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Pec-ceP なぜ中国か?

なぜ中国か?

明るい照明に輝く上海の繁華街などを見ていると実感に乏しいでしょうが、現在の中国は旺盛な電力需要に供給を追いつかせることに必死の努力をしています。下段の円グラフで見ていただくとお分かりのように、中国の発電量は米国よりも多く世界一ですが、何しろ人口14億の国です。これだけ発電しても国民一人当たりが消費する電力は米国の3分の1(CO2排出量も1/3)といったところです。
そんな中国の2019年の発電量は対前年で4.7%増加しました。       外務省ホームページ
これは、中国では毎年東京電力の総発電量に匹敵する発電能力を増やしている計算になるそうです。つまり、毎年一つずつ東京電力を新しく作っていることになります。

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発電量増加分の内、原子力発電が18%、水力5.7%風力11.0%太陽光25%を占めます。そのことにより中国の総発電量に占める非化石燃料の割合は32.0%に上昇しました。ちなみに化石燃料による増加分は2.4%で、石炭火力発電の増加は1.7%だそうです。
中国はCO2の排出量は米国の約2倍ですが、人口一人あたりにすれば日本の80%に届いていません。ですから、これからの経済や民度の向上に伴い電力の消費が増えていく中で非効率の石炭火力発電所を閉鎖してCO2の排出を削減していくのは容易ではありません。電力を得るには「何でもあり」ですから、非化石燃料による発電に力を入れ続けていくこともすでに国是になっていて、2018年の統計でも非化石燃料による発電(水力が多い)は中国総発電量の1/4を超えるまでになりました。

このように、中国では増加する電力需要に何としてでも応えながら、国民一人あたまでは3倍のCO2を排出しているアメリカにさえ悪者扱いされている排出の現状を抑えるために旧式の火力発電所を減らしていかなければならない状況にあります。                         そんな中国にとってCO2排出ゼロのクリーン水素を大量生産できる方法があればそれに越したことはありません。
そのことをご理解いただいたうえで、「赤道反流を利用した水素の大規模生産が中国にとってどういう意味を持つか中国の視点に立って説明させていただきます。

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理由1. 日本は電力が不足しているわけではなく、水素エネルギーの電力利用を積極的に進めなければならない切迫した動機がない。中国にはある。
たしかに水素発電を普及させれば石炭火力発電に比べてCO2の削減は出来るのはそのとおりだが、現在のようにその水素を化石燃料から作っているのでは生産段階で天然ガスを燃焼させるのと同じ量のCO2を排出してしまう。 そのことは水素を「石油や石炭に比してCO2の排出が少ない」という相対的な基準に置いてしまい、必然的にCO2排出ゼロである原子力発電のほうが 合理的だという話になる。CO2の排出総量についての国際的取り決めはあるが、放射性物質の排出については制限がない。

CH4+H2O→CO+3H2   CO+H2O→CO2+H2

上記水蒸気改質の反応式によれば、水素ガスH2を4分子作ると1分子のCO2が発生します。H2とCO2の質量比は1:22ですから、現在行われているこの方法で8kg(H2×4)の水素を作ると否応なく44㎏のCO2が副生されます。ですから単純に水素なら何でも環境改善に役立つというのはかなり「羊頭狗肉」です。2050年までにCO2排出をゼロにするという国際的な目標にてらせば、天然ガスから水素ガスを作る今の方法ではNGです。

それに対して水を電気分解して水素を作るときの反応式は下記のようになります。

2H2O→2H2+O2

水の電気分解ではCO2は発生しません。炭素Cがないのですから当然です。でも、「じゃあ、水素はみんな電気分解で作ればいいじゃないか」というわけにはいきません。電気分解には電気代がかかるし、電解のするための電力がCO2を排出するのでは本末転倒です。

日本は電力が足りないわけではないし、これから人口も減少することですから新規発電所の需要は老朽化した施設の立替えや自然エネルギーによる地産地消の小規模発電しかありません。それに現在の日本のエネルギー産業は自分の利権を失なう結果になりかねない挑戦的なCO2削減に乗り出す積極的な理由はありません。2050年はまだ先の話です。現在の産業界や政界のお偉方はとっくに火葬場で焼かれてCO2を排出しているでしょう。今CO2の排出ゼロを達成する現実的な手段は原子力発電所の新規増設しかありません。CO2による地球温暖化への恐怖はどうしても原子力発電を推進したい人達にとってはまたとない追い風です。今後の原子力発電所が危険かどうかは、作りたい人達が安全に作ると言っているのですから結論は出ません。

