の良い、ふくよかな男の顔だった。三日月の様に両目を細め「何だ今度は男か」と捨て台詞を吐き、穴から引っ込んだ。

Oは下半身を露出したまま、呆然とした。
恐々しながら穴を見たが、狭いスペースで人が入る様な隙間はない。ただ異物の臭いがするだけだ。排泄欲も引っ込んでしまい、訳のわからぬままトイレから出た。次の番の中年女性がOの顔を見て不思議な顔をしていた。余程Oが変な顔をしていたのだろう。その瞬間、「ああ、さっきの女性も同じだったのか」と理解した。そのあと少し遠くからトイレを眺めていたが、特にトラブルはなく行列は減って行った。

彼女には「早かったね」と言われたが何も言わずに後半のイベントを楽しんだそうだ。イベントが終わり帰宅する準備をしていると、彼女が「トイレに行ってくる」と言って来た。私は彼女の手を引き、別のトイレへ案内した。いくら無害とは言え、知らない変態男に彼女の尻は見られたくない。Oはそう思ったからだ。それがOの唯一の不思議な体験だ。

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