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デザインが生み出すデジタルと物理が繋がる未来

物理空間とインターネットを繋ぐデザインの重要性は、より注目が集まっていきます。

今回はデルフト工科大学を始めアカデミックとビジネス現場の双方で産業デザインに取り組まれているIskander先生にデザインと信頼性の重要性をお伺いしていきます。

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Kohei: 皆さんこんにちは。オランダのアムステルダムからIskandeさんとインタビューを繋いでいます。今日はモノとインターネットをテーマにプライバシーのお話を深く聞いていきたいと思います。私たちの生活でモノがインターネットに繋がった社会がどのように浸透していくかが本日のテーマです。。

IskanderさんはIoTデザインの専門家なので、今日のインタビューではIoT時代のデザインに関してお話を聞いていきます。 Iskanderさん本日はお越し頂きありがとうございます。

Iskander: こちらこそ招待頂きありがとうございます。

Kohei: 先ずは Iskanderさんのプロフィールを紹介したいと思います。 Iskanderさんはデルフト工科大学の産業デザインエンジニアリング学部に設立されたラボの共同ディレクター、 客員研究員として活動されています。

大学での活動以外にはアムステルダムを拠点にしているINFOというイノベーション開発企業のイノベーションディレクターとして、デジタルプロダクトやサービス開発に携わっています。INFO内で立ち上げたLABSの研究、開発責任者も務めており未来に向けたコネクティッド技術の研究開発も行っています。

LABSではスクリーンを越えたインターネット上で人がどう言った関係性を作るのかに関する研究を行っています。LABSは研究機関や大学との連携も行なっています。

2013年に設立されたBehavior Design AMS meetupの共同設立者としてmeetupの開催活動に加えて、2010年以Council Internet of Thingsのメンバーとしても活動しています。2014年にはベルリン発のIoTデザインカンファレンスThingsConをアムステルダムでも開催しています。ThingsConアムステルダムでは人間を中心としたIoTデザインの開発を目指しており、2017年からIskanderさんはアムステルダムのチェアマンとして活動しています。

改めまして、本日はお話しできてとても嬉しいです。

Iskander: ご紹介頂きありがとうございます。

デザインが生み出すデジタルと物理が繋がる未来

Kohei: ありがとうございます。では早速今日のアジェンダに移っていきたいです。Iskanderさんが活動している産業デザイン分野に関しては私は初心者なのですが、今とても興味を持っている分野です。これからのインターネットテクノロジーはより私たちの物理空間と密接に繋がっていくと思うので、物理空間でのインターネットと産業デザインはとても興味深いテーマだと思っています。

先ずはIskanderさんのこれまでの活動を聞いていきたいと思います。Iskanderさんは何故今の産業デザインの分野に関わるようになったのですか?何か特別なきっかけなどはあったのでしょうか?

Iskander: そうですね。INFOに入る前から産業デザインを学問として学ぶ機会がありました。学問として学んだのちにデジタルデザインとデジタルサービスをINFOに参加してから学ぶきっかけができたことで、デジタルデザインと産業デザインを一緒に考えるようになりました。

本当はデジタル空間でのデザインを私のキャリアとして考えていたのですが、インターネット空間と物理空間が繋がっていく世界を見た時に、IoTプロダクトが実現するデジタル空間と物理空間がつながる世界を探索してみたいと思い今の取り組みに至っています。

デジタルを活用したガジェットは既に数多く出てきているので、取物理的なものと組み合わさってどんな新しいものがこれから誕生していくのかにも関心があります。

私が関わっているThingsConカンファレンスはIoTデザインに関心がある人のコミュニティとして機能しています。IoTが普及していくことで社会にどう言ったインパクトがあるかを参加者と議論し、IoTプロダクトのデザインを設計する時にどう言った責任が求められるのかを中心に議論しています。 私はデルフト工科大学でも同様にCities of Things Labを始めています。

私がディレクターを務めるCities of Things Labでは私たちの生活に自動化システムやロボットが浸透していくことでどう言った変化が訪れるのかを研究しています。研究例を紹介しましょう。ヒューマノロイドやデリバリーカートを始めとしたテクノロジーは今研究が進んでより知的になってきています。

テクノロジーの研究が進んでいくことで、それぞれ発展したテクノロジーを繋ぐ関係性も変化していくと思います。私はテクノロジーをツールとして活用するのではなく、テクノロジーをパートナーとして考えるにはどうすれば良いのかというテーマに研究しています。


産業デザインエンジニアリングの質問にお答えしますね。私たちが生活する世界ではテクノロジーとサービスが分け隔てなく繋がり、プロダクトとサービスとシステムが一体になった新しいデザイン設計が注目され始めています。。

物理空間で利用されるプロダクト(私たちが日々生活の中で接する製品)も、インターネットにつながることで徐々にデジタル化が進んでいます。先日SpotifyがCar Thingsというサービスを発表しましたが、デジタル空間でサービスを展開する企業が物理空間にも参入することとで、これまで物理空間で利用されるプロダクトとサービスが融合する動きは始まっています。

(動画:SpotifyがスタートしたCarThings)

Spotifyのケースを初めに聞いた時はジョークではないかと思いましたが、発表された内容を良く見てみると物理空間で利用されるプロダクトをデジタル化させていくための開発に取り組んでいることだとわかりました。Spotifyのようにデジタル技術を活用して、従来の物理空間で利用されるプロダクトをデジタル化していくケースはとても面白いと思います。

物理空間で利用されるプロダクトはデジタル空間で開発するプロダクトよりも長い時間をかけて設計から開発までを計画を立てるのですが、これからは設計過程でデジタル化の計画を組み込むことで物理空間で利用されるプロダクトにもデジタルサービスがつながる新しい世界観が実現できると思っています。

私は物理空間で利用されるプロダクトがデジタルサービスと一体化していくことで新しく実現できる未来に興味を持っていて、ラボなどの活動を通じて未来に何が実現できるのかを考え、形にしていきたいと思っています。

図 物理空間とデジタル空間が繋がることで生まれる未来

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まだまだ話したい内容はありますが、質問してもらった内容への答えは以上です。

Kohei: 素晴らしいですね。IskanderさんはINFOでイノベーションの責任者としてお仕事をされていますが、Iskanderさんにとってのイノベーションとは一体どう言った意味を指し、Iskanderさんはその意味に対してINFOの中でどういった役割を担っているのでしょうか?

社会に与えるインパクトがイノベーションの源泉

Iskander: そうですね。私が考えているイノベーションは製品やサービスを標準化して誰でも使うことができるようにすることよりも、もっと私たちの生活に身近になっていくことに近いイメージで考えています。、私が考えるデザインの視点では、イノベーションを進めることは社会全体で新しい当たり前(デフォルト)を作るような意味合いが強いと思っています。

最近はイノベーションという言葉がバズワードになってしまっていて、特定の方法を使えば直ぐに生み出せるように理解されてしまっているのではないかと感じます。本質が一体何かわからなくなっていますね。私は日々の取り組みを継続していくことが、イノベーションに繋がっていくはずだと思っているので、イノベーションが方法論になってしまうことは残念です。。

勿論イノベーションとは一体何かを正しく定義して、定義されたイノベーションに向かって目標を立てて進んでいくことはとても重要だと思います。私が取り組むデザイン分野では新しいものを生み出す際に未来志向で考えるだけではなく、生み出されたプロダクトやサービスが社会に普及した際に良いことも悪いことも含めてどのようなインパクトが、どう言った形で社会全体で生まれるのかを重要だと考えています。

社会全体で起きうるインパクトを理解した上で、「デザインが一体どのようにインパクトを実現していくのかということ」が最も重要な視点だと思っています。イノベーションはどこから生まれるかという問いにテクノロジーが普及することによってイノベーションが生まれると考えられがちですが、実際は違います。

図 デザインによって実現する社会インパクト

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イノベーションはテクノロジーが社会に浸透するプロセスであり、プロセスをデザインしていくことがデザインとイノベーションの繋がりだと考えています。

Kohei: Iskanderさんのイノベーションのお話はとても興味深いです。。私たちの生活とテクノロジーが上手くリンクして、私たちの生活をテクノロジーが豊かにしていくデザイン設計がイノベーションには必要だと思いました。生活者視点を入れてデザインを考えることは創造性のある考え方だと思いますし、テクノロジーが社会全体に浸透して、公のための目的で利用されていく上でデザインが担う重要な役割だと思いました。

次の質問はこれまでに産業デザインの考え方がどのように変化してきたのかお伺いしたいと思います。今日までの数十年間産業デザイン分野でIskanderさんはお仕事されてこられたと思います。Iskanderさんの視点から、産業デザイン分野はインターネットと物理空間で利用されるして、これからどのように変化していくのでしょうか?

人中心のデザインから生活の奥行きのデザインへ

Iskander: 質問頂いた産業デザインに加えて、システムデザインもより高度化してきていますね。デジタルサービスのようにインターネットに繋がった状態が実現されることで、私たちの生活は大きく変化していくことになると思います。

物理空間で利用されるプロダクトもインターネットにつながり、デジタル空間で利用できる機能が加わることで、より個人の趣向に合わせたサービスを提供することができるように変わっていくと思います。

デザインの美しさだけでなく、利用者がサービスを利用する際に想定される複雑な行動パターンを事前に考慮してサービス設計を行うべきだと主張している研究者もいます。これは、利用者が期待するデザインが生活そのものであり、プロダクトの利用方法によってデザインが変わってくるという考え方から来ているのでデザインの持つ役割はより生活に密着するように変化しているのだと思います。

私たちのLabでは予測知識(Predictive Knowledge)を研究していています。デジタルサービスが私たちの生活を予測する際に、どういった機能を組み合わせれば利用者の生活が便利になるのかをテーマにして、利用者の利便性を実現するために必要な手法の開発を進めています。

先程紹介したSpotifyのケースのように、物理空間で利用されるプロダクトとデジタルサービスの機能を組み合わせることで、週ごとの利用者の生活に合わせてサービスを提供することができる機能を実現するなど、利用者の生活ニーズを事前に予測する知見を積み重ねていくことができるようになります。

予測知識のようなモデルは物理空間で利用されるプロダクトへの応用も始まっています。デルフト工科大学の同僚で機能的なデザインだけでなく、自由度を持たせる設計を研究しているプログラムもあります。この考え方をもとに私たちの行動に関連したプロダクトのデザインを検討しています。

図 予測知識モデルをデザインする

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Elisa Giaccardi教授は「人を中心としたデザイン」をテーマに、新しいプロダクトを開発するプロジェクトに取り組んでいます。開発されたプロダクトと利用者である人間との関係性は、利用者がプロダクトに提供するデータを通じて変化し続けていくので、プロダクトデザイナーも関係性の変化を予測しつつデザイン設計を考えていく必要があります。このプロダクトと利用者の関係性の変化を予測する視点を持つことがデザイナーには必要だと考えています。

私が関わっているThingsConではトラストパートとトラストマークと呼んでいる認証マークの研究も行なっています。このテーマに関してはぜひ皆さんとも議論をしてみたいと思っています。新しいテクノロジーが次々に生まれてくる中で、信頼できるテクノロジーであることをどのように証明するかが重要なテーマであると私たちは考えています。、プロダクトをデザインする際にも信頼できるプロダクトのデザインとは一体何かという視点を持ちながらプロダクトデザインを考える方法を開発したいと思っています。

(動画:Good Things Fest bumper)

デジタル空間と繋がった物理空間で利用されるプロダクトをデザインする時に信頼できるプロダクトとは何かという視点を取り入れることが必要になると思います。 外から見た時に信頼できるかできないかの判断が難しいと思うのでトラストマークと呼ばれるマーク開発しプロダクトの中でどんなシステムが動いているかわからなくても外から信頼できるテクノロジーかどうか判断する基準を準備しています。

透明化した情報がプロダクトの信頼をデザインする

トラストマークの研究はベルリン発の ThingsConを立ち上げたPetr Bihr氏を中心にThingsConチームが協力して取り組んでいます。信頼性の基準の中にはプライバシーを守りつつデータを活用を検討しているのか検証するための項目も入れています。

それ以外にはプロダクトの透明性やセキュリティ、安定性や公開性などの項目を準備していて、技術やデザインに詳しい人でなくても信頼できるプロダクトかどうかを判断する項目として活用してもらいたいと思っています。利用者視点ではプロダクトを利用する際にデータの取り扱い方法が透明化されていることはとても重要ですね。

トラストマークの項目の中で私が個人的に考え続けているテーマは安定性に関する項目です。安定性とは具体的に、”プロダクトの機能が利用者にどれくらいの期間受け入れられ続けるのか”、”という項目です。物理空間で利用されるプロダクトがデジタル空間に繋がっている間に利用者が便益を感じて更新し続けるのか”を中心に項目を考えています。

私がなぜこのテーマを考えているかというと、ソフトウェアの機能に依存した物理空間で利用されるプロダクトは、ソフトウェアの機能が作動しなくなるとプロダクトも同様に機能しなくなってしまうからです。

安定して機能が継続できるかどうかはとても大切な問いで、安定して物理空間でもプロダクトが利用され続けるためには新しい規制が必要な分野だと考えています。

私は信頼されるプロダクトが社会で求められる数世の中に出回り続けることが理想的だと思います。プロダクトが生まれて世の中に出ていくサイクルは既に生まれていますが、そのサイクルに信頼も必要だと考えています。自動車はがわかりやすい分野の一つですね。

テスラのような自動車のモデルは無線プログラムによって物理空間で利用される車の機能を持ったプロダクトがソフトウェアを通じて更新されています。

テスラを追随するために他の自動車メーカーも同様の取り組みを進めています。私たち利用者が購入する他のメーカーの自動車にも物理空間プロダクトが更新されるプログラムを導入することよって、自動車を運転する利用者を取り巻く環境も変化していくと思います。利用環境が変化した際に、デザインはテクノロジーが社会を変えていく重要な役割を担うことになると思います。

利用者の目線になってプロダクトデザインを考えると人間だけを中心としたデザインではなく、街の中で”利用者がどのような生活を日々過ごしているのか”という人の生活の奥行き全体の文脈にテクノロジーが入っていくためのデザイン視点に変わっていくと思っています。

デザインが実現することは、利用者とプロダクトの関係性という言葉をこえた新しい視点を汲み取ることだと思います。

それは利用者が生活するコミュニティや環境にプロダクトが入っていくことで、どのような新しい影響が生まれ、人々の生活にどういったインパクトが生まれるのかということを表現することだと思います。デザインが生み出すインパクトには環境に関するテーマや利用者の関係人口など複雑な文脈が多数含まれるようになります。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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