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花に嵐のたとえもあるぞ

お別れを歌った曲は数あれど、自分の心にぴったりと合う曲はなかなか見つからない。その中でもあるバンドが歌うお別れは絶品である。ANTENAという。

グッドバイ

最近私生活ですこし寂しいことがあったので、その気持ちに任せて聴いたのが「グッドバイ」という曲だ。ANTENAは心の機微を掬い取るのがうまくて、それは丁寧な歌詞にもシンセサイザーの懐かしいメロディにも表れている。なかでもこの曲はずば抜けていると思う。はじめの数秒で、景色が夕焼けの商店街になる。これは実は、MVの内容と全く同じなのだが、曲だけを聞いたときにこのイメージが浮かぶほど、言葉と音の合わせ方がうまい。

心が傷を作るたび/臆病になって慣れたふり/そんな僕を「冷たいね」と/あなただけが言った                                                      ANTENA「グッドバイ」  引用:https://www.uta-net.com/movie/280288/

この歌詞には自分の生き方が詰まっている。傷つくのを自分が弱いせいにして当たり障りなく接すると、周りは「優しい人」として見てくる。しかしそれは自分のまわりをぐるぐると回るだけの人にとってのことで、わざわざ自分に真っ向からぶつかってきてくれる人にとっては、拒絶されたも同然なのだ。私もこの、人との深いかかわりをどうしても避けがちになる。心にクレーターができるのは自分が弱いせいだから。そう言い聞かせてたまたま飛んできた隕石も、せっかく自分めがけて着陸しようとしてくれた宇宙船も、ただクレーターを作るものとして見過ごして悲しませてきたと思う。そうして気づいたときにはもう遅くて、宇宙船は離陸し、クレーターだけが残る。

MVの公開が終了してしまったことも含めて、お別れを表現しているようでなおさら寂しい。冒頭で京王線の「高尾山口方面です」と聞こえる風景がいとおしかった。グッドバイ。

ぼやけた朝陽

誇張なく言うと、これは聴いただけで一本の映画を見るのと同等の体験ができます。映画を見る時間がない人におすすめの一曲です。こんなふざけた言い方は抜きにしても、聴いているうちに、お別れを決めた二人の出会う前、出会いからの過ごした日々やすれ違い、のっぴきならない人生が脳内に流れ込んでくる。次の瞬間自分は傷心で部屋のベッドにうずくまっている。

起きたらもう夕暮れ近くで/あなたと夢でも会えなかった/離れていった気持ちは考えても分からずに/一人の部屋が悲しい             ANTENA「ぼやけた朝陽」 引用:https://www.uta-net.com/movie/237509/

明け方、あの人は出て行ってしまって、朧げなままでやっと目覚めたら日は傾いている。起きる瞬間、夢であれと願った。朝引き止めなかったことを悔やみ、しかし眠さにかまけた自分の甲斐性のなさじゃどうせダメだよと開き直る。ここまで全て妄想である。間違ったことはしていないはずなのに、ボタンの掛け違えが連鎖して別れは訪れてしまう。小さな怠惰の積み重なりであり、お互いが許し合っていた証拠がふいに反転してしまうのが別れだと思う。

しかしこの曲のすごいところは、メロディが明るいところだ。ANTENAはシンセの音が特徴的なのだが、これも印象的なフレーズが寂しさを感じるのに明るい。直射日光ではない、斜めに差し込む陽光を感じる。その明るさが、一周回ってどこかの誰かのちっぽけな話のようにも思えて、まるごと切ない。人生には日の当たらない時期もあるけれど、総じて喜劇であると信じていたい。

まだ話したりないが、長くなってしまったのでこれを前編とさせて頂く。もしよかったら、ANTENAの標榜する「ライフソング」、文字通り日々に寄り添うメロディを耳にしていただけたらさいわいに思う。

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