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JINSの経営メンバーであった私がPatheeで何を成し遂げたいのか? <後編>


今回は、JINS時代に感じていた小売業のデジタル化に関する課題と、その課題感がPatheeの可能性とどう結びついたのかを書いてみたいと思います。


デジタル化時代の課題

JINSがメジャーになった直接的なきっかけは、2009年から仕掛けたCMによる認知度アップと、折り込みチラシによる購買訴求が、うまく両輪として機能したことが大きな要因であることは間違いありません。
(その前提として、ビジネスモデル全体の見直しがあるのですが、それはまた別途)

JINSに限らず、CMでブランディングし、チラシで販促して購買につなげるというのは、過去においては店舗型の業態におけるマーケティング手法の鉄板の組み合わせだったのではないかと思います。

電通による2019年の広告市場規模の調査において、インターネット広告の規模がテレビCMのそれを超えたことが大きな話題になりましたが、私がJINSの日本事業を担当していた2010年代の前半にすでにその兆候は顕在化しつつありました。
そのため、インターネット上でどうやって新規集客を行い、来て頂いたお客様とエンゲージメントを高めていくか、という点については、ずっと課題感を持っており、当時から社内のメンバーや広告代理店の方々とも議論を重ねていました。

Twitter施策や、EC誘導施策、アプリ施策など、私が在籍したときも色々と試行しましたし、今でも色々と施策を打っていると思いますが、おそらく、鉄板となるマーケティング施策は未だ見つかっていないのではないかと思います。
特にテレビ・新聞・雑誌というメディアに積極的に触れない若い世代に、どうやって情報を届けるのかという点は、JINSに限らず他のブランドであっても、同じような課題をお持ちなのではないでしょうか。



米国での経験から

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そういった課題感を持ちながら、2013年にいったん日本の事業の担当を外れ、ゼロから米国の事業を立ち上げることになりました。
当初は、米国においても、日本と同様の、マスマーケティングを活用した垂直立ち上げを準備していたのですが、日本での事業環境の変化などもあり投資を縮小することになったこと、米国においてはそのようなマスマーケティングは時代遅れと思われる、という現地スタッフの意見もあり、最小限の投資でローンチするプランに変更にしました。

そのプランの中でフォーカスしたものの一つのが、Yelp!での集客でした。
Yelp!は、日本でいう食べログのようなクチコミサイトなのですが、食べログと違う点は飲食業以外の店舗もたくさん掲載されていることです。
米国の消費者が何かお店を選ぶときには、まずはYelp!でチェックしてみる、というぐらい浸透しているサービスです。

そして、クチコミが高評価なお店ほど集客につながるというのは、飲食業界における日本の食べログともまったく同じ構造です。
そのため米国のJINSでは、このYelp!で高い評価を獲得することを目標に掲げ、マーケティングの施策設計を行いました。

たとえば、同じく日系企業でありながらシリコンバレーでブランドを築きつつあった伊藤園さんの現地法人にご協力頂き、Yelp!でチェックインして頂いたお客様には伊藤園のお茶を差し上げる、といったような地味な施策を実施し、少しずつクチコミを蓄積していきました。
(チェックインすると、後日、Yelp!から自動でレビュー依頼のメッセージが通知されるため、まずはチェックインしてもらうことが重要でした)

結果として、初年度からYelp!上で高い評価を得るとともに、ローカル紙からもベストアイウエアショップに選出されるなど、よいスタートを切ることができました。

もちろん、これらはマーケティング施策だけで成し遂げたことではまったくなく、他のメガネ屋さんに負けないサービスレベルを実現してくれた米国のスタッフ陣、日本と同等の価格・品質を実現してくれた日本の調達チーム、グローバル旗艦店にふさわしい店舗デザインのディレクションをやってくれた日本の店舗開発チームなど、JINSが一丸となって米国事業の立ち上げに邁進し、日本同等以上の基幹店舗ができあがったことが、大前提にあるのは間違いありません。

