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巡回個展「きみを食む」作品紹介

めちゃくちゃ遅くなりました。本当は2019年のうちに上げるつもりだったんですがいつのまにか桜が咲いているなど。
様々なイベントや展示などの催しがやむを得ず開催中止・延期される中で、せめてネット上で展示を楽しんでいただければと思い、取り急ぎこの記事を無料公開することにしました。ぜひおうちでゆっくり楽しんでいただけると嬉しいです。

この記事では第三回目にして初の大阪・巡回展となった2019年個展「きみを食む」で展示した額装作品全47点を、キャプション文と簡単な解説コメントつきでご紹介します。

その前に、大阪会期の動画がこちら。
会場音楽のクロスフェードも兼ねているので、BGMにしながらお読みいただくとより楽しめます。
作曲は平松誠さん(@hiramatsu1988)

CDは通販で若干数取り扱っております。

以上CMでした。
それでは、召し上がれ。

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2011年制作「赤色と角」
あまくてとろける、果実のような
初参加のコミティアで、初めて作ったイラスト本「Horns Carnival」の五連作の一つ。今回の個展で一番古い絵です。この頃はまだ四肢が細かったなあ。

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2012年制作「食葬」
切り落とされた四肢はその儘食卓に並んだ
4冊目のイラスト本「少々Lのための五つの葬り方」より三女のL。食べて弔らうという葬送。

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2013年制作
「小腸フィットチーネのカルボナーラ」
絡みつく卵液と腸壁の食感

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「肝臓のラグー」
レバーはしっとりと煮込んで、舌触りを楽しんで

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「心臓のカシスソース掛け」
フルコースの最後を彩る、デザートはきみの
5冊目のイラスト本「食卓の上のアリステア」から3作品。今回のテーマの根幹となる本です。愛しいものの記憶と想いを腑分けしたフルコース。

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2014年制作
「サーカスの味がする」
彼女の名前はニコラヴィチ。今日はお子様ランチのサーカスへおでかけ。
寄稿原稿として描かせて頂いたひかがみひなみさん宅のニコちゃんです。そういえば一度も原画をお見せする機会がなかったなと思ってお借りしてきました。焼きインゲンの照りが気に入っている。

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2014年制作
「飽食の一品」
満たせ満たせ 食欲の皿
制作当時ソシャゲが流行りだした頃で、アリステアがSRくらいで出てきたらどんな風かな、という子煩悩で描いたヴィネットでした。清楚なお皿のような額装をして貰って可愛さ増し増し。

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2014年制作
「外殻」
その扉はあの寝室へと繋がっているそうだよ
キャプションにあるあの寝室とは、コルのいる寝室のこと。同年に制作したコルの鎮痛剤という作品に繋がっています。心筋の壁に守られた心室。

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2019年制作
「鼓動を聞かせて」
あたたかい やわらかい 脈うつ きみの鼓動
脈打つ温度を描きたくて、滲みを生かした塗り方をしました。聞き入るアリステアの表情が気に入っています。

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2012年制作
「お節少女」
宴席を彩る朱塗りの揺り籠
巳年の年賀状絵でした。左下にとぐろを巻いた白蛇がいます。めっちゃ反射入ってしまった…写真撮るの下手で申し訳ない

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2017年制作
「食欲の虜」
あなたはその魅惑の香りに耐えられるだろうか
味玉と海苔と湯気が会心の出来。モデルは一時めちゃくちゃ通っていた高円寺のラーメン田ぶしです。都内で好きなラーメン上位3位に入る。これは定番の田ぶしラーメンだけど濃厚海老味噌ラーメンもおすすめ。

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2017年制作
「鶏肉入りお煮しめ」
お出汁しみしみ 冷えても美味しい
(ここの一角は夜に撮影するべきだったな…)
酉年の年賀状絵。2012年の巳年と比べると彩度とか照りとか良くなってる気がする。椎茸とこんにゃくと着物の袖の滲みがお気に入り

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2018年制作
「草兎のフラワーサラダ」
草の匂い 花の香り きっと花壇か庭園に違いない