実のところ、原子力発電の意義はCO2排出削減ではなく、日本国のエネルギー安全保障対策です。その証拠に、というわけではありませんが、原子力の平和利用として原子力発電の必要性はCO2問題が提起されるずっと前から主張されていました。国策として推進したからこそ現在の原子力の利権階層が出来たともいえるでしょう。日本国の安全保障を考える上で、エネルギーと食料の確保は絶対的に必要です。食糧問題は措いておいて、エネルギーの問題はエネルギー源の確保でした。日本が真珠湾攻撃に踏み切った背景には、米国を初めとする国際社会から石油を禁輸されて、このままでは日本が干上がるという切迫した状況がありました。戦後ほぼ順調に回復してきた経済に冷や水を浴びせたのは第一次石油危機(オイルショック)でした。石油だけでなく、天然ガスや石炭の輸入が出来なくなったら国民生活は立ち行かなくなるという危機感は施政者にとっては切実です。



赤道から大量の水素を持ってきて大規模な非化石発電を導入するなどというアイディアはもし実現すれば、現に今ある火力発電や原子力発電の一部を不用のものとしますから業界の安定を脅かす危険思想です。
もちろん、日本が水素発電に興味がないわけではなく、実際には少しずついろいろなことをしていますが既成の秩序を乱してまでやることではありません。水素の使い道は化石動力エネルギーの代替として自動車などに使われているしエネファームにも使われています。


日本の水素エネルギー政策によれば水素の調達は世界各地からの輸入ということになっています。
ラーメンの麺やスープは変えるわけにはいかないけれど、トッピングくらいは新しいものを載せてもいいかな?といったところでしょうか。
何しろ、昨年まで石炭火力発電プラントや原子力発電所の建設輸出を国策として首相がトップセールスをしていた国です。そう言えば、日本国の首相は日本海々底のハイドロメタンの掘削に1兆円の国費を投じると言っていました。CO2の排出問題など経済的利益に比べればどうということはない、という感じでした。それが1年も経たない内に新しい首相は「温暖化対策は新しい産業になり得る」と言い出しました。トランプ大統領の再選はないと踏んでのトランプ離れでしょう。
https://www.jst.go.jp/sip/pdf/SIP_energycarriers2016.pdf

それに比べて、中国は指導者が誰になってもエネルギー不足とその構造を 何とかしなければ立ち行かない国であることは申しあげたとおりです。


理由2. CO2排出による地球温暖化などはまだ先の話。
電力会社を筆頭としてCO2を排出しているのは鉄鋼、セメント、ガラス、窒素肥料など日本では衰えたとはいえ「基幹産業」と呼ばれる産業です。
これらの基幹産業の経営者の平均年齢はおそらく還暦を超えているでしょう。多くの例外的な人達がいることを承知の上で申しあげますが、「2050年までにCO2排出ゼロ」という目標の結果を見るまでこの世におられる方はほとんどいらっしゃらないでしょうから、業務の関心はもっと目先のことに移ります。翻って中国での指導層も高齢者が多いでしょうが、このままCO2排出を続け、自分の国を地球温暖化の主犯格にさせるわけにはいきません。 被害を蒙る世界中の人の中には自国民も含まれます。

3. 中国には赤道に水素基地を作るだけの資金力と技術力がある。    ソーラーパネルの世界シェアの70%は中国製です。中国にはパネルを作るのに必須なレアメタルがあります。
狭いスペースに高性能な器械を無理矢理詰め込もうというなら話は別ですが、赤道反流上ではそんなことよりスペースを広げてローテクで対応した方が立ち上げまでの時間もかからず当面は有利です。
兵は拙速を尊ぶというのは中国の孫子の教えです。

4. 一帯一路
赤道反流にある太陽光や水素の素である水を液体水素や再生メタンなどの エネルギーにして持ち帰ったところで誰も『収奪』とは言いません。
アフリカに進出すれば資源も手に入るし市場も手に入りますが、他国の資源を収奪すれば後々いろいろ厄介なことが起きるかもしれません。(現に起こっています。)
それに対して赤道反流上で手に入れる無料のエネルギーはそのまま中南米や東南アジアに輸出することもできます。                一帯一路の経済圏は東端が太平洋赤道を通じて南米西海岸まで伸びるということです。

