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科学者はなぜ神を信じるのか(その2) [2020読了本]

本稿は「科学者はなぜ神を信じるのか(その1)」からの続きとなります。前回は、ニュートンが古典物理学の世界を切り開いたところまでをレビューしました。そこまでの過程では、前提として「(一神教の)神を信じること」は「当たり前」の世界であって、信じる神(宗教的信念)と科学との間の折り合いをどうつけていたのか、というのがポイントでした。まだ未読という方は、下記リンクからご確認いただけますと幸いです。

天動説を中心とした宇宙観は、コペルニクスから続く研究の数々によって大きく覆されることとなり、人類と神の関係を大きく変えてしまいました。特にニュートン力学はその影響がとても強いものでした。このレビューでは、そのニュートン力学に変革を迫ることなった天才たちの仕事と、彼らが神とどうかかわったのかを解説していきたいと思います。

実験のファラデーと数式のマクスウェル

旧約聖書の創世記には「神は光あれといわれた。すると光があった。」という有名な一説があります。皆さんもよくご存じだと思います。このように光と神との関係はとても密接で、光=神のような関係でみなされることもあります。日本でいうと、天照大御神は、普く光をもたらす神ですからね。

さて、この光という概念にも物理学のメスが入り始めます。神の居場所はますます小さくなっていくようです。詳細は、本書を読んでいただけるとさらに楽しめると思うのですが、ここでは光が物理学で解明されていく、その過程を簡単にまとめてみたいと思います。

1、ニュートンが万有引力の法則の中で、遠隔力(接していない物体どうしに働く力)を提唱。

2、シャルル・ド・クーロンが、クーロン力(二つの電荷の間に存在する力)を提唱し、新たな遠隔力が発見される(実はクーロンの研究の12年前にキャベンディッシュが発見していたそうです。びっくり)。

3、ハンス・エルステッドが、磁石が作る磁力の遠隔力は、電気によっても発生することを確認(つまり、電気→磁力、の関係です)。

4、マイケル・ファラデーが、磁石で電気を起こすことを実験で証明(つまり、磁力→電気、の関係です)し、電磁誘導を発見。そして、この力は、遠隔力ではなく、「電磁場」という領域の中で生じる「近接力」であることを実験的に証明。つまり、「電磁場」を発見。さらに、「ファラデーの光磁気効果」によって、光が磁場に影響を受けることを発見。

5、ジェームズ・マクスウェルが、ファラデーの研究結果を、たった4つの微分方程式にまとめる(マクスウェル方程式)。さらに、マクスウェル方程式は、光の運動方程式であることも確認される。これにより光とは、電場と磁場に対して垂直方向に飛ぶ電磁波であることを証明。こうして、こんな秀逸なジョークが誕生。

神は言われた

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そして光があった

遠隔力という従来の発想を逆転させ、それが近接力であることを証明したファラデーも尋常ではありません。また、神の御業を数式で証明してしまったファラデーも天才的です。

ですが、ファラデーは父親の影響でプロテスタントの牧師を補佐する役職についていたそうです。ファラデーは「神と自然は一体である」という信念に従って研究活動を行っていたそうです。

一方、マクスウェルも、大学で聖書と数学や物理学を深く学ぶことで、自然の中に「合理性と一貫性」を発見することは、神の意志を見ることであると信じていたそうです。こうして考えると、この二人の天才についてもニュートンと同じような神に対する考え方を有していたといえます。偉大な神の力、なわけですね。

しかし、二人の天才の研究成果は、ニュートン力学に疑問を向けることとなります。そこで活躍するのが、誰もが知る、世紀の大天才の彼なわけです。

疑いのアインシュタイン

ドイツ南西部で生まれたアインシュタインは、両親ともにユダヤ人だったこともあり、幼いころから聖書の勉強をしていたようです。当初は聖書の言葉に感動して、バイオリンと弾きながら喜びを表し、神を崇拝していたとか。

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しかし、アインシュタインは、ダーウィンの進化論と「神はヒトを土から創造した」という聖書の考えとの矛盾に納得がいかず、聖書を盲目的に信じ形式的な教えを自分に向ける教師に大きなショックをうけたそうです。

また、成長の中でスピノザの決定論的な考え(ニュートン力学的な初期値が決まれば未来は永遠に計算できるというもの)に強い共感を覚えたとか。スピノザは、そうした思考から、教会に破門されたそうです。しかし、レンズの研磨工として働きながら哲学の道を究めていたたとか。男前ですね(スピノザの哲学については以下の書籍がおすすめだそうです)。

