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何度でもリピートしちゃうてかマガジンまとめたらリピートしやすいのついに気付いた
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#小説

私は雨の記憶

私は雨の記憶

朝からひっきりなしにかかってきていた職場の電話が鳴り止んだ。スマートフォンを手に取った私は、Facebookアプリをタップした。5年前の今日投稿した記事が画面に表示された。モノクロで撮った珈琲の写真だった。

写真をスマートフォンに保存して、記事の内容を確認した。

5年前の今日入力した言葉はそれだけだった。

イスから立ち上がった私は、スマートフォンをポケットに入れて窓の方に向かった。昨夜からの

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短編小説『その日のコアラ』

短編小説『その日のコアラ』

目が覚めた時には遅かった。 あたりは一面火の海だった。どこにも逃げる場所があるとは思えなかった。

コアラのコビーはいつものように木の枝につかまって、ユーカリの葉を食べた後、うとうと眠っていた。

突然、同時多発的に起こった大規模な山火事。 何ヶ月にも渡って続いたこの山火事によって、多くの動物たちのいのち、人の命、住宅などが犠牲となった。 後に分かったことだが 5,000匹のコアラが犠牲になったと

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シティポップが聴こえる

シティポップが聴こえる

 シティポップが好きだ。

 あの洗練された、コンクリートジャングルに生きるスタイリッシュな大人たちを彷彿とさせる歌詞、そして小洒落たサウンドは、マルイのロゴマークを「オイオイ」だと信じて疑わなかった根っからの田舎者の心をむずと鷲掴み、瞬く間に大都会東京への憧憬を抱かせた。

 もっとも、かく言う自分自身はまったくもってシティポップ世代ではない。シティポップ最盛期が八十年代だとして、僕が音楽に目覚

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記録

記録

今朝もタイムラインが窓を流れる。

自分だっていつまでこれに乗っかっているか分からないというのに、降りた人を夢にがんがんと見てしまい、夜を駆ける六条御息所になっていやしないかと背筋が寒くなった。

静岡県立美術館のホールに鎮座した、草間彌生の『水上の蛍』を観たことがある。
あの四角い箱の中にきっちりと閉じ込められた「芸術」は、一見どんなに人を招き入れ、吐き出そうと、いつまでも変わらずにあの場所に存

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紫の鏡

紫の鏡

紫の鏡という怖い話があった。

今でもあるのだろうか。

正確にいうと「紫の鏡」は“怖い話”ではなく“都市伝説”なのだろう。

私が子供のころは“都市伝説”という言葉を聞いたことはなかった。

まだそんな言葉はなかったか、あったとしても一般的ではなかったと思う。

実際、私は「“怖い話”をしてあげようか?」と友達に言われて、聞かされた。

紫の鏡について聞いたことで覚えているのは、「二十歳までにこ

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【掌編】紅梅

 そこに梅が咲くとは覚えていたが、元旦からだったか。さだかでないが、今年はそうだった。

 きれいな花の写真がほしくなり、にわかに花を探し求めて歩くも見つからなかった。ずっと、そんなものは目に入れずにいた。私のお気に入りは朽ちた花や折れた茎だった。それらに美が見出されているとは絵画やらを見れば分かるが、そういったものでない、ただきれいなお花がよかった。

 梅は、どうか。

 梅の美しさに目覚めた

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