とはいえ、上記のようなマーケティングを行いながら、米国にいる目から日本の小売業を見て気付いたのは、消費者視点からも事業者視点からも、これさえ見ておけば・力を入れておけば間違いないという、米国でのYelp!のようなポジション(日本の飲食でいうところの食べログのポジション)を実現しているサービスがないということでした。

もう1点、米国で感じたのは、小売業におけるオンラインとオフラインの融合の流れです。
JINSが米国進出するにあたり、最大のベンチマークとしていたのが、Warby Parker(ワービー・パーカー)という、今でいうD2Cのメガネ屋さんでした。
(当時はD2Cというコトバはありませんでした。ただ、D2Cの先駆けともいえる Warby Parker や Dollar Shave Clubが立ち上がったのは、2010年〜2011年なので、日本はまだソシャゲ真っ盛りの頃です。)

当初、Warby Parker はメガネのECとして始まったのですが、既存のECと違う点は、サイト・商品の世界観・デザインについて非常にこだわっていたこと、そして、採算度外視と思われるような独自の試着サービスがあったことです。
メガネは顔につけるアイテムである以上、服以上に、実際に試着してみないと、かけ心地も似合うかどうかも分かりづらい商品です。彼らはECでメガネを売るために試着が必須と考え、独自の試着サービスを、既存のメガネECに対する差別化ポイントとして打ち出していました。


試着の流れは、
1.サイト上でいくつかフレームを選ぶとサンプルが自宅に届き、
2.そのうち欲しいものを選んだ上でメガネの処方箋と一緒に送り返すと(米国ではメガネを作るのに処方箋が必要)、
3.選んだフレームに度付きのレンズが入ったメガネが自宅に届く、
という、サービスです。

つまり、過去に有名だった(そして今では米国では当たり前になった)ザッポス型のモデルをメガネに持ち込んだのが Warby Parker でした。
オンラインだけではなく、当時からオフラインにも力を入れており、ニューヨークの高感度なエリアであるミートパッキングに、彼らの世界観を体現した非常にコンセプチュアルでカッコいい店舗を構えており、接客も高いレベルを実現していました。

店舗でもメガネのオーダーはスタッフ用のiPadから、オンライン発注する形式で、オンラインとオフラインの融合を早くから指向しているのが彼らでした。それらの要因に加え、メガネを1本買うと途上国にメガネを1本寄付するというような社会貢献を打ち出していたこともあり、そういったブランドに共感するミレニアルやZ世代の支持を受け、目下も成長中のブランドです。
なお、当時はニューヨークで2店舗のみの展開でしたが、現在は米国とカナダで合計120店舗以上を展開しています。

他にも、Amazon が無人店舗をトライしていたり、米国の最大のリアル店舗事業者であるウォルマートがオンライン事業に非常に力を入れていたりと、米国ではオンラインとオフラインの購買体験の融合が一足も二足も先に進んでいます。

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今後、日本の小売業界においても、オンラインとオフラインの融合は進んでいくと思いますが、米国と比較してオンラインとオフラインの人材面・カルチャー面での隔たりがまだまだ大きいため、日本では苦労するのではないかという課題を当時から感じていました。

これは私の前職のEC企業において働いていた時も感じていたことで、同じ小売業であっても、リアル店舗中心のビジネスと、ECのみのビジネスでは、そこで働いている人間のバックグランドが大きく異なり、これを統合して一つのビジネスとして推進するのは、大変難易度の高いことだと感じたからになります。

逆に言うと、そこにいち早くチャレンジし成功している Amazon や Warby Paker は非常に強いということですし、日本では、そういった面でもまだまだビジネスの変革の種は眠っているということなのではないかと感じています。
日本では、そういった他の業界のプロフェッショナルを高給であっても積極的に採用し、かつ使いこなすべく奮闘しているのは、ユニクロぐらいなのではないかと感じています。

まとめると、昨年時点で、私は、
1.日本においてはYelp!に代表されるような、小売業の店舗を比較し探すためのサービスが未成熟
2.カルチャー面でも人材面でも、オンラインとオフラインはまだまだ隔たりがある
といった課題感を持っていました。