スイスの特許庁に職を得たアインシュタインは、潤沢な時間を研究にそそぐことで1905年に「特殊相対性理論」「ブラウン運動」「光電効果理論」の3本の論文を発表します。奇跡の年とも呼ばれるそうです。ニュートンっぽいですね。それぞれの研究の中身は、本書に詳しく解説されています。もしくは、下記の本を参照されるとよいかと思います。

アインシュタインの過ち

さて、ガリレオは「相対性原理」を発見していました。これは、地動説に反対する「地球が動いているなら、なぜ人は立っていられるのか」という批判にこたえるために研究されたものだそうです。しかし、相対性原理は、マクスウェル方程式と矛盾する点が生じました。アインシュタインはこれに対して「すべての慣性系で光速は一定だ」というとんでもない理論でもって回答します。つまり、光には相対性原理が成り立たないというものですね。この考えをベースに特殊相対性理論が生まれます。

特殊相対性理論は、時間や重力という、聖書に記されているような絶対的な神が存在できる場所を奪ってしまうとんでもない理論でした。簡単に言えば、時間も重力も歪むよ、というものです。しかしアインシュタインは、「定常宇宙(宇宙はそのままの状態で存在する)」という先入観から作り出した「アインシュタイン方程式」に大きなミスを犯します。

その後、「シュバルツシルト解(ブラックホール理論を予言する理論)」や「フリードマン宇宙(宇宙は膨張収縮しているという方程式)」の発見が相次ぎます。そして、物理学者でもあり、カトリック教の聖職者でもあったジョルジュ・ルメートルによって「ビックバン理論」がもたらされます。これにはアインシュタインも「我が人生における最大の過ち」と悔やんだそうです。

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さて、このビックバン理論には教会側も素早く反応します。つまり、科学の発見によって存在の場を奪われていた神の最後の居場所が確立したわけです。ビックバン理論は、超高熱の大爆発が大前提となるわけですが、ではその最初の特異点はどのようにしてできたのでしょうか。これはビックバン理論でも説明できない、つまり教会側にしてみれば「これこそ神のなせる御業だ」となったのだそうです。ルメートルは、教皇に対して「それとこれは関係ない」と進言しています。

アインシュタインの神

さて、話を戻しましょう。アインシュタインは自身の研究において、とことんまで神の居場所を狭めていきました。その彼は、神をどう考えていたのでしょうか。本書には、牧師との対話記録が翻訳されています。その特徴的な文章を抜き出してみました(カッコの中がアインシュタインの言葉です)。

「君の言う神とはどういう意味なんだね?」 ──やはり自然法則の創造者と考えていいと思うんですが。「そう思うのはかまわんが、ことわっておくが、私の神は人格的な神ではないよ」
「牧師さん、宇宙的宗教では、宇宙が自然法則に従って合理的であり、人はその法則を使ってともに創造すること以外に教義はない。私にとって神とは、ほかのすべての原因の根底にある、第一原因なんだ。何でも知るだけの力はあるがいまは何もわかっていないと悟ったとき、自分が無限の知恵の海岸の一粒の砂にすぎないと思ったとき、それが宗教者になったときだ。その意味で、私は熱心な修道士の一人だといえる」

この対談からは、アインシュタインが「人の形や擬人化がなされた神」ではない、「自然法則を創り上げ、世界と人を導く何らかの力」を信じていたようにも思えます。こうした考え方は、一神教の世界では受け入れられにくいものなのかもしれませんが、「世の中の普くところに神は宿る」という神道的なというか日本人のもつ宗教観には、スッと理解できるようにも思えます。こうした、東洋思想もしくはアジア的な宗教観念は、この後の物理学の研究にもかなり影響を及ぼすことになるわけです。これは本当に面白いですね。

光は波なの?粒なの?-量子論の誕生-

広大な宇宙の成り立ちを解き明かしたプロセスは、皮肉にも、思いもよらぬ伏兵を発生させます。ご存知、量子論です。これも本文にかなりの分量を割いて説明がなされています。面白いですよ。ここでは、その流れを概略的にお示しします。量子論については、こちらの本もおすすめです。文系の私でもわかりやすく読むことができました。

1、熱代謝についてのキルヒホッフの法則の発見(黒体放射と同等とされる空洞放射を利用して、炉から放射される色から熱温度を推定)。

2、マックス・プランク(量子論の父)は、キルヒホッフの発見を方程式にする。これにより、マクスウェル方程式で「光=波」とされた概念を、「光=粒」と書き換えた(プランクの量子仮説)。

3、ハイリンヒ・ヘルツによって、陰極線の実験が行われる(いわゆるネオンサイン)。レーナルトは、陰極線がいろんな色になるのが、粒子がプラス極に向かう途中でガスの原子と衝突するからだと特定。