5. 資源の取り合いにならない。
米国はエネルギーの輸出国です。ロシアも輸出国です。
中国は日本同様にエネルギーの輸入国ですから、輸入が途絶えたりしないように安定的な輸入先を多角的に確保しなければなりません。外交問題が存在しない赤道反流でのエネルギー確保はそんな多角化の一角になります。  他のエネルギー輸出国にとって中国が豊富な水素を手に入れることは歓迎できることではないでしょうが、表立って争うことはないでしょう。中国が豊富な水素を手に入れてもその分化石燃料の輸入量が増えないというだけで、当面の間輸出がなくなるわけではありませんから、その間に自国のエネルギー源を利用してクリーン水素や水素系化合物による再生エネルギーを作る態勢を作ることが出来ます。
東南アジアの国々にとっても中国にエネルギーを過度に依存しないようにしながら中国の水素や再生メタンを輸入した方が国の利益になるでしょう。
インドやヨーロッパ諸国が赤道反流で何かことを起こすには地政学的に無理があります。

6 天然ガスとの競争
安い水素が生産されるようになれば当然天然ガスや化石燃料の価格は下がります。価格が安くなれば、発電燃料を水素から化石燃料に置き換える経済的メリットが少なくなります。CO2の排出を削減できるという大義名分だけで商売のl世界が動くものではありません。幸い?にして中国はエネルギーの輸入大国です。水素の普及によって天然ガスの相場が下がり、それに連れて石油や石炭の相場も下がれば万々歳です。

7. 化石燃料から水素社会への変革は多くの新しい産業を生み出します。
クリーン水素社会への変革は公共投資として実に効率的です。
中国は広いですから、北西部の砂漠地帯など民生を犠牲にすることなくソーラーパネルを置く場所はあるでしょうが、残念なことにソーラーパネルの発電効率は高緯度地帯では大きく落ちてしまい、同じ量の発電をするのに何倍かの面積と何倍かのソーラーパネルを必要とします。          しかし、投資先が赤道であれば、土地の収用や住民の立ち退き費用などに公共投資の資金が流れることで社会格差が拡がってしまうこともありませんし、住民の反対運動も起きません。                  いくら強力なトップダウンの政治体制であっても、住民を弾圧するよりは反対が起きないようにするほうが得策です。

日本の事情
https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/news/16/041512132/?ST=msb

8. 冒険的機運の存在                        中国は時に技術の盗用などの摩擦を起こしながらも欧米の先進技術を熱心に取り入れて国力の充実を図っていることは事実でしょう。しかし、目的が国力充実である以上、国内の独創的技術研究開発を疎かにしているものではありません。中国は月面裏側に(無人ですが)宇宙船を送り込み着陸させています。いくら軍事目的の側面が強くあるといっても技術盗用だけでできるものではないでしょう。国内に物を生み出せるインフラと膨大な資金と努力が要るはずです。「冒険的機運」つまりベンチャー志向ということで言えば、その一例として「ニカラグア運河」計画があります。          ニカラグア運河の顛末は wikipedia                  ニカラグア運河構想はニカラグアを横断して第二パナマ運河とでも言うべき新しい運河を作る構想で、その背景にはパナマ運河では大型船が通れない(後に拡幅された)ことと、中国と米国東海岸、ヨーロッパ、アフリカ西岸を結ぶパナマ運河は米国の強い影響下にあり、もし万一中国船が通過できない事態が生じたら中国経済の屋台骨を揺るがすことになりかねないという懸念など一定の根拠があって考えられたものとされていますが、ここで取り上げたのは、この無謀な計画で500億ドル(5兆円強)と見積もられた総工費を一民間企業が集めてしまったということです。一口に5兆円と言ってもピンときませんが、日本ではリニア新幹線の建設予算がちょうどそのくらいだそうです。                              ニカラグア運河構想に比べて「太平洋赤道反流にフロートを浮かべる構想」も同規模の資金が必要かもしれませんが、桁違いの現実性を持ちます。  ニカラグア運河は水路が貫通しなければ$1にもなりませんが、赤道反流 ビジネスでは一部分が完成すれば、その分が事業になりますから、中国に とって赤道反流構想はどんなに大きくても現実的な構想です。

本構想の概要 https://note.com/pec_cep/n/n4026e0e1872e       本構想の概要 後編 https://note.com/pec_cep/n/n5d5839d5082a    新しい投資先としての本構想 近日公開                仕事依頼 HPの制作 近日公開




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