Patheeとの出会い

このような課題感を持っていたところで出会ったのが、Patheeという会社でした。私自身、Patheeというサービスをほぼ認知していなかったのですが、にも関わらず、すでにサイト規模としては650万MAU(月間アクティブユーザー数)もいるということに、まず驚きました。
Google検索からの流入が大半なので、Patheeというサービスを使っているという認識がなくても、実は多くの人が使っているサービスでした。
ざっくり日本人の20人に1人は、月に1回は使っているという計算になります。
ただ、Patheeのサービス特性が、大都市圏のターミナル駅中心のまとめが中心になっていることもあり、実質的な人口カバー率は50%程度と見ています。なので、その人口カバー率に対しては、実際は10人に1人くらいは、月に1回は使っているサービスといえます。

このようなサービス規模にも関わらず、ビジネス開発が当初計画より進んでいないという会社としての課題感があるという話を聞き、これまでの経験を活かして貢献できるのではないかと感じました。
これは上の「1.日本においてはYelp!に代表されるような、小売業の店舗を比較し探すためのサービスが未成熟」への回答になると思いました。

また、代表の寺田が、事業の今後のビジョンとして、いずれはどの商品がどこに売っているのかまで分かるようなサービスを作りたい、と言っているのを聞きそれにも強く共感しました。
ECの利便性はすぐには届かないけど、検索しやすいことに対して、リアル店舗の利便性は、実物を見られる上にすぐに手に入ることです。これに、検索がつけば、リアル店舗がECに劣後するポイントが大きく改善することになります。

これもまた別途どこかで書きたいと思いますが、ECだからといって安いというのは実は幻想であることを、私は前職を通じて学びました。物流は個別配送より圧倒的に大量配送の方が効率がよく、特に単価の安い商品でECがリアル店舗に価格で勝つのは難しいのです。

また、この寺田のビジョンに共感したメンバー達が非常に優秀であることに驚きました。
実際、Patheeというサービスそのものは、日本最大級の小売業向けメディアと銘打っても誤りではないほどの規模に育っています。
プロダクト開発では、今まで私が携わってきたシステム開発とは比べものにならないスピードで、日夜サービスの改善が進んでいます。
ビジネス開発に携わっているメンバー達との顔合わせでも、売上がほとんどないスタートアップとは思えない優秀なメンバーが揃っていると感じました。

ただ、何かパーツが足りずに、ビジネスとしてのマネタイズが進んで来なかったのだと思います。
そこに私自身の、リアル・EC両方を経営視点から見てきた経験をインプットすることで、リアル店舗のデジタルトランスフォーメーションをブリッジするための戦闘集団に変えられるのではないか、と考えるに至りました。
これは「2.カルチャー面でも人材面でも、オンラインとオフラインはまだまだ隔たりがある」への回答になると思いました。

といった思いから、2020年初にPatheeに参画し、今に至る次第です。
現状は正直言って、コロナウィルスの影響で我々のクライアントである小売業も大きなダメージを受けており、そこにサービス提供をする我々としても決して足元が順調なわけではありません。

ただ、今思えば、前の記事にも書きましたが、私がJINSに入った2008年はリーマンショックの年であり、JINSも株式市場からの退場を迫られる一歩手前まで行っていましたし、本業そのものも競合にシェアを奪われつつあり、非常に厳しい状況であったことを思い出しました。
その危機を乗り越えるために大きな変革を行った結果として、今のJINSが存在しますし、その経験そのものが私の人生の大きな転機になったのは間違いありません。

なので、同じように転職直後に世の中や会社に大ピンチが訪れるという事態に、ある種、運命じみたものを感じている自分がいます。


Patheeが小売業のデジタルトランスフォーメーションの新しい地平を切り拓くための、大きなチャンスと捉えて戦って行きたいと思います。
ともに戦って頂ける小売業の皆様、小売業の変革に貢献したい優秀なエンジニア・CS・営業の皆様、そしてすでにPatheeにいる仲間達、よろしくお願いいたします!


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