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心配性な私の験担ぎとピアニッシモ【#忘れられない一本 05】

誰にでも、忘れられない一本がある。
小学生の時に初めて手にしたシャープペンデビューの一本、
持っているだけでクラスの人気者になれた自分史上最強の一本、
受験生時代お守りのように大切にしていた一本。
そんな誰しもが持っている、思い出のシャープペンと、
シャープペンにまつわるストーリーをお届けする連載
#忘れられない一本 」。

ぺんてる社員がリレー方式でお届けしていきます。
第5弾は、ぺんてる入社14年目の、伊藤さん。
あなたの忘れられない一本は、なんですか?

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私は国内のマーケティング部で仕事をしている。
同じ部署で仕事をしているシャープペン担当の後輩から、「noteに載せるための #忘れられない一本 の原稿を書きませんか?」と依頼を受けた。

正直、できるかどうかはわからない。
だけど、引き受けることにした。

理由はちょっと面白そうだったからだ。

だけど、今は少し後悔している。いやー、何を書こう。
正直に言うと、シャープペンに対する知識はそんなにない。

ましてや、山田さんの大作を読んでしまった後で、私は一体何を書けばいいの?はっきり言うが、そんな面白いことは書ける気がしない。

そんなことを思いつつも、とりあえず自分の性格や学生時代の頃、入社した後のことを思い出しながら、つらつらと書いてみることにした。

早速ですが、みなさんには験担ぎ(げんかつぎ)ってありますか?

験を担ぐとは、ちょっとした物事に対して、よい前兆だとか悪い前兆であるとかを気にすること。

私はこれに関して、ちょっと行き過ぎた考えと習性があり、友人から「ちょっと異常じゃない?」とまで言われたことがある。

・毎日、同じ時間の電車、同じ車両に乗る。
→そうじゃないと、電車遅延に合うような気がして怖い。

・会社に行く前にコンビニに寄るが、同じ銘柄のヨーグルトを必ず買う。
→これを食べないと、快腸じゃなくなる気がして不安になる。

・手帳にはこのペン、考え事をするのにはこのペン、誰かに伝言するメモはこのペンと使い分けている。
→決まったペンじゃないと本当の力が出ない気がする(アン○ンマンかな?)

という感じで、験担ぎからは逸脱しまくっているとは自覚しているが、同じことを繰り返すことや同じ物を使い続けることに対して、安心感すら覚えている、ただの小心者なのである。
そして、そういう反復行動が全く苦にならない性格である。

実は趣味がゲームなのだが、ゲーム友達から「音ゲーで同じ曲ばかり叩いてて苦にならないか?」と聞かれたことがある。苦になるどころか、私の場合はイヤホンを挿すのもめんどくさいので音すらオフの状態で、画面上に流れ落ちてくるノーツをひたすら叩くだけの行為を繰り返すことは全く苦ではない。RPGのレベル上げも苦じゃない。

そんなわけで、苦にならないどころか、同じことができなかった時の方が何か悪いことが起こるのではないかと思ってしまうくらいのビビリ気質なのだと自覚している。

ちなみに自分の中で一番長く使っているのは、小学校一年生の時に買ってもらった30年来の「けろけろけろっぴ」のお茶碗だ。これが万が一割れてしまった時は、自分の寿命を心配するレベルの心配性である。

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これを物持ちがいいというか、異常と言うかは置いておいて、ここからが本題。

そんな私が忘れられないシャープペンは、「

「ピアニッシモ」に出会う前に、サイドノックシャーペンは発売されていた。
両親に買ってもらった初めてのサイドノックシャープペンはぺんてるから発売されていた「クイックシャープ」だ。

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子供ながら、凹凸が少ないフォルムと、今まで頭冠にあったノック部がサイドにあることに感動し、愛用していた。だが、この商品、私にとって大きな問題があった。

ノックが重い……。
そして、右手の中指に当たり、手が痛い。見事なペンだこが出来た。

ペンの持ち方が悪い私がいけないのはわかっているが、小学生にとってはものすごくノックが重く硬かったような気がする。あと、大人から見るとカッコイイ色だったのだと思うが、子供だった私にはどうも渋すぎるカラーリングだったので、当時の私にとっては全てが惜しい商品だった。

そんな私が出会った「ピアニッシモ」。
ピアニッシモを手にした時、一番驚いたのはノックの軽さだった。
クイックシャープとは比べ物にならないくらい、ノックが軽かった。無意味に何度もカチカチ押したことを覚えている。
そして、カラーリングがあの当時流行りだったスケルトンカラーだったのも最高にイカしている!と感じていた。テレビCMもやってたし。

