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読書記録『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子)

読了日:2020年11月24日

読んだ理由

『AI vs. 教科書が読めない子供たち』がとても勉強になった。その続刊を読んで新たな知見を得るため

面白かった部分

・筆者によると、RST(リーディングテスト)の能力値と入学しうる高校の偏差値は高程度において相関する。また、大学の偏差値に関しても同じことが言える。こうした相関から逸脱するとしたら、それは「社会システムの矛盾を突いた受験行動」によるものである。だが、こうした行動は「短期的に最適なだけで、長期的に意味があるとは思えない」。というのも、「現代社会で生き残る上では、意味を理解しながら抽象概念操作ができることは圧倒的なパワーを意味する」から(199頁)。筆者の議論は常に「AIができること/できないこと」という観点から語られている。読解力をつけるべきなのは、それがこれからの社会で食べていくために重要だからである。

・黒板やドリルの問題を写せるようになることが重要である。穴埋めプリントでは、生徒が単なる暗記に終始してしまうため、読解力を育てられない。

小学校では「効率よく算数や漢字や、重要キーワードを覚えさせる」ためのドリルやワークシートを多用するのではなく、まずは自分の気分や力加減をコントロールしながら作業に集中できるようになることを目指した方がいいです。その中には、筆算の桁をそろえることや、板書を正確にある程度の速さでノートに写すことや、手順書通りに実験をしてその結果を見たとおりに記録することが含まれます。(192頁)

・先生の板書を生徒が書き写す速度(=頭を上げる回数)に注目することで、学習に困難を抱えている生徒が分かる。文単位で写すのか、文節単位か、語単位か、文字単位か、画数ごとか。また、課題の作業をすぐに始められるか、なかなか手が動かないか、隣の子を真似していないか、消しゴムを何度も使っていないか、なども注意すべきポイントである。

・国語教育の改革に関して、面白かったことが2つ。⑴文芸(小説や俳句など)は芸術教育の範疇に入れるべきであり、国語科目では論理国語がもっと重視されるべき。⑵「現代の国語」では、その時期に扱っている理科・社会の単元に関係する文章を読ませるべき。「知識に命を与える科目」としての国語。

授業をするときには、国語の教科書と理科の教科書を机に置き「惑星、衛生、自転周期」のような言葉が出てきたら理科の教科書で調べ、太陽系の惑星の半径や質量、組成などを理科の教科書で確認しながら、本文を読解していき、それでも残る疑問を自分の言葉で書く、という授業です。高校国語の教科書がこういうことを意識してくれるなら、どれほど生徒は助かるでしょう。読解ができずに暗記に走ってしまう生徒をどれだけ「意味」に引き戻すことができるでしょう。国語は、すべての教科の知識に命を与える科目になり得るのです。(268頁)

・4年生ごろから学力格差が生じやすくなる。それは、主観から客観へ、絶対から相対へ、具体から抽象へというジャンプが必要になるからである。これは日常生活では身に付かず、言葉と論理によってしか獲得できない。ここで暗記型になるか論理型になるかによって、中学以降の学力差が生じる。だが子供は必ず暗記に頼ろうとする。そこで重要なのは、暗記や真似による成功体験を積ませないことである(294頁)。

・日本が抱える課題解決のためには、地方一番校を再興し、霞が関や永田町に「多様な人材」を確保する必要がある(302頁)。

所感

・筆者が日本の教育の問題に対して真摯に向き合っていることがよく分かった。

・前著の実践編としての位置づけもあり、RST(リーディングテスト)の体験版や、授業モデルを記してくれていた。塾講師としては大変参考になる。

・前著を読んだときは「公営塾へ行きたい」と強く思わされたが、今回の本は両義的だった。一方では、現場で試してみたいことがたくさん書かれていたし、依然として教育の重要性も感じられた。しかし他方で、筆者の仕事の道筋の明快さを目の当たりにすると、こういう問題提起型の本に影響されながら行き当たりばったりに進むのではなく、自分の目指すべき道をもっと明確にしてから動き始める必要性も痛感する。このように考えたのは、『コンサル一年目で学ぶこと』を読んで、ビジネスをするメリットが少し理解できたからかもしれない。というわけで、引き続きビジネス書を読んで、ビジネスマンとして働くことで何が学べそうか、考えたい。

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