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A級フラグ回収士の仕事

最近、メジャーな言葉になってきて、ドラマのタイトルにもなっている「フラグ」。この「フラグ」とは何かわからない人のために、簡単に説明すると「前兆」や「伏線」という言葉に置き換えられることができるものです。もともとはゲームの中の言葉であり、ある特定の会話が発生したり、アイテムを取ることによりフラグが立つと、その後に発生するイベントに進めるようになることが由来です。ここから派生して、ミステリー、サスペンス映画で冒頭に主人公がパートナーと過度に幸せをアピールするシーンなどがあると、この後にその相手は死んでしまうことが強く予想される展開になり、こうしたシーンをフラグが立ったと表現されます。この場合のフラグは「死亡フラグ」と呼ばれています。予想通りに結婚予定のパートナーが不幸にも死んでしまい、主人公が絶望に落ちたりすると、「フラグが回収された」と表現されるのです。

短いスパンで立って、回収されるものもあれば、物語の途中で立って、最終的に物語が閉じるときに回収されるものもあり、後者のような使い方のほうがより美しいとされます。犯人が誰かわからない展開のときに、犯人を匂わせるようなカットがいくつかあり、視聴者に色々と想像させて、最終回の15分拡大版でしっかりと犯人が特定されたときに、そのフラグが活きてくるのです。

当然、ニセのダミーフラグがあることもあり、ダミーなのか本物なのか、そんなことを考えさせながら伏線の回収に向かい、ダミーの使い方が美しくなかった李、ずるい使い方をされるとフラグ建築士は責められるわけです。たとえば映画「ユージュアル・サスペクツ」は本物のフラグとダミーフラグをちりばめながら、最終的に見事に回収した名作の一つと言えるかもしれません。
 
実社会でもよく見るとこのフラグは存在して、それを立てている人と回収する人がいることがわかります。難易度の高いフラグはその回収も困難であり、それを回収するのには技術的なものがあり、そのため一級フラグ回収士の資格が存在します。どのような団体がどのような試験を用いて、誰に授けているのかは公開されていません。ちなみに私は気づくとフラグを回収している仕事をしていて、フリーで活動しています。フラグ回収の仕事で私を呼ぶには、ラジオで賛美歌13番をリクエストするか、グレートブリテン島のペンザンスに住むウィリアム・パートリッジに絵葉書を出すか、孤児院を経営するエゴーダ夫人にリクエストをしてください。ゲームの中でフラグを回収する人もいますが、私が日常的にフラグの回収をしているので、今回はその一部を紹介したいと思います。この仕事はまだまだですか、いつか大きな仕事につながる予感があります。
 

・死亡フラグ

もっともフラグの使用法として一般的であり、残酷なものが死亡フラグでしょう。代表的な死亡フラグは最初に紹介しました物語冒頭の主人公の結婚式があります。この結婚式というものが厄介で、冒頭に結婚式があると何しろよく人が死んでしまいます。アクション映画で仲間が戦闘の前に「この戦いが終わったら、結婚するんですよ、この子と」と婚約者の写真を見せたら、もう絶対に死亡フラグで、生き残った試しがありません。戦う前に主人公に婚約者の写真は見せないようにしましょう。ホラー映画でのカップルの暗闇でのイチャイチャも死亡フラグです。また、ヒーローが最初に必殺技を使うところから物語が始まると死亡フラグです。銀行強盗が若い女性に向けて「お嬢ちゃん、とっととどこか行かないと、怪我しちゃうよ」というのも死亡フラグということも、とある話に出てくる白井黒子氏によって指摘されています。
 
