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【連載】アフリカの野生アニマル物語 (11)ナイルクロコダイルの黄色い目

黄色く濁った目は狂気を宿し、不気味だった。

新鮮な草を求め、マサイマラを流れるマラ川を渡ろうとしていた
ヌー500頭の群れを、ナイルクロコダイルが水中に潜んで狙っていた。

2頭のヌーが先陣を切って濁流に飛び込んだ。

そのとき、ただの流木に見えた黒い影が確かな意思を持って、ゆらりと動いた。

川の中央まで来た先頭のヌーが突然「ンギャヌー!」と悲鳴を上げて、
川に沈んだ。
後ろのヌーは慌てて岸へ引き返そうと反転した。

悲鳴を上げたヌーは、
何とか岸にたどり着き、前足を掛けて立ち上がろうとしていた。

それも無駄な抵抗だ。運命は既にクロコダイルが握っていた。

ヌーのお尻に食らいつき、
自由と生きる望みのすべてを奪おうとしているのは、
クロコダイルの右側上下一本ずつの牙だった。

それは太く短く、強靭。邪悪で無慈悲な凶器。
体重200キロのヌーを抑えつけるのに、
クロコダイルはたった2本の牙で十分だった。

生きるためのドラマだった。
どちらも生き抜きたいのだ。
「食べなければ」
「逃げなくては」

あえぎながらヌーは何度も自分のお尻を振り向く。
そこには2本の牙が突き刺さったまま。
黄色く濁った目が、かすかな望みを砕く。

さっきまで川を渡ろうとしていた残りのヌー集団は、
川渡りをやめてしまった。

水際で絶望と戦うヌー。
平原で再び草を食べ始めたヌー。
両者の距離は20mほどしかない。
それは永遠にも思える遠い距離だった。

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