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Jazzと公民権運動

卒業論文をちょくちょく書き始めていますが、Jazzと公民権運動の関連性についての思考整理をしたくて、今回書いています。私的には、Jazzは一般のアメリカ社会よりも早くに人種統合が始まったことで、逆説的に公民権運動期においては、黒人Jazzミュージシャンの白人への忖度があった、という仮説を持っています。


マーティン・ルーサー・キング牧師とJazz

公民権運動を語る上で不可欠なのが、キング牧師であることは論を待たないでしょう。そんなキング牧師がJazzについて、1964年のベルリンジャズフェスティバルにおいて次のように言及しています。

Much of the power of our Freedom Movement in the United States has come from this music. It has strengthened us with its sweet rhythms when courage began to fail. It has calmed us with its rich harmonies when spirits were down. And now, Jazz is exported to the world. For in the particular struggle of the Negro in America there is something akin to the universal struggle of modern man.

引用:  https://www.nepm.org/post/dr-martin-luther-king-jr-jazz-and-freedom-movement#stream/0 

”Jazzは合衆国における自由のための運動に大きな力をもたらしてきた。Jazzは今や世界中に輸出されている。というのも、合衆国での黒人の奮闘は、現代人の普遍的な闘争と類似している部分があるからである。” このキング牧師のスピーチは、彼が、Jazzの公民権運動における役割を、ある程度認めていたその証左となるでしょう。

実はキング牧師とエリントンとの間には、関わりがあったらしく、SCLC(南部キリスト教指導者会議)のMarian Loganが、この二人を引き寄せたのだそう。彼女の夫は、エリントンとBilly Strayhornの主治医のArthur Loganであり、Strayhornは、彼に向けての曲である"U.M.M.G."を書いている。

ちなみにこのJazz Partyのアルバム。Dizzy Gillespieとの共演アルバムです。超かっこいい...。


Jazzは本当に黒人の音楽か?

何も、Jazzが黒人起源であることを否定しているわけではありません。ただ、合衆国においてJazzが誕生した理由にどうしても、白人の存在を度外視することは出来ないと考えています。Swing時代には、Benny Goodman や Glenn Miller等、白人リーダーの率いるビッグバンドが大衆に大受けします。本来自分たちの音楽だと思っていた黒人ミュージシャンは当然この状況を面白く思いません。ホテルでの演奏・ラジオ番組への出演も、白人バンドばかりが優先され、金銭的な恩恵はほとんどすべて白人が受けました。

Swing時代後に現れるビバップは、そんな周縁に追いやられた黒人のJazz奪還の動きだと、捉えることも可能なわけです。

the shaping of the bebop aesthetic was grounded in black's musical frustration at being consigned to the margins (or worse) of the Swing Era.

引用:Harvey G. Cohen, Duke Ellington’s America(Chicago and London: The University of Chicago Press,2010) ,p257

このように合衆国でJazzが誕生したその理由には、黒人と白人の相互作用があると思われます。1960年代にはfree jazzが、ブラックナショナリストの政策に利用されます。これはJazzの人種間の相互作用の側面を切り離し、黒人性を正当化するために、芸術が利用された例と言えるでしょう。ただ、音楽と政治は完全には切り離せないとも個人的には感じているので何とも言えませんが...。

Jazzはその初期においては黒人の影響を大きく受けるが、時代が経るにつれて、白人と黒人の相互作用が大きくなり、人種間の関係が複雑にもつれた音楽だと私は考えています。

Jazzにおける忖度

ビバップ以降は、黒人ミュージシャンの活躍が多くなります。以前から大活躍のエリントンを例にしますが、1950年代・60年代において、彼のバンド演奏の聴衆の95%は白人だったという衝撃の事実があります。

In this matter, Ellington also had to consider audience issue. According to numerous observers, Ellington's audience during this period and afterward was usually "95%" white. 

引用:Harvey G. Cohen, Duke Ellington’s America(Chicago and London: The University of Chicago Press,2010) ,p385

Christa R. Gammage は、彼の論文"Freedom Now!: The Function of Jazz in the Civil Rights Movement "において、Jazzにおける人種統合は公民権運動の先駆的存在だったことを示していると主張しています。

確かに、Jazzにおいては、人種統合の時期が一般のアメリカ社会より早かったのは確かですが、逆にこの事実は、黒人ミュージシャンが、白人層とある程度協働していたことの証左でもないでしょうか。エリントンは、1963年のワシントン大行進へ招待されましたが、エリントンはこれを断っています。聴衆の95%が白人であるエリントンは、ある程度白人からの目を気にして、慎重に言動を選んでいたと考えても不思議ではありません。また、Jazzの主な聴衆は、白人のボヘミアと黒人知識人だったという指摘もあります。

John Coltrane や Charles Mingusのように公民権運動と関わりを持っていたJazzミュージシャンもいたことは確かですが、公民権運動と呼応したJazzミュージシャンは大多数だったことはないため、やはりある程度は、白人への忖度があったのではないかというのが、現時点での私の仮説です。



余談ですが公民権運動が、冷戦期と時期が被っていることは、面白い事実が見え隠れしていそうですね(エリントンは、国務省からJazz大使に任命され世界中で演奏旅行をやったんだよな...)。この辺りも思考整理も兼ねて論じたいですね!








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