うんこを踏まない話。

あー、例えば誰か、仲良しの友達でも気になる異性でもいいわ。
いや、気になる異性にしとこう。
バイト先の気になる異性とかにしとこう。じゃあこっちはバンドマンってことにしといて、向こうは役者さん目指してるけど真面目でよく働くし気立てもよく、長い間このバイトをしていて、あー、なんのバイトにしよかな。
あー、サラダボウル屋とかでいいか、今っぽいし。
そう、そのサラダボウル屋さんから社員にならんかという話をもらっていて少し揺れている。
そんな感じでどうや。
ある日、閉め作業で二人になった時に
「そういえばバンドやってるんやっけ?」と聞かれるんや。
「あー、はい。まぁ、そすね。」
「なんてバンド?」
「いやぁ、別にそんなまだ有名でもなんでもないんで恥ずいっす。」
「教えてよ。聞きたいやんそんなんー!」
「あーはい。じゃあ、こないだMVとったんで、URL送りたいんでラインとか交換できますか。」
「ほんま?ありがとうー聞くわ!」
「じゃ、送っとくっす。ありがとうございます、、、」

みたいな日が来るねん。たまにあるねんこういうこと。でもたまにしかない。

何か起こるのかもしれないというちょっとしたウキウキを感じながら家に帰りつく。
玄関のドア開けて、コンバースのハイカットを脱ぐ時、昨日雨で中途半端に立てかけてた傘とか倒れてきてイライラしながら、靴を脱ぎ捨ててとりあえずワンルームの居間にちょこんとおいたちゃぶ台の前に座る。
で、帰りに買ってきたコンビニ弁当食べながら、一緒に買ったワンピースの新刊でも読んでるねん。
そしたら「ラィん」って新着ラインがくるねん。
それが気になるあの子や。
気になるあの子がMVみてくれて、しかもかっこいいっていうてくれてるねん。
ガッツポーズやな。
今度ライブ行きたいな。とか書いてるねん。
「ぜひきてください。次はvijonってとこであります。」
みたいな感じや。
「ゲスト出しとくんで」
「ゲストって何?」
ゲストの制度とかもあんまわかってない感じの子や。ええ感じやな。
「あー、ドリンク代だけでライブみれる感じですね。」
「えー、チケット代払わんってこと?」
「はい」
「それはあかんよー。チケット代は払います!だって、それが仕事なんやろ?」
はっと気づかされるねんそこで。
あ、これ、仕事やったんか。って。それくらい認識甘いバンドマンがいいな。うん。それくらいの感じの子のイメージや。
ちゃんとチケット代はもらっとかなあかん。そや。それがお前の仕事やねんから。普通にチケット払ってきてくれるお客さんにも顔向けでけへんやろ。ちょっと知り合って気になってるくらいの女の子にゲストは出さん方がええ。
「あー、ありがとうございます。じゃあ、そうさせてもらいます。」
みたいな感じで、まぁなんかライブみにきてくれるねん。
フロアには割とアンテナが敏感でちゃんと今感のお洒落してるお客さん3人くらいと、壁際でカメラ三脚でスタンバイしてるよーわからんおっさんと、出番終わって酒飲みながらでかい声で友達と喋ってるバンドマンがおるような感じの空気で、転換中に柱の横にちょこんと立ってるその子を見つけるわけや。
「あ、ほんまにきてくれとるんや、、、」と内心頑張らなあかんスイッチが入るねん。
で、まぁ頑張ってライブするわけやな。ばり頑張ってライブするから2曲目とかで弦切れるねん。
力みすぎやねん。MCでさっきまででかい声で喋ってたバンドの子が自分のギター貸してくれるわけやな。
こっちはいっつもジャズマス使ってるのに、貸してくれたギターはレスポールや。有難いねんけど、音全然ちゃうくてばりむずいねん。何回かストロークして音調整してみるねんけど、こりゃだめやって、でもとにかくこれでいくしかない、みたいな感じ。
で、他のメンバーにMC任せてるねんけど、そのMCがまじで面白くないねんな。
「今日は本当、みなさんきてくれてありがとうございます。あー、えーと、あー、今日、久しぶりのライブでめっちゃ緊張してて、あれなんす、さっき左右ぜんぜんちゃう靴下はいてることに気づいたんすよ。はは。」
みたいな。
誰が聞きたいねんそんな話。みたいな話してる横で、曲始めようと思ったら、借りてたレスポール半音下げってことに気づいて、チューニングし直すねん。まだおもんないMC聞かなあかん。
「え、じゃあ今も左右全然ちゃう靴下なん?」
「いや、履き替えてきたんですけど。」
もうなんやねん。
と思いながら、時間もあれやし、1曲削って、最後の曲やるねん。
「あー、お待たせしました。えーと、最後の曲です。聞いてください。」
ていうて。
ちゃんと何喋るか考えてきたのに、ろくにちゃんと喋れんくて、あーなんで大事な時に限ってこうなんねやろ。と思いながら歌ってたらなんか泣けてきて、めっちゃ必死に歌ってしまうねん。
で、歌いきるねんけど、フロアにおった3人のお洒落さん、3人ともなんか泣いてるねんな。
あー、なんかごめん。と思いながら転換終えて楽屋で不貞腐れながら気になる子に「今日はありがとうございました。またバイト先で。」
みたいな素っ気ないラインしてしまうねん。
だって、今日はいいライブとかじゃなかったから。
そうこうしてたら三脚で映像撮ってたおっさんが楽屋入ってきて名刺渡してくるねん。
○○レコードの新人開発やってます。って。
「あー、はい。なんか、すません、なんですか?」
「最近このバンドのMV拝見しまして、ライブ情報みてきました。もしよかったら少し話できませんか?」
「あー、えと、今日のライブほんま微妙やったんで、すみませんなんか。」
「そうですか?最後の曲とかとてもよかったですよ。」
「あー、そうですか、、、ありがとうございます。」

