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海外で日本人一人のトレーニング。誰も、私に期待してない。(マガジン10)


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ティーチャートレーニングの初日から、私は寡黙になっていた。

留学経験もない私は、まるきりの英語環境の中でコミュニケーションをとったり、友達を作ったり一緒に学んだりなんてしたことがなかった。愚かだけれど、この場にきて、初めて気づいた。

講義をきくのは大丈夫だった。ノートをとったりテキストを読むのも、遅いけどそこまで問題はない。

一番こたえたのは、グループワークだった。体の仕組みについて学んだことをグループごとに発表するプレゼンテーションがあった。神経システムだの消化器系だの呼吸器系だのテーマが与えられ、大きなポスターを作り、書き込んでいく。最後に、他のみんなの前で発表する。

8人づつのグループに分けられて、スタジオの一角に集まる。グループで互いに名前を確認した。新しい出会いと与えられたタスクに、どこかみんなウキウキしているようだった。

私は、落ち着かない気持ちになった。テキストには、知らない単語がたくさん並んでいる。日常会話で出てこない単語たち。すぐスマホで調べればいいと思うかもしれないが、他のみんなは、テキストをざっと読んで、互いに内容を確認し始めていた。グループワークなのに一人でスマホを見ているのは気がひける。単語がわからなくても想像して聞こうと集中する。でも、内容がどうしても頭に入ってこない。

与えられた時間は20分。時間内に、ポスターを仕上げ発表の文も作らなければいけない。グループのリーダー役になった人は、役割の割り振りを始めた。

「ポスター作るの、誰?」

手を挙げたのが4人。

「発表するの、誰?」

やる、と言ったのが2人。


私は、下を向いた。私以外の人の方が上手に、素早くできるから。私は、何も役に立たない。

でも、ここにただ座っているわけにいかないから。

「やっぱりポスター作りに入れてね」と小さな声で言った。恥ずかしかったし、惨めだった。ポスターだって、本当は何も貢献できないと知っていた。議論にも入れないのだから。だけど、みんなの前で発表するなんて、もっと無理だから。


だから、しょうがないから、できるだけ目立たないように。


私は、何にも知らない人に見えるだろうと思った。違う、と言いたいけど、それを証明するすべもない。

だって、本当に、ここで何もできてないじゃない。発表どころか、議論もできてない。いや、楽しい会話をキープさせることすらできない。


何にもできない。

いい大人なのに。


誰も、私に期待していないのが、辛かった。

いてもいなくても同じだった。


「日本語だったら自由に喋れるのに」

これは、私じゃないよ。だって、本当の私はもっとちゃんとできる人なんだから。


何度も心の中で呟く。 



だけど、日本語でできたって、意味がない。

私は、ここで、何者でもなかった。



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