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患者さんとの話し合いの進め方②

前回の NOTE で患者さんとの話し合いがうまくいかなかった研修医の先生に、

① 何のために話し合いを行うのか?
② 準備は十分だったか?
③ どう見えているか?

についてお話ししている、とお話ししました。

今回は文脈を固定するため、以下のようなセッティングを考えてみましょう。

2歳男児
昨夜からの嘔吐を主訴に来院。急性胃腸炎の診断。各種検査の結果、点滴の必要性は低く、自宅にて対症療法(水分補給と消化の良い食事)をしながら、経過観察が可能と「現時点では」判断された。悪化の可能性は否定できず、「悪化時再診」は型どおり説明しておくこと。

上記を研修医と申し合わせたうえで、患者さんの説明に行ってもらった。

すると、親御さんは強く点滴と入院加療を希望され、研修医の先生的には、「医学的評価」と「患者さんとの合意」の間で板挟みになって再度相談にきた。

何のために話し合いを行うのか?

上記の様なシチュエーションでは多くの場合、「如何に検査が正常で自宅経過観察が可能か?」「入院の必要が無いか?」が "説明" されます。
つまり医療者側の目的は「これ以上の医療介入が必要ないこと」を説明します。

研修医にとっては、まずは「医学的に妥当性のある判断ができること」が研修の大きな目標ですし、2年目も終わりになると、一般的な主訴で典型的な経過の患者については、ある程度この判断が付くようになります。
指導医に「帰宅可能」という判断を説明し、承認をもらったのと同様の説明を患者さんにすることで、患者さんの理解を得ようとします。

一方で、患者は「異常が無い」ことを証明してほしくて来院しているのでしょうか?

「隠れた主訴」を探せ!

今回のケースであれば、

「吐いたときにどうしたらいいかわからないから、自宅でどうやって経過観察したらいいかわからない」

「車がないから "悪化" したときに受診できない」

「そもそも育児が不安で不安でたまらない」

「新生児が自宅にいてうつるのではないかと心配だから隔離したい」

「義母(つまりおばあちゃん)がうるさくてヨメである母は逆らえない」

「夫が DV をしていて娘を口実にして病院に逃げたい」
   ※ DV: domestic violence

等という可能性はないでしょうか? まあ、後半は少し極端な例かもしれませんが。

私はこれらのことを

「隠れた主訴」

という表現をしています。

方針を決定する前に、患者さんが本当に困っている、心配していることは何か? 「隠れた主訴」を確実に把握し、それに対処する必要があります。

ジョブ理論?

ここで思い出すのが、クリステンセンによる「ジョブ理論」です。

ものすごく簡単に説明すると、、、

顧客中心にビジネスを考えたときに、顧客は「何を」買うのか?と考えるのではなく、「なぜ」買うのか、つまり、

「顧客はどんな用事(ジョブ)を片付けたくてそのサービスを買うのか?」

を考えましょう、ということになります。
また、これを把握するために、

「顧客は誰か?」

をしっかり把握しておくことが重要になります。

ジョブ理論について詳しく学びたい方は、下記をご参照下さい。

https://globis.jp/article/5697

音声で理解したい方はこちら

実際の本はこちら

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%96%E7%90%86%E8%AB%96-%E3%82%A4%E3%83%8E%E3%83%99%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%92%E4%BA%88%E6%B8%AC%E5%8F%AF%E8%83%BD%E3%81%AB%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B6%88%E8%B2%BB%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%82%AB%E3%83%8B%E3%82%BA%E3%83%A0-%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%BC1%E4%B8%87%E4%BA%BA%E3%81%8C%E9%81%B8%E3%81%B6%E3%83%99%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%93%E3%82%B8%E3%83%8D%E3%82%B9%E6%9B%B8%E3%83%88%E3%83%83%E3%83%97%E3%83%9D%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%88%E5%A4%A7%E8%B3%9E%E7%AC%AC2%E4%BD%8D-%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B3%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%BA%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%B3/dp/4596551227

再び、「何のために話し合いをするのか?」

今回のケースでは医療者にとって、最低限必要なことは、

「帰宅可能な状況である」

ということを医学的に、つまり論理的に証明することです。

しかしながらそれだけでは不十分で、患者さんに説明をする際には、

「患者さんが本当に心配なことは何なのか?」
「患者さんは何を解決したくて病院を受診したのか?」

をしっかり把握し、それを解決できるような話し合いを行うことで、より満足度の高い医療が提供できるのではないか?と感じています。

究極、患者さんと医師が話し合いをする目的は、「患者さんが医療というサービスを使い問題を解決し、安心して生活をできるようにすること」なのではないでしょうか?

そのように考えると、ほら、経営学の知見も役に立ちそうですよね?





小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン