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テクノロジーによって変化するこれからのマーケターの役割

テクノロジーの発展とマーケティング手法は日々変化が生まれています。

今回はテクノロジー起業家として複数のスタートアップに関わり、有名なクッキーバナーを開発したGilbertさんに新領域のテクノロジーとマーケティングトレンドに関してお伺いします。

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もう一つ私がブロックチェーンの機能で可能性を感じているものが・・・(前回の記事から

ブロックチェーンが授けるユーザーの権利

スマートコントラクトです。スマートコントラクトを採用することによって、今マニュアルで実施している同意を自動化することができます。資産の売買やデータの移転、もしくはデータに対するユーザーの権利行使でも活用できると期待されています。

現在データユニオンというデータ構造に関する新しい取り組みが生まれています。これはブロックチェーンを用いて、ユーザーが自身のデータの利用許可と否認を判断することができるものです。実在するプロダクトにどのように組み込んでいたかは忘れてしまったのですが、データマーケットの広告企業がこのモデルを買収する可能性はあると思います。

これまでは適切に記録されていなかったデータも、新しい技術を活用することで適切に記録を残しておくことができるようになります。最後に私がブロックチェーンに期待していることは支払いとトークン機能です。この機能を活用することで私たちが日々取引しているデータを一定の価値を付けて、価値と引き換えに対価を受け取ることができるようになるからです。

暗号通貨のメリットはこういった機能にあると考えています。Tapmydataで試験的に取り組んだ時は、暗号通貨を採用することはビジネス上のコストメリットもあると考えていました。

これまでのクッキーのようで今までになかった新しい情報を取り扱う仕組みをTapmydataで試験的にスタートしました。

昨年サービスローンチ後にTapmydataのトークンを発行しました。丁度トークンを発行するタイミングで私はTapmydataから離れることに決めました。今はいくつかのブロックチェーンプロジェクトに関わり、プライバシーとデータ戦略の支援を行っています。

今の支援活動を通じて中央集権型のデータビジネスに新しい方向性を加えたいと思っています。データプライバシープロトコル協会(DPPA)という組織にも関わり啓蒙を行っています。Tapmydataは今のユーザー中心のデータ社会モデルの先駆けで、新しいエコシステムを作っているプロジェクトです。これから急速に成長していくと思います。

Kohei: とても興味深いですね。データ流通の新しい市場が立ち上がり始めている時期だと思います。ブロックチェーンを活用する機会が増えるに伴って、企業のデータ保護の意識を高めていく必要があると思います。未来のデータ活用環境を整えていくためにデータ保護を前提としたデータの利活用は避けられない問題であるにも関わらず、データ保護と利活用のバランスは一つの解決策だけで対応することが難しい分野だと思います。

次にお伺いしたいのがデジタルマーケティングのこれからに関してのお話です。これまではプッシュ型でコンテンツを発信していくことが販売促進ではとても効果的でデジタルコンテンツや広告ネットワークを通じて多くの人たちにプッシュ型のプロモーションを実施してきたと思います。

しかしGDPRやカリフォルニアのCCPAが施行されて以来、厳格なデータ保護の規制が生まれ、これまでのように自由に個人データを活用することが難しくなってきていると思います。Gilbertさんのこれまでの経験でGDPRやCCPAのようなデータ保護規制の強化が始まって以降、デジタルマーケティング環境にはどういった変化が生まれていると感じていますか?

データ保護規制とデジタルマーケティングの変化

Gilbert: 全体の整理をありがとうございます。私が思うに規制ができる前にも変化は少しづつ始まってはいたのですが、規制が出来て一気に変化が加速した印象があります。特に大手企業は市場環境の変化に対応していくために、データ保護に積極的に取り組む必要があります。これからは欧州全域、グローバルマーケット全体を考えてデジタルマーケティング戦略を設計する際には必ず避けられないリスク要因として規制の問題と向き合っていく必要があります。

私個人の印象ですが、プライバシーとマーケティングの関係を考えた時に多くのマーケターはプライバシーは死んだものであると考えていると思います。特に若い人はプライバシーのことを考えず、サービスを利用しているという人もいます。私は一人の親としてこの考え方は間違っていると思いますし、考え方を変えていく必要があると思っています。

私がこのように考えていても、実際はオンライン上でプロダクトを通じて取得されたデータが別の価値へと交換され、過度なデータ取引が行われています。オンラインの無料サービスは、無料と謳いつつ裏でお金以上のものを私たちから受け取っています。特にテクノロジー大手企業が生み出した広告モデルはGDPR施行前に、私たちユーザーが理解することは難しかったと思います。

図:個人のデータが価値に変換されている動き

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加えてGDPRが施行されて以来、政府が中心になってユーザーの権利に関するキャンペーンを積極的に行っています。これは政府が中心となってデータを利用する事業者の責任を訴えているということです。

2年ほど前にロンドンのバスで偶然遭遇した少し年配の2人の女性がデータプライバシーの話をしていたのを聞いて、ユーザーへのサービス価値を企業が高めていくためにはプライバシーへの配慮が必要になると感じましたね。ユーザーは、「どうやって私のデータを集めたの?」という不安を問いを抱えています。

ただ、すぐに解決できるかといえばこれはとても難しい問題です。企業がGDPRに準拠するためにクッキーバナーを採用したからといって、ユーザーの情報の開示が適切に行われているかといえばそうではないこともあります。

GDPRが施行されたことで、何かが大きく変わったわけではありません。逆にGDPRはとても複雑な法律にも関わらず、幅広く適応されるため非営利やチャリティー団体、小規模事業者にとっては対応することが非常に困難です。

Google等の資金力のある大手プラットフォーム企業がコンプライアンス対応を実施するように、小規模の企業にも同様のことを要求することはとても難しいのです。さらにマーケティングの視点で考えるとクッキーを制限したとしても、大手プラットフォームはクッキーの代わりになる仕組みを新たにマーケットに提供すれば良いのです。

クッキーの代替手段としては、ユニバーサルIDやクッキーレスのトラッキングの仕組みに加えて、コンテキストによるターゲティング、プライバシーサンドボックスやFLoC(federated learning of cohorts)を中心に様々なフレームワーク案が誕生しています。

規制が阻む新しいマーケティング手法

新しい手法を採用しながらマーケティング業界は変化してきているのですが、先程紹介したような大手プラットフォーム企業が提案している中央集権型の手法は独禁法上問題があると問題視されています。 

独禁法で懸念されているのは広告出向側への選択肢が減ってしまうことで、プラットフォーマーが提供する新しい手法が確立される前に、規制によって新たな取り組みが成立しなくなってしまう可能性があります。

欧州のデータ保護関連規制の動きは、各国で議論が始まっているデータとIDの分野での新たな標準を作るために乗り越える必要があるテーマです。残念ながら今のマーケティング業界では一つの方法で全てを解決することができる策が存在していないというのが今の大きな課題です。 Web2.0領域でデータを占有し、ビジネスを拡大する成熟したモデルに対抗する特効薬はまだ存在していません。

図:Web2.0で解決できない大きな問題

ただ、データを独占するモデルへの対抗策を考え、新たな動きを生み出していくことがより安全な環境を整えていくためには必要になると思いますし、新しい機会が私たちの目の前に広がっている状態だと思っています。

私が関わっているDPPAのような組織では、ブロックチェーンのようなWeb3の技術を活用することで、クッキーを利用した広告のモデルではなくよりユーザーとサービス提供者が公正な関係で取引を行うことができるモデルを実現したいと思っています。

(動画:DPPA Inaugural Founding Members Meeting)

広告を出稿するブランド企業と話をすると、ユーザーとの公正な取引を求めていることに加えて、データクリーンルームのようにモラルを持ったデータの仕組みを検討していると聞きます。

勿論そういった環境で取り扱われるデータはリスクを抑えてビジネス的にも価値を高めることに貢献します。私たちマーケティングに関わる人たちは、より少ないデータで価値を生み出すことを考えるためにマインドを切り替えていく必要があります。

Kohei: なるほど。そうですね。今のマーケティングを取り巻く状況は私たちが初期にデータ活用を始めた時と比べてとても複雑なものになっています。複数のデータを組み合わせて個人をプロファイリングしたり、データ利用を促進するために統合データを準備するなどの動きをこれまで進めていたと思います。ただ今後はユーザー同意を前提にして、データの透明性を高めつつ、ユーザーがデータを提供する際に十分に理解できるような設計を考える必要があります。

テクノロジーによって変化するこれからのマーケターの役割

この変化はマーケターにはとても大きな動きの一つです。なぜなら、データを取得するためのコストが大幅に高くなっているからです。Gilbertさんが紹介して下さったインサイトは大きな変化を見据える上でとても重要な情報だと思います。ここからはブロックチェンに関する質問に戻りたいと思います。新しい分野はいつも規制と折り合いをつけながら進めていく必要があると思いますが、ブロックチェーン技術の普及も規制との兼ね合いがとても重要になってくると思います。

図:規制とテクノロジーのバランス

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ブロックチェーンコミュニティではこれまでどういった個人データであれば、ブロックチェーンで処理しても良いのか議論を重ねてきています。特にユーザーの権利の問題がとても重要で、忘れられる権利などユーザーの権利とテクノロジーを通じたデータ活用のバランスが求められていると思います。

特にセンシティブな情報に関してはブロックチェーンで処理を検討する際に、どこまでが許される範囲なのかアーキテクチャの考え方がこれまでと大きく変わってきているため規制とのバランスがより重要になってきています。分散型の技術を採用しようと考える際にはどのように規制とテクノロジーのバランスを考えれば良いのでしょうか?

インタビューは後編に続きます。

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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