世界史漫才再構築版48:アレクサンドル2世編

　微苦：ども。微苦笑問題です。
　苦：今回はロシア皇帝アレクサンドル2世(位1855～暗殺1881年)です。
　微：ああ、寒いロシアなのに、外に出る子供に「歩くのはサンダルにせい！」と叱った変人だな。
　苦：ここまで強引、かつしょうもないダジャレは初めてです。コンビ解消しますか？
　微：オレは宮迫じゃないよ。生活保護の不正受給もしてないし。
　苦：それは河本だろ！　彼の即位も曰く付きです。父ニコライ1世が、自分が始めたクリミア戦争の最中の1855年に死んでしまいます。突然死ということですが、まず間違いなく自殺ですね。
　微：暗殺じゃないとは、ロシアらしくないな。
　苦：まあ、目玉の大改革とナロードニキに匹敵する大事件なので、先にクリミア戦争(1853～56年)から解説しましょうか。
　微：うむ、苦しゅうない。
　苦：何様だよ！　名目上の発端は聖地管理権問題、要するにロシアに認めてきたイェルサレムの管理権をオスマン帝国がフランス皇帝ナポレオン3世に渡したことです。
　微：手間が省けてラッキー！っじゃねえのか。まあ面子が大事な人たちは大変だな。
　苦：名誉を傷つけられたということで、ニコライ1世は1853年にオスマン帝国のアブデュルメジト1世に宣戦したんですが、本当の狙いは1840年にイギリスに阻止された地中海進出の実現でした。
　微：不凍港を求める南下政策だな。軟化させるべき相手を硬化させてるけど。
　苦：無意味なダジャレ２発目ね。相手がオスマン帝国だけなら勝てると思っていましたが、ニコライ1世の予想に反して、ロシアが提唱していたパン＝スラヴ主義が英仏を刺激し参戦してきました。
　微：イギリス・フランスを和解させるとは、大物じゃねえか。
　苦：映画『遙かなる戦場』では、イギリス側の「ぐどぐど」ぶりが描かれてますね。
　微：まあ、兵士集め段階から「ぐどぐど」だけど、南アフリカ戦争での苦戦を思うと当然です。
　苦：ロシア黒海艦隊の基地セヴァストポリが主戦場だったのでクリミア戦争なのですが、英仏の陸軍は現地の民兵やコサックから昼夜を問わず奇襲を受けて混乱に陥りました。
　微：将校もバカというか愚鈍だったよな、映画の話だけど。
　苦：フランス海軍にいたっては黒海名物の嵐に巻き込まれて、艦隊の大半を戦う前から失っていました。
　微：その時の司令長官は”ドジでノロマなカメ”と怖れられた提督堀ちえみでした。
　苦：教官の風間杜夫すらいねえよ！　なのにロシア軍は指揮の面で不備が多く、勝利できません。
　微：ロシアの提督片平なぎさの手袋がなかなか脱げなかったそうです。
　苦：『スチュワーデス物語』から離れろ！　セヴァストポリは1855年9月11日に陥落しましたが、英仏が押さえたザカフカースのカルス要塞が降伏したんで、どちらも勝利宣言できませんでした。
　微：ペリーが英仏軍の実態を知っていたら、どう思っただろうな。
　苦：さっき言ったように、いいタイミングでロシアのニコライ1世が死去して終わったんです。
　微：とんでもない負債、いや遺産相続だな。犬神家より悲惨だな。
　苦：急遽、即位したアレクサンドル2世は勝てなかった理由をきちんと工業生産力と戦争に協力できる経済人の層の薄さに見出します。その意味でロシアは完敗のだ、と。
　微：というより、工業生産力や新兵器の運用について、各国司令部が理解できないままに戦争に突入したのが、「ぐどぐど」「ぐだぐだ」の根本原因だな。
　苦：その通りです。この戦争は関わった人が豪華で、教科書には出てこないけど大事な話が続々出てきます。まずはノーベル賞の創設者ことアルフレッド・ノーベルです。
　微：ああ、ニトログリセリンをダイナマイトに応用した発明者ね。
　苦：彼はロシア軍の機雷設置請負業で巨万の財を成しました。元祖「死の商人」です。
　微：その罪滅ぼしがノーベル賞設立だもんな。しかし肝腎の平和賞は効果が薄いけど。
　苦：次はフランスのレセップスで、オスマン帝国側で参戦したエジプトと交渉し、スエズ運河の建設権取得に成功します。
　微：ナポレオン3世の皇后ウジェニー・ド・モンティジョのいとこで、しかもエジプト太守の家庭教師をしていたおっさんだろ。
　苦：その通りですが、イギリスの外交的妨害を撥ねのけ、工事を開始しました。株式会社スエズ運河会社方式で各国から資本を募り、1869年の開通にこぎ着けました。
　微：でも「夢をもう一度」で、パナマ運河でコケるんだよな。
　苦：次は『古代への情熱』で有名なハインリヒ・シュリーマンで、彼は戦争の補給物資の買い付けと輸送を扱って財を成し、その金がトロイの発掘の元手になりました。
