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ネオフィリンの夜

20年くらい前、まだ吸入ステロイド薬が適応になっていない時代。


外来をしながら年間1000人近くの入院患者さんを診つつ、毎日オンコールで呼ばれ全科当直もしながら、病院のそばで過ごしていた時代。


当時の喘息治療の主役は、テオフィリンだった。


テオフィリン。

カフェインの親戚みたいな薬といえばいいだろうか。


喘息患者におけるカフェインの効果


血中濃度をあげれば、『多少』気管支拡張効果があるという薬だ。しかし、有効な血中濃度と中毒濃度がすごく接近している、扱いが難しい薬でもある。

今よりはるかに喘息による入院患者さんが多い時代だった。
(いくら私のように物覚えが悪くとも)、年間1000人も入院患者さんをみていれば、体重をみるだけでテオフィリンの数字ははじき出せるようになっていた。


医師2年目の10月の夜、喘息のお子さんが入院となった。オンコールで呼ばれたのがその日2回目で丑三つ時のその日は、7人目の入院だったろうか。


看護師さんへネオフィリン(注射薬のテオフィリン)の指示をだし、私はナースステーションで船を漕いでいた。


『先生!先生!!大変!!!』


飛び起きた。

揺り起こされて起きたとき、『ネオフィリンを過量投与してしまったこと』を告げられた。
ネオフィリンは最初に血中濃度をあげるまでは多めに、その後はゆっくりの維持量になるべきところを、多めの量を投与されたらしい。

その時、新しくきた看護師さんをもっとフォローすべきだったことを悔やんだ。


看護師さんといっしょに患者さんに謝りに行き、テオフィリンの血中濃度が下がるまで待つ必要があることを説明した。


患者さんも眠れなかっただろう。

そして私も、まんじりともせず夜が明けるのを待った。
なにごとも起こらず夜が明け、胸を撫で下ろした。


10月は喘息シーズンだ。

喘息の治療は様変わりした。
テオフィリンはピンチヒッターの役割程度になったが、あのときの冷や汗はいまだに思い出す。


ネオフィリンの夜。


それ以来、気になったらできるだけ現場を確認することにしている。
それでも、よる年波でだんだん身体動かなくなってくる。

前線での医療を丁寧に続けていくことは難しいものだ。

noteでは、ブログでは書いていない「まとめ記事」が中心でしたが、最近は出典に基づかない気晴らしの文も書き散らかしています(^^; この記事よかった! ちょっとサポートしてやろう! という反応があると小躍りします😊