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熱中症⑥〜予防 1〜

熱中症は不慮の事故ではない

熱中症の進行がグラデーションで、I 度から III 度まで急速に進行しうること、 III 度になると死に到る可能性もあることをお話ししてきました。

熱中症は熱産生と熱喪失のバランスの破綻が原因であることもお話ししました。

では、熱中症は偶発的に起こるもので予防はできないのでしょうか。ここまでお付き合いいただいている人にはおなじみですが、injuryと捉えてみます。

次のグラフを見て下さい。

「WBGT」の上昇とともに、熱中症の発生率が明らかに上昇しているのが解ります。また、同じ「WBGT」の上昇でも8月よりも暑くなり始めの7月の方が発生数も重症度(死亡者数)も多いことが解ります。つまり「WBGT」と相関して熱中症が発生していることが解ります。

「WBGT」とは何か?

WBGTとは Wet Bulb Globe Temperature の略で、人間の熱バランスに影響の大きい、気温、湿度、輻射熱の効果を取り入れた温度の指標です。

同じ温度でも湿度が上がると、急激にWBGTが上昇します。

湿度が上がると、汗が蒸発しにくくなり、体温の調節がしにくくなるため、湿度の影響が非常に大きな割合を占めています。WBGT が28 度を越えると明らかに熱中症の患者が増加します。

特に夏の車内など、閉鎖された空間ではエアコン停止とともに急激にWBGT が上昇し、熱中症の発生率も急激に増加しますので、車内放置による乳幼児の死亡が毎年後を絶ちません。

熱中症予防とWBGTによる指針

これを受けて以下のような指針が提示されています。

運動時は熱産生が増えますので、日常生活とは異なる指標が設けられています。

WBGT と 熱中症の発生率は明らかに相関があります。つまり、 WBGT を指標に対策を行えば(運動を避ける、エアコンを付ける)、予防することが可能です。毎年部活動をはじめ、スポーツをしている最中に熱中症で運ばれル方が少なくありません。

スポーツ指導者の方が熱中症で搬送された場合には、WBGT のお話を必ずするようにしていますが、スポーツ指導者の方でも WBGT をご存じない方が多く看られます。

熱中症は明確に予防ができる病態です。 諸事情はあるでしょうが、少なくともスポーツ指導者の方には、WBGT は常時チェックし運動回避の判断をお願いしたいと思っています。

【参考文献】
1) 環境省熱中症予防情報サイト http://www.wbgt.env.go.jp/
2) JAF ホームページ 
http://www.jaf.or.jp/eco-safety/safety/usertest/temperature/detail2.htm



小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン