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短編小説『夢』36

「トベナイヤツ、マタモドル」
大男は不可解な一言を伝えた。
「どういう事?」
「トブ、オマエ」
大男は威圧するように言った。
「飛べばいいんだね?」
「トブ」
大男はそう言い残し、暗闇に進んだ。直哉が向かうべき方角とは逆の方へ、のしっ、のしっと大きな身体を左右に振りながら去っていった。

巨大な背中は5歩で暗闇に塗り潰され消え去り、その数秒後、足音も夜の闇に吸い込まれ、直哉の耳に届くものは何もない。

目を凝らしても直哉の周囲360度は何も見えないが、頭上に満天の星空が広がっている。
勇気を振り絞り、直哉は歩みを再開した。数メートル先はもう何も見えない漆黒の闇。直哉は1歩1歩慎重に足元を確かめた。

朝までの短い命を直向きに燃やし続ける無数の星が瞬いている。それは淋しい者たちを引き寄せる漁火(いさりび)であり、直哉の道中を温かく見守る篝火(かがりび)でもあった。

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