4、アインシュタインが光量子仮説を提唱。光は粒だと確証される。

5、しかし、光量子仮説の発表の100年も前、トマス・ヤングは光が「波」であることを実験で証明している。

6、光量子仮説(1905年)からおよそ20年後、ルイ・ド・ブロイは光は粒子でありながら、波のようにもふるまうという、物質波仮説を提唱(1923年)。

ボーアと東洋哲学の関係

さて、光は、粒なのでしょうか?波なのでしょうか?ニールス・ボーアは電子を粒ではなく、波として考えました(1913年)。これにより、運動している電子が、なぜエネルギーを放出させ切って原子がつぶれてしまわないのかを証明できてしまうのです。

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また、電子の波長は電子が1周して戻ってこれるように、必ず整数倍の値をとることもわかりました。さらに、電子は、とびとびの整数の波長を行ったり来たりするので、不連続なスペクトルとなり、輝線が生じることも説明できてしまいます。このボーアのモデルをシュレティンガーが波動方程式としてまとめ上げました(数学的根拠が出来上がる)。

さらに、ハイゼンベルクは「不確定性原理」によって、電子の位置が決まると運動量が決まらず、運動量が決まれば位置が決まらないという関係を見出します。つまり、ニュートン力学による「初期値の設定」はまったく意味をなさなくなってしまいました。さぁ、大変。

ちなみに、ボーア、シュレティンガー、ハイゼンベルグは、東洋思想や東洋哲学にも通じていたそうです。その中でも特に、ものごとが一つには決まらないという二重性を重視し、これを「相補性」と呼んでいます。ここにきて東洋哲学が物理学に顔を出してきたわけですね。

その後、パウリの排他原理に基づいて、ディラックの反粒子の概念が提唱されます。パウリは精神分析家のユングとも親交があったそうです。そしてもちろん「相補性」を重視していたそうです。

逆襲のボーア

さて、アインシュタインは、こうした相補性という考えが許せませんでした。実在論的(目の前に見えているものは観察者の主観とは関係なく実際にそこに実在しているという考え方)思考をもつアインシュタインからすれば、ボーアたちのどっちつかずな意見などもってのほかだったのでしょう。

一方でボーアたちは、実証論的(観察対象が本当に存在しているかは重要ではなく、観察できていることに意味があるとする考え方)思考をもとに研究成果を出しているわけです。これは対立しちゃいますよね。

さて、二人の前哨戦は1927年のソルベイ会議で行われました。

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アインシュタイン「あなたは本当に、神がサイコロ遊びのようなことに頼ると思いますか?」
ボーア「あなたは、物の性質を、いわゆる神の問題に帰するときには、注意が必要だと思いませんか?」

これは会議での実際のやり取りだそうです。おぉぉ、バッチバチですね!そして1930年のソルベイ会議にて、アインシュタインは「箱の中の時計」という思考実験によってボーアをギリギリまで追い詰めます。

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しかし、ボーアは徹夜で反証を考えました。なんとアインシュタインの本丸ともいえる特殊相対性理論を用いてアインシュタインの思考実験を論破して見せたわけです。ボーアすごっい!この流れは、本当に感動しますので、ぜひ本書でお楽しみください。

ところでアインシュタインはなぜこうも量子力学に敵愾心を持っていたのかについては謎なんだそうです。が、著者は次のように推察しています。

想像をたくましくすれば、幼い頃に既存の宗教と決別した彼は、みずから「世界的宗教」を標榜するほどに、彼にとっての神を築きあげていた。それを真っ向から壊しにきたものが量子力学だった、ということではないかとも思うのです。

なるほど、自分にとっての「神」とは面白い発想ですね。このあたりも、前半のコペルニクスたちの時代にはなかった精神性を感じるところです。

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さて、ここまでお読みいただき、お疲れ様でございました。今回も長かったですよね。ですが、、、このタイトルが「その2」となっているのは、「その3」があるからなんです。偉人たちの業績がすごすぎて、どうしても6千字以内でまとまらない。。。

次回「その3」でようやく本書レビューの終わりを迎えます。天才ホーキングと著者の研究と神とのかかわりをまとめる予定です。ご興味があれば是非ご覧ください。記事が完成しましたらリンクを張る予定です。

それでは長い長い文章、読んでいただきありがとうございました。

補足メモ

ビックバン理論(膨張宇宙論)を発見したのはハッブルだというのが一般的だと思います。私も本書を読むまではそう思っていました。しかし、論文の発表は、ルメートルのほうが早かったそうです。しかし、その論文はフランス語の目立たない小さな雑誌。一方、ハッブルは英語の論文で発表したので、こちらに光が先にあたったとか。「光あれ」は世界共通語で発表したほうがいいというのは何とも興味深いものです。

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