死亡フラグはわかりやすく、回収しやすいということが特徴です。回収されずに回収士が出動することはごく稀です。しかし、回収されにくい死亡フラグはリアル社会では重篤化する恐れがあります。たとえば仕事で「 Aを作ってください」と依頼されたら、 Aを納品して報酬をいただいて終わりです。良いものを作ればまた依頼してくれるかもしれませんし、手を抜いたりしたら次はないかもしれません。ところが書籍などは「こんな本を作ってください」と書店や出版社のリクエストを受けて作っても、それが売れないと利益にはつながりません。「 Aを作ってください」と依頼されても、「これ、絶対に多くの人に求められないよなー」と感じると、それはもう死亡フラグです。このようなときは逃げだしたり、家族が急病になったり、従兄弟の兄の叔父の隣のおばあさんが亡くなったりして回避するのですが、私はプロのフラグ回収士ですから、随所にすべるネタをたくさん入れて売れないような本を作る努力を無意識にしてしまい、あーフラグを回収してしまったーということが何度かあります。売れない本を作るのはお任せください。

回収できなくなった死亡フラグを回収しに行ったこともあります。ある企業のキャラクターが一人歩きしてしまい、部署ごとにキャラクターのイメージが異なってしまって手に負えないという仕事の依頼が着たことがあります。大きな企業の大きな仕事でした日本の大手代理店が受注するような仕事でしょうが、誰も手に負えなかったので、フラグを回収のプロである私が現場に向かいました。大人数が作り上げたイメージの違いを再統一するなんて不可能です。しかしながら、フラグを回収のプロとしては必ず回収しなくてはなりませんから、そこはもう裏技と論理的話術と黒魔術を駆使ししてなんとか回収を果たしました。この時の仕事ぶりが評価されて、口コミで別部署の仕事も受注できました。

・脂肪フラグ

死亡フラグと読みは同じですが、中身は全然違います。風邪をひいて食事ができない日が続いて体重計に乗ったら3k減っていた。嬉しくなって友人に「3k減った」とするラインが脂肪フラグです。風邪から復活しても食欲があまり戻らなくなりましたが、そこは私はプロのフラグ回収士ですから、食欲ないのに頑張って食べ続けて「結局、最初よりも2の太ったー」というお約束の展開に導きます。プロは辛いです。
 

・債権フラグ

我々のような仕事は基本「問い合わせ」→「見積もり」→「受注」→「仕事」「納品」→「回収」という段取りでおこなわれます。現場で仕事をしたり、何かを作って納品しても最後に売上を回収しなくてはいけません。遠足が家に帰ってくるまでが遠足ならば、仕事は売上回収までが仕事です。代理店が私を使って何かのコンテンツを作ったりすることが多いのですが、話を聞いて見るとすでにクライアントに話を通してあると言います。もちろん私が了承する前です。これがフラグです。そして、仕事が無事に終わり、請求書を発行する段階で、違う会社に請求して欲しいということが割とあります。理由は大手の場合、新規取引先の登録が厄介で担当者がそれを避けたいと思うこと、支払先を一本したいという思惑もあると思われます。この別会社に請求してほしいが次のフラグです。
 
フラグ回収士としては請求会社が支払いをしてくれないリスクを避けるために、請求する会社に念を押します。3回確認したのに担当者が請求を回し忘れていたことがあります。大手が使いやすいということは、ルールに対してルーズであるといこうとでもあり、同時に支払いに対してもルーズということが推測されるのです。それを推測して先手を打たないと、債権となってしまいます。これが債権フラグ、もしくは債権回収フラグと言います。予測して早急に手を打つことでフラグはちゃんと回収できました。
 

・罠フラグ

色々な取引先に顔を出しているとたまに女性から「今度、食事に行きましょう」なんてお誘いをいただくことがあります。間違いなくこれは罠フラグです。会社員時代に私の上司は、しきりにフェロモンを撒き散らす相手からも、しっかりと断っていた賢者でした。

ところが私は罠だとわかっていても、フラグを回収するプロですから、お誘いに付いていくわけです。そして食事の前に会わせたい人がいるなんて話になって、怪しい会社に連れて行かれて、青いスーツに金髪みたいな謎な人物を紹介されたりするのです。そして、なんとも神秘的な話を聞かされます。私は回収士のプロとしての行動を満足に感じ、罠フラグを回収したと成熟した自分の行動を誇りに思うのです。

俺たちの世界では、未熟な者に「いつか」は決して訪れない・・・

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