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「人魚のギムレット」
憧憬と恋慕をスパイスに、この身を溶かして飲み干して

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「ジャッカロープのステーキ」
兎は柔らかく、鹿は味わい深い 間の君はどんな味がするだろう

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「食用羊のロースト」
食べられるために生まれてきた、きみの温もりを噛みしめる

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「七面鳥のオーブン焼き」
チーズのお布団 お芋の枕 暖かいオーブンの中
同年発行、食用の生き物たちを美味しく調理していただくイラスト本「獣たちの晩餐」のための5作品。この本を作り始めた時点で、今回の個展の構想も一緒に考えていました。今回の個展では「食べる」を分かりやすく体現している彼女たち。テーマへの導入の役割を果たすため、大阪・東京ともに会場の前半に配置していました。

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2019年制作
「深海の琥珀糖」
彼女は深海の妖精 水底で揺れる静寂と孤独

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「満月の琥珀糖」
彼女は満月の妖精 とろける蜜の味は全てを溶かす

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「新月の琥珀糖」
彼女は新月の妖精 照らされざる裏側、秘密の味

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「薔薇の琥珀糖」
彼女は薔薇の妖精 仄かな甘さと苦みが口腔を満たす
妖精の琥珀糖(Fairy Bonbon)4連作。しゃりしゃりとしてほの甘く、さて中の妖精はどんな味がするのだろう。生きた妖精を砂糖で固めて売る洋菓子店の看板商品、というコンセプトでした。

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2019年制作
「メレンゲの右手」
優しくその手を取って
「メレンゲの右足」
そっと齧りつく
ビスクドールの手触りって砂糖菓子みたいだなと思って描きました。

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2018年制作
「春のメインディッシュ」
例えば緑のしたたる春の木陰で、鳥のさえずりを聞きながら

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「夏のメインディッシュ」
例えば瑞々しい夏の晴天の下で、溶けた氷の音を聞きながら
生ハムとローストビーフ、お肉のスカートで2連作。秋と冬も描くつもりで間に合わなかった。売られているこの額を見て「お皿っぽいな〜」と思い、額に合わせて絵を描きました。

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2019年制作
「草兎の装い」
彼らは何も語らない その口はただ互いを啄むために
柄物のグッズが作りたいという理由で描いたので当初展示する予定はなかったんですが、素敵なマットを作って頂けたので額装しました。マットの材質は毛足の長いふわふわ生地で、兎の毛並みのイメージ。

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2019年制作
「微睡む寄せ植え」
水は土が湿るくらい、直射日光は避けてください

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「草兎のローズティー」
ゆっくりと花弁が開くのを待ってから
物言わぬ草兎たちが芽吹かせる草花は、その土壌である肉体と共生の関係にあります。共生や寄生も「糧とする」という意味においては「食む」に相当すると考えています。

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2019年制作
「一口掬って」
ブイヤベースでじっくりことこと

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「孵化する揺籃」
もしも天使が卵生だとしたら

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「あたたかなシーツ」
おやすみなさい、良い夢を

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「マシュマロドリーム」
あの子のやわらかな四肢はきっとこんな食感
美味しいものATC連作、魚と卵とハムとマシュマロ。ATCは大きな作品ではやらないような、シンプルな構図や切り取り方が出来て、また違った楽しさがあります。

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2019年制作
「蔓延るプラシーボⅡ」
苔生した恋心は茸の下に 僕は緑色した偽薬を食む
II、ということはIがあるわけで。2013年と2011年の作品を足して割ったリメイクかリミックスのようなものです。茸は寄生のモチーフで、巣食うのは彼女の脳。その想いは本当に自分のものなのか、という話。

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2016年制作
「したたる柘榴と」
柘榴の皮 刀の鞘 彼らに比べれば私の表皮はあまりに薄い
今友マーヤさん主催の合同誌「セーラー服と刀」に寄稿した作品。あんまり原画をお見せする機会はなかった気がする。この当時まだ大きいラングトンの紙が高くて手を出せなくて、ヴィフアールを使っています。