　微：ヨーロッパを代表する一発屋が2人揃ったな。そういえばシュリーマン、日本にも来てたな。
　苦：さらに「クリミアの天使」とも呼ばれたフローレンス・ナイティンゲールはイギリス軍の野戦病院で看護活動をしました。
　微：21世紀でも「ナイティンゲール憲章」に頼る看護業界もなんとかならんか。
　苦：彼女の功績で性的な視線にさらされていた看護婦は正当な職業と認知されます。
　微：下田に来たハリスも怒っていたな、「体調管理のための看護婦を頼んだのに！」と。
　苦：なお化学者ファラデーはイギリス政府から化学兵器作製を依頼されましたが、拒否しています。
　微：さすがアマチュアリズムの国イギリス！
　苦：日本史関係では、幕末に日露和親条約を締結したロシア海軍軍人プチャーチンも極東防衛のためにカムチャッカに来ていたので来日できました。
　微：1853年は極東が「熱くなる」はずだったけど、クリミア戦争でアメリカに持って行かれたと。
　苦：とばっちりが長崎からの密航を計画した吉田松陰で、開戦によりロシア艦が予定より早く引き上げたため密航に失敗し、ペリーの船で再度挑戦しますが失敗し、投獄されてしまいました。
　微：いや、誇大妄想家の𠮷田松陰なんて外国に出したら却って日本が危険視されてたからいいんだよ。「久坂玄瑞に与ふる書」なんて見たら、本当に「いってしまっている」からな。
　苦：最大の利益を得たのはもちろんペリーで、西欧主要国がクリミア戦争にかかりきりだったため、1853年に砲艦外交で幕府を脅し、翌1854年に日米和親条約締結に成功しています。
　微：ペリーはきちんとアレクサンドル2世にお礼をしたのか？　ひ孫が『海運！　何でも鑑定団』で家具を10万円で売るくらい貧しくなってたぞ。
　苦：強烈な嫌みですね。話を戻すと、敗戦はロシア支配階級に危機感を抱かせます。資本主義化・工業化の土台となる自由主義的な社会改革こそがロシアを救う、と。
　微：自由主義「的」がミソだな。
　苦：農奴解放についても、アレクサンドル2世が述べた「下から起こるよりは、上から起こった方がはるかに良い」の言葉が示す通りで、専制政治を延命させる手段として構想されました。
　微：そうでなければ、19世紀三大失敗改革「洋務運動」「タンジマート」「大改革」が揃わない。
　苦：国家主導で西欧化改革を慎重に採用していくことが「大改革」への構えでした。このため自由主義者とは、最初から改革に対するヴィジョンに最初から齟齬があったわけです。
　微：年金支給額を減らすためにやってくれていたと思っていた政府と、面倒くさいから放置していた社会保険庁職員みたいなもんだな、現象面は年金記録消失で一致しているけど。
　苦：余計な言い換えはいいよ!!　政府は1861年2月農奴解放令を発布しました。長期的に見ればロシアに工業発展をもたらすのですが、内容が不十分という不満が農民に根強くありました。
　微：まあ、「リボ払い」で農地買い取りをするような中身だからな。
　苦：ですが、農奴解放は農民の「良きツァーリ」信仰を強化し、その意味でロマノフ朝の安定に貢献しました。
　微：でも結局は農地の所有者を確定させることには失敗したんだろ？　そこをナロードニキに変な意味で突っ込まれて。
　苦：その後も司法権と行政権の分離、国家予算一元化、徴税請負制度廃止、国立銀行創設と近代化改革が続きます。教育も1864年に初等・中等学校法で無償の公教育を保障しました。
　微：デジタル庁は設立されなかったのか。
　苦：日本よりは人材はいる感じですが、そんな子供だましに引っかかるほどロシアは「豊かさゆえにバカが生きていける社会」ではありませんでした。
　苦：むしろ女性の社会進出では21世紀日本もかなわないくらいです。女性にも教員や公務員となる道が拓かれ、ロシアの女子教育水準と裾野は西欧一でした。
　微：高等教育に女性が進出すると、その能力がなかった「弁えた女性」が政治方面から偉そうにしたがるから面倒なんだけどな。杉田とか高市とか扇とか。
　苦：こうした改革は逆にポーランドを皮切りに帝国各地で民族意識を高まらせ、逆にロシア化政策が強化されます。ですが、改革は全体的には持続していたというのが現在の研究状況の評価です。
　微：まあ、マリー・キュリーやローザ・ルクセンブルクがポーランド出身というのは納得できる。
　苦：アレクサンドル2世は、これらの成果から失った自信を回復しました。
　微：ハブ酒やマカ王を飲んだようなもんか？
　苦：オヤジギャグはいいよ！　1873年にはバルカン半島をめぐってライバル関係にあるオーストリアを含めた三帝同盟を結びます。
　微：最低同盟？