当時はピンク色(最近知りましたが、あれは赤なんだって。どういうことよ)のピアニッシモを両親に買ってもらい、大切に…大切に…使いました。

当然、ここで出すくらいだから、今でも大切に持っていると期待するでしょう。

すみません……。一号機はどこかに消えてしまいした。

その理由は、こんなにピアニッシモのことが大好きだったのに、私は二年後、当時大人気だったシャープペンに鞍替えしたんですよ。

PILOT社の「ドクターグリップ」に……。

クラスメイトたちが持っている、『カチ、カチ』と音が鳴るフリシャー(振って芯を出すシャープペン)の魅力に抗えなかったちょろい私は、スケルトンカラーが発売になった途端、速攻鞍替えをした。
またしても、意味もなくドクターグリップをフリフリしては芯を出しまくり、教室の中でフリシャーを持っているという優越感だけに浸る、幸せな時間を2~3年くらい過ごすことになった。

そして、時は流れ、高校生になり再びピアニッシモに出会った。
それはあの頃、女子高生の間でブームになっていたキティちゃんのピアニッシモだった。

ピアニッシモってまだあったのか……。

最初見たとき、失礼ながら、そんなことを思いつつも久しぶりに購入したピアニッシモはやはり手にしっくり収まった。
浮気相手だった彼――ドクターグリップはグリップが破ける程、使い倒し、寿命を全うしていたので、ピアニッシモと付き合うことは浮気ではない。
そんなことを考えながら、今度は自分で稼いだバイト代でピアニッシモを購入した。

そのピアニッシモが私にとって二号機になった。

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今もちゃんと使えるし、使っている。

そこから私とピアニッシモの二号機は切っても切れぬ仲になった。
文章なんてろくすっぽ書いたことがなかったが、大学入試の小論文もこれで乗り切った。

大学に入ってからもこのピアニッシモと戦った。
一年生の頃、遊びとバイトのしすぎで後ろから数えた方が早い学年順位をとってしまい、二年生から必死に勉強した時も、私の手にはピアニッシモが握られていた。
電気回路も電子回路も電磁気学も微分積分も線形代数学も何もかもこのシャープペンで乗り切った。
考えながら勉強をしている時に、サイドノックのほうが指を動かさなくていい分、集中力が途切れなかった。ピアニッシモで私は大学四年間と大学院二年間を乗り切った。

そして、ここで冒頭に戻る。

私にとっての験担ぎ…それはこのピアニッシモだったのだ。

このペンじゃないと本来の力が出せないのではないかという強迫観念にも似た、私の験担ぎシャープペンになってしまっていたのだ。

ピアニッシモと私は切っても切れぬ、深い仲=一連託生なのだ。

キティちゃんの印刷は当然ハゲてしまった、乳白色のピンク色のピアニッシモ。
そんな神聖な力を感じることは到底できないわけだが、私にとっては唯一無二の験担ぎペンであり、戦友になってしまった。

そんなに大好きだったシャープペンだったが、当然どこのメーカーだなんて気にしたことは一切なかった。

実は入社試験を受けようと思い、ぺんてるの製品がどんなものかを調べるまでピアニッシモがぺんてる製だということは知らなかった。

私は電子系の理系大学に通っていた。当然、就職は理系が活躍できる、家電や車などのメーカーを目指す生徒が多く、周りの友人たちもそこを目標に頑張っていた。
だが、私はひょんなことからぺんてるに入社してしまった。

入社理由は、大きなものを作るより、身近に使えるものを作りたい。
自分が作ったものを誰かが使う姿を見てみたいから文具業界を目指した。

なんて、今考えるとおこがましいと思うくらい厳かな志望動機を掲げ、文具メーカーの入社試験を受けたのだ。
しかし、文具業界の中でもあの頃のぺんてるは結構攻めているメーカーだと思っていた。

大学時代のバイト先で文房具を売っていたのだが、ある製品に度肝を抜かれた。

皆さん、ご存知だろうか。

「ヒーリングミックス」……という商品を。

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手に感じる心地よさ。1/fゆらぎを生み出す、新感覚ボールペン。

は……? 何を言ってるの?
最初見た時、「正気か?」と目を疑ったのを今でも覚えている。

しかも、価格は強気の5,000円。

一体、誰が買うんだよ。ってか、1/fってどうやって表すの?