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2016年制作
「標本部屋のアリス」
埃と黴のにおいがするわ
大阪会期において、二階の会場美術の着想元になった作品です。原画は光の当たり方によって、画面左上の方で埃のような空気が僅かにきらきらします。変な生き物が潜んでいたり、他の絵に繋がる箇所があったり、近くで覗き込むとまた発見があります。

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2019年制作
「きみを食むための三皿」
アン、ドゥ、トロワ  回る廻る一日 巡り廻る食卓
会場音楽として楽曲の作成を平松さんに依頼する際、出来ればCDという形で残したいなと思いジャケットイラストとして描きました。三曲で一組になっていて、そのイメージラフとしても提出していました。右から左に向かって朝食、昼食、夕食の三皿です。
会場ではBreakfast→Lunch→Dinner→Breakfast…と一周15分を繰り返していました。一周で一日という形です。「食べること」は日々の繰り返しの中にあるということ、それが今の自分の体を構築しているのだということ。その食事を彩る三皿、或いは三曲。そんな構想でした。

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2018年制作
「ミルキームーン」
ミルククラウンのお姫様 ふんわりぽってり 満ちる眠り

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2019年制作
「月の味の向こう側」
その一口で、夢見心地
お月さまと、お月さまを食べるアリステアの並び。美味しそうな月を描く度、絵本のぐりとぐらに出てきた大きな卵のパンケーキを思い出します。バターと蜂蜜をかけて…とろっとね

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2019年制作
「沈んで、沈んで」
それは酷く心地良く、私を泥に溶かしていく

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「真夜中の邂逅」
今晩は、素敵な夜ね そう囁く彼女はピートの香りがした
この2枚の構想はほぼ同時に練りました。ワインとウィスキー。個人的に一番酔い心地が好きなのがワインで、一番よく一人で飲んでいるのがウィスキーです。そんな彼らの好きな側面を切り取りました。

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2019年制作
「白骨の殻Ⅰ」
この骨は私を守る殻で

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「白骨の殻Ⅱ」
この骨は僕を象る冠で

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「白骨の殻Ⅲ」
この骨は君を支える格だった
骨の在り方を定義する三連作。カルシウムの殻から生まれてカルシウムの骨だけ残して朽ちていく。彼らを、我々を形成する骨の話。

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2018年制作
「安寧を数える」
つのる想いと臓腑を切り分けて つのる愛しさを壁に連ねて
ハンティングトロフィとの最初の出会いは小学生の時に見た銀河鉄道999で鉄朗のお母さんが機械伯爵に剥製にされていたシーンでした。愛しいもの、美しいものをその手で射止めて皮を剥がすこと。残った骨を連ねて安寧の壁を築く。

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2019年制作
「ぼくを食む」
その冷たい銀のナイフで、柔らかな繊維を切り裂いて
捕食する側が常であるアリステアですが、或いは彼女にも被食の側であるときがあるかもしれない。食う食われるの関係は容易に覆るし、食物連鎖は円環する。

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2019年制作
「きみを食む」
きみの血肉も、感情も、記憶も、全て僕が嚥下する
メインビジュアルでした。フライヤーとして文字が入る前と後とでまた違った趣があったのではないかと思います。肉を内包する骨と、その蜜に誘われる蝶。敢えて周囲の彩度を落として手にある心臓を際立たせる試みでした。

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2019年制作
「誘う薄闇」
よく来てくれたね、さあ此方へ
大阪会期が始まったとき、一番最初にご紹介した作品でした。
幕開けがこの作品であったなら、幕引きもまたこの作品がいいだろうと思い、これにて最後の作品紹介です。
ここまでお付き合い有難うございました。

此度の個展はこれにておしまい。いかがでしたでしょうか。
お口に合いましたら、幸いです。

次の個展は2~3年後を予定しています。
役者は生命の螺旋を紡ぐ角の者たち。

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それではまた、次の舞台でお会いしましょう。

いただいたサポートは私の画材代だったりおやつ代だったりになります。