同じでは、ない。初めてのインストラクション経験で(マガジン18)
一話目から読む人はこちら
「エイミーがやったら?」
ロビンの言葉で、4人の顔が私に向いた。
私はたじろいだ。
そもそも先生役が必要とすら思わなかったのだから、それができるかと考えたこともない。
けど、「英語が下手だから」は言い訳にしないことにしていた。
Well..
曖昧な声を出しながら、急いで考える。
引っ込むのは、違うと思う。だって、みんなと同じ条件じゃないか、と思う。他のみんなができるなら、私もできるはず。ここにいるみんなも、先生の経験はない。1週間トレーニングを受けただけ。なのに、やらないっておかしいと思う。
一同の顔を見る。
「やる」
3年の間、ほぼ欠かさずクラスに通っていたし、いつも真剣に先生の言うことをきいている。だから、聞いたことを思い出せば、できるはず。
「エイミー、いいの?」エリーが気遣うように言った。年上で世話好きな彼女は、私のことをよく心配してくれた。
うん、私はそういって、親指を立てた。
**
みんなは、あぐらのポーズになりながら、私の方に体を向けた。
誰も喋らない。
空気が張り詰める。みな、真剣な顔になる。ここからがレッスン。
サラのクラスを思い出しながら、息を吸う。
みんなの前で、声をだす。
初めての、インストラクション。
「Let us tune in.」
全員が目をつぶり胸の前で両手を合わせた。
頭の中に、クラスでのサラのイメージが浮かぶ。このあと、サラはどうするんだっけ。みんなで息を吸うはず。
息を吸うってなんて言うんだっけ?
サラがなんて言っているのか、全く思い出せなかった。言葉の部分だけ、空白。
みんなが、両手を合わせたままで待っている。
心臓の鼓動が大きくなった。焦る。記憶を手繰り寄せようとする。
サラは、ここで、なんて言ってる?
ようやく思い出して、震えた声でいう。
Inhale
EXhale.
なんとか、一緒にマントラを唱えた。
**
ウォームアップに入ろうとした。
指示したいエクササイズのイメージは頭にあるのに、どうやってそれに誘導すればいいのか分からない。
また、心臓がバクバク言い始めた。
腕の動き、呼吸、足、どれから説明する?
何を最初に言えばいい?
**
言葉に詰まって、みんなを見た。
みんなは動きを止めて、私の言葉を待っている。
とりあえず、何か、何か。
「ふくらはぎを掴んで」と言おうとする。その時、「フクラハギ」の英語を思い出せないことに気づく。
知らないわけじゃない。きいたらフクラハギってわかるんだから。
でも、自分で言うのはできないんだ。だって、言ったことがないから。
そこまで気づいて、顔をあげた。
動きを止めてしまった私を、みんなが困ったように見ていた。
顔が熱くなった。
自分で言うことは違うんだ、と混乱した頭で思う。
生徒として参加するのは簡単。だけど、先生は、わかるように伝えないと。何の順番で言えばいいのかなんて考えたことなかった。それに、口に出したことがない言葉は、出てこないんだ。
私は、できない。
I can't. 小さな声で言った。
エリーが、困っているのがわかった。気をつかわれたくなくて、明るく言う。
「だから、ロビン、変わってくれる?」
Sure, と軽く返事をして首をすくめたロビンは、そのままインストラクションに入る。
表情も同じ。いつもと一緒。ロビンの声が響く。
1つ1つ、言葉がスムーズに流れていく。
Make an easy pose. Grab your shines. And....
みんなは安心したように、それに任せてエクササイズを始める。
**
そうか、と思う。
ロビンにとっては、一つも、難しくないんだ。
3年間、サラの生徒でいたのも同じ。1週間のトレーニングから帰ってきたばかりなのも同じ。
だけど、なんでも素早くこなす彼女は。積極的で、英語だってネイティブみたいに喋る。彼女だったら、こんなこと、何にも難しくないんだ。
すぐに、先生と同じことができるんだ。
**
私は、下を向いて、唇をかむ。
同じでは、ない。
私は、同じではなかった。
胸に重いものがつかえている。
ーーーーーー
学びの日々と諦めない理由は、、次の話に続く
一話目から読む人はこちら
クンダリーニヨガ をオンラインで体験したい人は、こちらから
いつもありがとうございます。いま、クンダリーニヨガのトライアルを無料でお受けしているのでよかったらご検討ください。