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映画『EAST MEETS WEST』 岡本喜八の夢と現実(ネタバレ感想文 )

監督:岡本喜八/1995年 日

みんな大好き岡本喜八、晩年の一作。
庵野秀明なんか岡本喜八のことが好き過ぎて、『シン・ゴジラ』(2016年)の博士役(写真)で登場させたばかりか、話自体も『ゴジラ』(1954年)というより、まるで岡本喜八の『日本のいちばん長い日』(1967年)でしたからね。
私も岡本喜八大好きなんですよ。
あ、『ダイナマイトどんどん』でも書いたな。

私は岡本喜八や市川崑や鈴木清順が大好きなんですが、悲しいかな、私が映画館に足繁く通うようになった大学生の頃、彼らは既に「晩年」に差し掛かっていました。
もう、なかなか撮らせてもらえないしね。やっと撮らせてもらえた貴重な新作も老いや衰えを感じる残念な作品だったりしたわけです。

この映画もそうした一作でした。
いや、今回、公開時以来の再鑑賞するまでそう思っていました。

今回改めて観て楽しかった理由は2つ。
私が大人になったこと。西部劇の何たるかが分かるようになったし、役者をゲラゲラ笑って観られました。
もう一つは当時の岡本喜八の事情が分かったこと。

冒頭の歴史的事実(背景)説明のテンポの良さ。勝海舟役の仲代達矢のとぼけた演技。岸部一徳がジョン万次郎だってよ。そういう「喜八節」だけでも面白い。
しかも設定がとてもしっかりしている。史実とフィクションを巧みに組み合わせる面白さ。その上で、西部劇のフォーマットにきちんと則っている。
70歳過ぎてこれだけのオリジナル脚本を書ける体力・気力はすごい。

これ、製作総指揮・奥山和由なんですよね。
当時、風雲児と呼ばれた松竹のプロデューサー。
彼のお陰で、北野武や竹中直人なんかが新人監督としてデビューできたし、藤田敏八とか五社英雄とか今村昌平とか、この映画もそうだけど、ベテラン監督にも撮らせてくれた。それは一映画ファンとして感謝しています。
その反面、金も出すけど口も出したんですよね。ハリウッド型プロデューサー主導の映画製作を目指したんですよ、チーム・オクヤマとかいって。

奥山のおかげで、憧れの西部劇を本場で撮ることができたのは岡本喜八にとって幸せなことだったと思います。
でも、思い通りにいかなかった面もあったのでしょう。
後に岡本喜八は16分短いディレクターズ・カット版を作っています。
正直この映画、中盤は結構タルいんですよね。
私は観ていないんですが、ディレクターズ・カット版の方が面白いそうです。

さらに言うと、この映画の撮影中、岡本喜八は言語障害を起こして硬膜下血腫と診断されたそうです。
プロデューサーの口出しばかりでなく、自身の身体も思うようにならなかったんだろうな。
ちょっと悲しくなってきた。
ついでに言うと(話は横道にそれますが)、この映画の10年後の2005年、岡本喜八は食道ガンで81歳の生涯を閉じるのですが、その最期までの闘病生活と夫婦の物語をNHKが再現ドラマを交えたドキュメンタリーにしています。

2007年2月18日放映
「神様がくれた時間  岡本喜八と妻 がん告知からの300日」

 殺風景な病室ではなく、思い出のいっぱい詰まった自分の家で死を迎えたい。そんな夫の願いを叶えようと、がん告知から300日にわたって在宅介護を懸命に行った妻がいた。平成17年2月に亡くなった岡本喜八監督と、その妻でありプロデューサーのみね子さんだ。大勢の仲間といつも仕事をしていた二人にとって、余命いくばくもない中での最期の日々は、結婚して初めて二人だけがむきあう時間となった。
 夫は、放射線治療もむなしく、症状は次第に悪化、妻のことも認識できなくなっていく。そんな姿を見ながらの介護は、肉体的にも精神的にも非常につらいものだった。いかにして映画監督としての尊厳を守っていくか。いかにして思い出たっぷりの家で安らかに死を迎えられるか。妻は、夫に生きる力がつくように生活や食事を工夫、次回作に予定された映画の台本の読み合わせを繰り返した。今、妻は、夫の闘病を支えた日々を「神様がくれた時間」と実感している。二人にとって、それはかけがえのない時間だったのだ。
 番組では、みね子さんのインタビュー、夫の病状を克明に記した看護日誌、そして、介護の日々を追うドラマも交え、がん告知から死までの300日、一日一日大事に過ごした夫婦の姿を静かに見つめる。

今は残っていないNHKの番組公式サイトから

再現ドラマの喜八役は本田博太郎。みね子夫人役は大谷直子。
本田博太郎はこの映画も含めて、『大誘拐』(91年)、遺作『助太刀屋助六』(2002年)と岡本喜八最晩年の3本出演した喜八組。
そして大谷直子は、デビュー作が岡本喜八の『肉弾』(1968年)でしたからね。
そして私は、この番組のおかげで、岡本喜八の死に目に立ち会えた錯覚に陥っていますよ。

おっと、脱線が過ぎた。

そういうわけでこの『EAST MEETS WEST』、実に喜八節満載なのです。
これは、西部劇好きだった岡本喜八にとって「夢」の企画。
だけど「現実」はいろいろ思い通りにはならなかった。
「夢の企画」は決して「夢の映画」にはならなかった。
そんな印象が残ります。

(2022.11.18 CSにて再鑑賞 ★★★☆☆)

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