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ソフビけもの道(その7)ついにソフビ完成へ

いよいよソフビの本格的な原型作業に入るが、そもそもソフビ原理主義によるソフビは大好きだったことは前提として話し。

そもそも、おもちゃというのは完全な完成形でないと自分は考えている。
足りない部分をユーザーが脳内で埋めていき始めて完成形だと。

自分はそうやって脳内で想像した形、おもちゃで遊びながらイメージを膨らましていたキャラクター。
自分が生産するときはその『脳内補正』をしたものを作ることが楽しかったし、それを生産目標にしていた。

これらはのちに後述されていくと思うがそもそもの原理主義者たちにかなり皮肉を言われた。
『あべのはソフビじゃない、フィギュアだ』
『リアルに向けて作るのはどうなんだよ』
等々、枚挙に遑がない。
わざわざ怪獣軒にそいうふうに言ってくるそうだ。
しかし怪獣軒は気にしなくていいよ、というスタンスだった。

もちろん、自分自身は全くそんなものどうでも良かった。
そんなことよりも作るのが楽しかったし『ソフビはこうでなければけない』なんていうのはただの感想だ。
それが全ての意見だと思っている段階でこちらとしてもどうでも良かった。

いつもと違う表現があったときは常に何かを言われる。
自分は漫画描きだったから他ジャンルでもそういうことは体験している。
手塚治虫も然り。
自分も下賎な漫画と上の世代に言われながらも後輩にはそんなの漫画じゃないという。
石ノ森章太郎にしては自分が漫画だと思って描いているものは評価されず、お金儲けのためにやらされていたヒーローものの原作ばかりが評価される世間との狭間で苦しんだことを漫画にしている。

表現というものは時代と共に変化しているのだ。
原理主義のソフビもあって良い。
そうでないソフビもあって良い。
それそれがそれぞれを認め合う必要はない。
が、いちいち本人にオレの感想を世間の感想だ、という必要は全くない。
それが多様性だと自分信じている。

そうしているうちに若い世代が次々と老人の考えているソフビとは違う世界を作り始めていることは明白だ。

自分の作りたいもの、やりたいことをがむしゃらにやることが最重要でありそういう欲の捌け口こそが表現だと。


さて、シルバー仮面の原型が出来上がりついにワックス転換へと進む。
まずは怪獣軒から教わったようにやってみる。

粘土でドブを作り原型を埋める。


シリコンで薄い皮膜を作る




石膏で裏打ちする


反転し、反対側のシリコンへ


石膏で裏打ち

シリコンで薄い皮膜を作り、石膏で裏打ちする。

というもの。
手順通りにやってみる。

そしてワックスを流し半日かけて硬化させる、

泡が出たらやり直しを続けた。
のちにわかることだが、この方法ではワックスをうまく転換できない。
シリコンの薄い皮膜に石膏という形ではワックスの冷えが早くて歪んでしまうのだ。
ワックスはゆっくり冷ましていくことで形状を保つ。

そのためにはシリコンの冷えのコントロールをしないといけない。
シリコンが薄いのは問題外。
石膏の裏打ちも冷める温度を早めてしまう。

まあ、怪獣軒は原型師でない上にワックス転換もやったことがないから仕方がないことだが、こういう部分にも原型製作の難しさが出る。

そうして転換が出来上がったのが記録によると2010年1月26日。
原型ができて約1ヶ月弱。


複製直後
シリコンカスや気泡を潰す作業に入る

ここから気泡を潰して表面処理へと進む。
ワックスペンで気泡を潰したりベンジンで表面を磨いたりするが、なにぶん初めての作業。
どんどんエッジがなくなってしまう。
なくなると盛り付けて修正するの繰り返し…

どうしたものか?と思ったところに
『メイクなんかで使う先の尖った綿棒使うといいよ』
と怪獣軒。
今は模型用具でタミヤなんかからも出ている。
それで最終的にエッジを立たせて納品をした…


この綿棒でエッジを立てていく



完成したワックス原型

原型のイメージを崩さずに作ったつもりだが、引けと歪みはかなりきつい。
ひと回り小さくなった上に細くなってしまった。

実に翌月、2月22日までワックスの修正がかかった…

ここからは工場にお任せする。

ソフビを組み上げるためのジョイント(嵌着)と材料の注ぎ口(湯口)の取り付けに1週間。
金型製作に1週間。
塗装マスクに3週間程度。

今では考えられら異様なピッチで生産が上がる。
この日数を見ても当時はいかにソフビを製作する人が少なかったか、またブームが去っていたかがよくわかる。
それくらい業界的にはそこに落ちつつあった。

この間に、そもそもお体の悪い怪獣軒。
入退院を繰り返しながらも進行をして来る4月12日。

ついにサンプルが完成する!


初めて自分の制作したものが製品となった…
正直全く実感が湧かない。
そこに見えてるものはお店に並んでいるものそのものだった。
ほんとに自分が作ったものなのか?
というふんわりした感情と共に、興奮もおさまらなかった。

怪獣軒もかなり喜んでいた。
そして今後の手応えを感じていることも伝わる。

もちろん、数年ぶりの新作の上にソフビ業外の大不況の最中。
『これは良い』という気持ちと『売れなかったどうするんだ…』
という気持ちは自分も怪獣軒も同じだったと思う。
継続することは困難と分かっていても作った、というのが現状だった。

もちろん、悲しいことに怪獣軒の戦略自体はかなりビジネスとして乏しかった(笑
このままではいけない、と思いさいどおおさかさんと販売について戦略を練ることにした…

案の定、最低のスターを切ることは言うまでもない…
ここまで燦々たる結果になろうとは思いもよらなかった…

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