みたいな感じでライブハウスの店長とかにも
「いやぁお前らMCやばいな面白くなさすぎて。まぁそれが面白いねんけど。ワハハ」
とか言われながら打ち上げて帰ってその日は終わって。

酔っ払って家帰ってきたら気になる子からラインきてて
「今日のライブ本当によかったよ。よかったら今度ご飯でも行きたいな。」
てきてるねん。
「ありがとうございます。ぜひ。行きましょう。」
「急やけど、明日とかってどうですか?」
「あ、行けますよ。」
「じゃあ明日行きましょう」
「わかりました、今日は本当にありがとうございました。」

って返して気絶するように寝るねん。

で、翌日少し残る酒の雰囲気と昼過ぎまで寝てしまった罪悪感とは裏腹に、外の空気は少し肌寒くて綺麗に澄んでて、なんかめっちゃいい気持ちの日やねん。
駅で待ち合わせて、少し遅れてやってくる気になる子はいつもより少しだけ女の子っぽい化粧と、服装しててなんかいいな。って感じで
で、「私たまにいくところあって、美味しいんでそこ行きませんか?」
って、提案してくれるねん。
「あ、わかりましたそうしましょう。」
って、歩き出すねん。
喋りながら。
「昨日のライブ、本当よかったです。」
「あー、ありがとう。でもなんかグダグダやったでしょ、、、」
「そんなことないよ、トラブルとかあった方がライブって感じする。」
とか言いながら。

で、見つけるわけ。
彼女の進路にうんこを。
あ、うんこやなぁ。
と思うねんけど、

「うんこ踏みますよ」

とかよー言わんやん。雰囲気もあるし。
だから、そっと手をとって少しだけこっちに引き寄せて、うんこ踏まないように進路を変えてあげるわけ。
おかげで彼女はうんこの存在にすら気づかずに、そして無事に何もなかったかのように時間はすぎてゆくわけ。





つまり、俺が言いたかったのはここ。

あなたが何気なく普通に過ごせてるのは、誰かがそうやって気づかない間にうんこ(危険)から守ってくれてるおかげで、何も起きない。ということは何か起きる以上に誰かが気を配って普通に過ごさせてくれてるということ。
なので、何か起きていなくても、周りにいる人には感謝して過ごして欲しいな。って思う。

それを、言いたかった。だけ。








「え。あっ///」
「え?ああ、、、ごめんなさい。」
「いや、、、このままで、いいです。」





みたいなこともその後、起きてるけど。