　苦：無理してボケなくていいよ！　ですが、ドイツ・オーストリアとの協調は、1878年7月に開催されたベルリン会議で、衛星国ブルガリアの縮小という苦い現実の前に破綻します。
　微：これにインスパイアされて小田和正が『さよなら』を作ったんだよな。
　　♪もう終わりだね(露土戦争が)　君(ブルガリア自治公国)が小さく見える
　　　僕(アレクサンドル2世)の頬を涙が　流れては落ちる
　　　僕ら(オスマン帝国支配下のキリスト教徒)は自由だね
　　　確かにそう話した(ベルリン会議で)ね・・・
おお、完璧だ！
　苦：誰が解説でカヴァーしろと言った！　自信回復後、ロシアはアジアでの帝国拡大の可能性を見出し、それを東シベリア総督ムラヴィヨフが現実のものとしていきます。
　微：あのシベリア流刑中のバクーニンまで協力させた凄腕の軍人だな。
　苦：1858年のアイグン条約、1860年の北京条約で沿海州を獲得して不凍港ウラジヴォストークの建設を実現します。なお、当時の東シベリアはアラスカも含む管轄を持っていました。
　微：門戸開放三原則前、アロー戦争後とはいえ、見事だな。
　苦：毛皮を取る海獣の乱獲から無用な上に開発困難なアラスカ売却もアレクサンドル2世に進言し、1861年に辞職しました。
　微：自由主義者や社会主義者が集まっていたから身の危険を感じたんだよな。そんでパリへ。
　苦：彼がいなくなっても路線は変わらず、1867年にアラスカをアメリカに720万ドルで売却し、1875年には樺太・千島交換条約を結び、日本との国境を確定しました。
　微：この辺の見切りができるあたり、ロシアの改革派官僚は優秀だな。
　苦：中央アジアのトルキスタン地方ではブハラ・ハン国、ヒヴァ・ハン国を次々に保護下に置きました。なんだかんだ言って、アレクサンドル2世時代にロシアの領域はほぼ確定したんです。
　微：清朝の衰退期に長い国境線を接するようにしたのは見事だな。
　苦：しかし、このアレクサンドル2世はロマノフ朝の悲劇の先駈けでした。彼も暗殺され、次のアレクサンドル3世は宮廷内で謎の死を遂げ、最後のニコライ2世はロシア十一月革命で銃殺されます。
　微：次の国家消滅をゴルバチョフが代行したんだな。
　苦：アレクサンドル2世を暗殺したのはナロードニキです。彼らは社会主義を目指し、「人民の中へ」（ヴ・ナロード）をスローガンにしていた頭でっかちの理想主義者です。
　微：その「人民」って教育学部の「人間」と同じで、実在しない心の美しい存在だろ。
　苦：若さゆえの過ちというか、反動的な皇帝と地主の権力は農民一揆で打倒でき、かつ農村から一気に社会主義を建設できると、農民の説得に情熱を傾けました。
　微：ドイツ語で演説してたらしいな、誰もわからない。ここはＵ字工事路線で行かないと。
　苦：ナロードニキは、当時のロシア農村で行われていた土地定期割り替えを生産手段の公有と思いっきり誤解したんです。その誤解の元はマルクスなのですが。
　微：まあ、「周回遅れのトップランナー」という表現が通じる21世紀日本もやばいよな。
　苦：実際、頭でっかちなナロードニキは思うような支持を得られなかったばかりか、農村からたたき出され、政府の厳しい弾圧に遭います。
　微：捜査しなくても、どんどん密告が届きそうな雰囲気が漂っている。
　苦：彼らの一部は急進化し、皇帝や高官の暗殺で専制政治を打倒しようとするテロリズムに走ります。アレクサンドル2世は1881年に「人民の意志」党員の投じた爆弾により、暗殺されました。
　微：犯人は「むしゃくしゃしてやった。誰でもよかった。今は反省している」とコメントしました。
　苦：アキハバラの無差別殺人だろ！　アレクサンドル2世の心残りは内縁関係にあった「カーチャ」ことエカチェリーナ・ドルゴルーカヤでした。
　苦：1866年、48歳のアレクサンドルはスモーリヌイ女学院の女学生であったエカチェリーナと不倫関係になり、4人の子供が生まれて幸福な「別家庭」生活を築きます。
　微：側室の非嫡出児が無事に天皇に即位した明治天皇が羨ましかっただろうな。ほぼ同時代だし。
　苦：当然ながら、皇帝の死後カーチャとその子供達はニースに追放されました。
　微：でも、ロマノフ朝って、エカチェリーナ2世の段階で事実上、断絶してるだろ、アレクサンドル1世の父親の実の父親がポーランド国王だし。でも、ヨーロッパの王室は全部ヤバいよな。
　苦：それが恐くて、英国教会はチャールズ王太子の再婚を60歳過ぎまで認めなかった気がします。
　微：まあ、グレース・ケリーと結婚したモナコ大公という無頓着な人もいるし。
　苦：それは観光収入の確保のための打算だよ！