ツッコミどころ満載だったけど、本当に調べてみると1/fゆらぎはあるし、それを大真面目にボールペンで作っていたので「めっちゃ攻めてるなー」と関心した。
とりあえずこの企画にOKのハンコを押した人に会いたい。時代の先取りすぎるだろ。

そして、内定をもらった後に発売になった「エルゴノミックス ウィンググリップ」を見た時は衝撃だった。

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世の中、柔らかいグリップブームだったのに、ぺんてるが出してきたのは某ロボットアニメを彷彿させる、バリバリのメカニックペンだったからだ。
これは一体、誰が買うんだろう……とバイト先で購入者を観察していたが、買っていってくれたのはロボット大好き世代の小学生男子のみ。900円という、またしても強気な価格設定。

攻めすぎてる……。
だが、こういうのは嫌いじゃない。むしろ、好きだ。

人間工学を駆使したペンだと書いてあったが、これは他メーカーの頭一つ、いや二つ抜いていた企画だった気がする。

そんな攻めていた頃の、ぺんてるに入社した。
この会社なら面白い物が作れるかもしれないと期待したからだ。

私が入社した頃もトンチキ……いや、攻め攻めの商品はまだ続いていた。
それが「Ain Supplio(サプリオ)」だ。

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あの頃、香り付き文房具が流行っていたんでしょうか。新入社員研修の一環で営業研修があるのだが、サプリオを売ってこいと言われた。
匂いを閉じ込めたナノカプセルを練りこんだシャープペン替芯という、またしてもぶっ飛んだ企画。
ナノカプセルに入れるものが香りでいいのか? むしろシャープペンの芯に練りこむなんて、誰が考え出したのか。本当に考えた人にもこの企画をOKした人にも会って、握手したい気持ちでワクワクした。
そして、その時、同時発売されたサプリオ芯内蔵のシャープペンがピアニッシモだった。

これは運命かと思った。私の大好きなシャープペン。
入社したその年の営業研修中の新製品で出るなんてラッキーなんて思っていた矢先、その企画を見たセールスから出た言葉に驚きを隠せなかった。

「今更、ピアニッシモなんて売れるわけないだろ」

……ん? どういうこと?

ピアニッシモって、この会社にとって過去の製品なの?

新入社員の当時はわかりませんでした。
社内では当然、ピアニッシモはピークが過ぎた製品として認識されていたのでしょう。
もう、過去の商品になっていた。

だけど、入社したての私にとって、その言葉は衝撃的だったことを未だに覚えている。

山田さんのnoteにも同じようなことが書いてありましたが、発売された商品の行く末はロングセラーか生産販売終了か。

ピアニッシモは残念ながら生産販売終了になってしまった。

私自身、マーケの仕事をするようになってから、色々な製品の誕生や復刻、限定、既存品販促などの企画に携わってきた。
どの製品にも開発・製造・企画・営業の人たちの想いが詰まっているから、本当は全部ロングセラー商品にしてあげたい。――日々、そう想いながら仕事をしている。

だけど、こんなに好きで今でも現役で使っているピアニッシモの存在が消えてしまい、本当に悲しかった。
私にとっては現役で、今でも私の験を担いでくれる、相棒なのだ。

そして、2020年になり、ぺんてるのシャープペンは60周年を迎えることになった。
私は会社で「ピアニッシモが好き」と公言しまくっているのだが、マーケ歴7年の中で一度もシャープペンは担当したことがない。
だけど、現担当者の後輩がそんな記念すべき年にあの「ピアニッシモ」を復活してくれることになった。

それを聞いた時は本当に嬉しかった。

私の相棒が、新時代であるこの令和の世で光を浴びることになったのだ。
こんなに嬉しいことはない。

今の若い学生さんにもこのシャープペンのいいところを知って欲しい。

そして、過去の製品ではなく、今の製品として生き返って欲しい。

そんな風に願っている。
ピアニッシモを生産販売終了ではなく、ロングセラーに変える未来を作って欲しい。

そして、復刻したピアニッシモが誰かの大切な一本になると願っている。

最後に、これは宣伝だが、私は今、画材のマーケティングを担当している。
クレヨンや絵の具も進化を遂げている。
改めて使ってみるとものすごく良くなっている。だから、画材のことも思い出してくれると嬉しい。
そして、私自身も今後あの頃のような攻め攻めな商品を出せるように日々精進していきたいと思っている。

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