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【校閲ダヨリ】 vol.26

常用漢字という灯台
   
みなさまおつかれさまです。
今回は、常用漢字にかんするお話です。
   
特に、刊行物に携わる方々は、知っておかなければ損をしてしまう言語事項のひとつといえるかと思います。
また、ウェブ記事やプレスリリース、クライアントとのやりとりなど、出版業務以外の場面でも役立つファクターですので、認識があいまいな方にも読んでいただければ幸いです。
   
   
最初に、すごくざっくりと(でも明快に)常用漢字の定義についてお話しすると、
   
義務教育期間に習う漢字
   
という11文字で完結させることができます。
   
   
内容ですが、

「2,136の字種とその字体,4,388の音訓(音2,352,訓2,036),加えて,付表に116(123の表記)の熟字訓(2字以上で読み方が決まるもの)や当て字」
文化庁HPより引用)

   
という膨大な数の字数があてられています。1日1つずつ覚えても、約6年かかります。
   
   
皆さんきっと、苦労して覚えた(現役小中学生は現在進行形で覚えている)ことと思いますが、「なんで、常用漢字を覚えなければならない」のか、考えてみたことはありますか?
   
私のことで言えば、当時はそんな哲学的なことは考えず、カリキュラムの一環といういわばトップダウンで頭にたたき込んでいたように思います。
実はこの問いへの解答は文化庁が明確に示してくれています。
   
   

使用する漢字の範囲を共有しておくことで,漢字を用いた情報交換を円滑にするため

   
   
ということなんです。
義務教育は原則的に日本に暮らす全ての子どもたちに保証されている教育期間ですよね。つまり、そこで習う漢字は老若男女みんなが「読める」「書ける」前提が成り立つわけです。
そして、世間で使用される漢字は常用漢字表をベースに選択されているところがありますので、これは、「日本語母語話者はなるべく漏らさず読み書きできることが望ましい」ことになるわけです。そうしないと、みんなで情報を共有したり、コミュニケーションをとることがスムーズにできなくなってきてしまいますからね。
   
   
ちなみに、文化庁が
   

常用漢字表は,現代の国語を書き表す場合に使用する漢字の範囲を「目安」として示したものです。「目安」ですから,専門分野や個々人の表記,また,固有名詞における漢字使用にまで及ぼそうとするものではありません。

   
と述べている通り、あくまで「目安」であって、ルールではありません
常用外の難しい漢字を使って書こうが、常用漢字をひらがなで書こうが、それは筆者の自由です。
   
   
うーん、結局使う人の自由なら、常用漢字表はいったいなんの役に立っているの?
   
   
うむ、確かにそうですよね。
私個人としては、常用漢字表は「灯台」のようなものと考えています。
   
ペンを使って書くというよりは、キーボードで打つことが日常化した現代。変換キーを押すことで間違いの少ない漢字使用が可能になりました(変換ミスの可能性は潜在的にあります)。
習ったことのない漢字ももっともらしい形で表示してくれるので、「発信する側にとっては大変便利な状況にある」と文化庁のサイトで述べられていますが、その通りだと私も思います。
   
そうすると、書き手と読み手の漢字認識のパワーバランスが崩れます。常用漢字を越えて漢字を学んでいる読み手は、日本の中ではマイノリティと想定したほうがよいでしょう。せっかく自分の伝えたいことをうまく文章にできたとしても、常用外漢字をガンガン用いていては、それが読み手に伝わっていない可能性があるということです。ましてそれがキーワードにまで及んでいたとしたら、かなり致命的といえるでしょう。

こんなときに、常用漢字表を使ってその漢字を調べることで、策を講じることができます。
常用外なら、何か別の単語で置き換えるか、ルビ(ふりがな)をふるか、開く(仮名書きにする)か、あえてそのまま貫くか……
なかなか難しい問題かもしれませんが、文章を書くことの醍醐味のひとつは悩むところにあるのかもしれません。
   
   
勢いに乗って文章を書いているときは特に意識することは少ない常用漢字ですが、書いた後にいちど落ち着いて読み返してみる(とても大切な手順だと思います)。そのときに、船が目印にする灯台のように、目安として常用漢字表を手元に添えておく。
悩んで悩んで完成した文章は、きっと読み手の心に響くはずです。
   
また、いつかお話ししようと思っている「統一表記」ともリンクする話題ではありますが、想定する読者層を意識することで正解が見えてくる場合も多々あります
たとえば小学生向けの雑誌では、中学生で習う漢字は恐らく仮名書きかルビ扱いになるでしょうし、ライフスタイル系の雑誌で「ゆるさ」をウリにしているものであれば、自ずと難しい漢字の使用は避ける方向になるんじゃないかなと思います。
   
届けたい相手のことを考え、伝えたいことを明確に意識しつつ自分たちの「色」も損なわない。考えることが山ほどある、そんな荒波のなかの航海には、常用漢字表という灯台は必要不可欠なのです。
   
   
この記事で「常用漢字ってどんなのだっけ?」「そういえば持っていないかも」と思っていただけた方は、ぜひ常用漢字表のページを訪れてみてください。出力してもよいかと思いますが……なかなか膨大なので、おすすめは「コマンド+F」で検索機能を使うことです(WindowsはCtrl+Fでしたっけ……?)。

   
   
それでは、また次回。
   


参考
文化庁広報誌『ぶんかる



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