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ティーチャーになるために、ティーチャートレーニングに行ったのではない(マガジン13)


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私は、ヨガの先生という仕事に全く興味がなかった。

マレーシアでクンダリーニヨガ のクラスに入るまで、ヨガをしたことはなかったから、日本でクラスも受けたことがない。

そもそも、精神世界とかチャクラとかヒーリングとか気功とか、そういうものが全て苦手だった。非科学的だし、人を騙すものかもしれないと近づかないようにしていた。

ヨガの先生に、実際に出会ったことがなかった。身の回りに一人もいなかったし、偶然会った人がヨガの先生、なんてこともなかった。

ヨガの先生という仕事は、存在するのだろうけど、自分とは遠い場所にあるものだった。

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ティーチャートレーニングに申し込んだ時ですら、ヨガの先生になろうという発想は全くなかった。

半年続くトレーニング。ホテル代や飛行機代も含めると相当なお金になる。労力もかかる。だけど、経済的にリターンがあるかなんて、全く考えていなかった。

私は、自分に与えるために申し込んだから。

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半年ほどサラのクラスに通い続けたある日、レッスンを終えてからのこと。財布を開けながら、その日のレッスンフィーを出す。何気ない会話だった。

「私、このクラスにこないと物足りないの。休んだ週は、何かがかけているような気がする」

ふーん、とサラは面白そうに相槌を打った。

Something missing?

Yeah, I don't know what it is, though. 


何かがかけているって? 

うん、なんだかはわかんないけどね。

「’本当’な気がしないんだよね」と少し考えて付け加えた。


サラは笑った。

Amy,  I think you are now addicted to Kundalini Yoga


私がクンダリーニヨガ に中毒になってる?

そんなこと、あるわけない。

だって、私は、そういう人じゃないもの。


困惑する私に、サラはまた来週ね、と笑顔で手を振った。

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ハンドルを握りながら、サラの言葉を思い出していた。

You are now addicted to Kundalini yoga.

さっきまでのクラスが頭にうかぶ。

いつもの仏教施設の一室。薄暗い中、私たちの前に座ったサラ。両腕を大きく広げろだの火の呼吸をしろだの言われて、私たちはその通りにする。いつの間にか、自分という意識がいなくなっている。特別な空間。

私は、ここにくるべくしてきて、ここにいる。正しい場所にいる、その感じを思う。


レッスンに来れない週は、「 何かが欠けている」

心の中で、その言葉を思う。

あ、と思う。

「欠けている」って私、言ってた。


そうか。

私は、もうそれを知ってるから。

だから、ないと「欠けている」って言ったんだ。


私を包み、完全にするものの存在。

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家に帰って、シャワーを浴びようとタオルを手に取った。その時、ふっと思った。

クンダリーニヨガ のクラスってなに?

サラは、前に座って何をしているの。

目をつぶり、彼女の目になってみた。

私たち生徒を見ている。私がいた。エクササイズをしている。どんな気持ちで見ているのだろう。


どうやって、私たちに「完全」を与えているのだろう。

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いつか、彼女がスウェーデンに帰る日が来る。

私は、このまま、状況にまかせるのだろうか。先生がいなくなったらしょうがないって、諦めて。

クンダリーニヨガ をしなくなって、欠落感にも慣れていくのだろうか。


それは簡単だけど。

だけど、私の行く道はそっちじゃない、と思った。


私は、自分で自分に与えられるようになろう。


完全さを。


他人を待つのではなく、自分で自分に与えられるように。

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ティーチャートレーニングの入金をしてすぐのこと。来月にはクアラルンプールにいくという日だった。スマホに着信があった。ヨガグループに向けて、サラが発信したメッセージだった。


親愛なるヨギーたちへ。

私は、あと3ヶ月で、ヨーロッパに引っ越します、とあった。


間に合った、と思った。

入金したレシートを机から出し、もう一度眺める。


サラがいなくても、私は大丈夫。


これからは、私が、自分で与えるんだから。



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トレーニングを終えて、私たちは帰る、、次の話へ続く






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