海外に流出したシャインマスカットの流通を止める方法はないのか?
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海外に流出したシャインマスカットの流通を止める方法はないのか?

フィラー特許事務所|弁理士・中川真人

中国が世界の工場と言われていた2007年の出来事

農研機構が開発した新品種「シャインマスカット」の苗木を外国から来たバイヤーが持ち出し、海外で大規模に栽培され収集がつかなくなってしまったのが、シャインマスカットの国外流出事例です。

シャインマスカットの苗木が流出したとされるのは2007年〜2008年近傍とされていますが、この頃は中国における工業製品の一括製造と中国を起点とする国際流通が一般化し、中国が「中国は世界の工場」と言われるほどの勢いを持っていた時期です。

シャインマスカットの苗木はこの時代に流出し、中国国内で工業製品と同じ勢いでシャインマスカットも大量に栽培され、大量に流通を始めたのです。

2000年代初頭、外国での保護はノーマークだった。

シャインマスカットの苗木は外国に適法に持ち出されたとされています。そして、シャインマスカットは日本国内では品種登録がされ種苗法(しゅびょほう)と言われる法律で流通が保護されていましたが、種苗法の効力は日本国内での流通にしか及びません。
品種登録の制度は世界中に整備されています。しかし、シャインマスカットは日本国内での品種登録しか行っていませんでした。ですから、外国で栽培され外国で流通するシャインマスカットは今日も適法に流通しています。

名前だけでも禁止できないのか?

ではせめて、シャインマスカットという名前だけでも使わせないようにはできないのでしょうか。
「シャインマスカット」は品種名です。品種名はその品種の一般名称として登録するものですから、扱いとしては「さつまいも」とか「いよかん」といったジャンル名と同じなのです。
ですから、シャインマスカットをシャインマスカットという名前で売ることは、スマートフォンを「スマートフォン」という名前で売っているようなものなのです。
国際的にも、日本の法律により適法に品種登録がされ一般名称として扱われることとなった「シャインマスカット」の名前を、いまさら「品種登録名を変えたいです」といったところで、そんな一国の事情に世界がわざわざ特別扱いをしてくれるはずもありません。

つまり、時代が変わった。

農業は開発者と生産者が異なるという業界特性があります。工業製品では一つの会社が開発しその会社が製造するのが普通ですが、農業は種苗会社があって、実際に育成する生産者(農場経営者)がいて、工業製品のように産業構造が単純ではありません。
しかし、農業関係者は長年の信用が構築されていたおかげで、種苗会社が利益を独占することも、生産者が種苗会社の利益を害することも起きてはいませんでした。

ところが、それは外国の業者には通用しなかったのです。日本の法律の枠内で適法に苗木を入手し、日本の法律が及ばない外国で大規模に栽培して世界規模に流通させた最初の事例が、このシャインマスカットなのです。

今までは、日本国内で日本人同士がローカルに事業を行うのにとどまっていたから特段問題が起きていなかったというだけで、抗えないほど魅力的な品種を開発したともなれば、外国からその苗木を手に入れようとする事業者が現れて、外国への持ち出しを企てられたとしても不思議ではありません。

さきほど「今までは、」と書きましたが、それは2003年のことです。起きてしまったことは仕方ありません。2003年なら仕方ないかもしれません。
しかし、2022年、2回目の品種流出を仮に許してしまったら、これは仕方がないでは済まされないでしょう。
今、我が国農業の優良品種は、間違いなく世界中から狙われているといっても過言ではないのですから。

生産者の協力が不可欠

従来、特許や商標は主に製造業を中心とした工業製品の分野で広く活用されてきました。そのため、とりわけ特許法は工業製品の大量生産に活用しやすい設計にカスタマイズされてゆき、農林水産業の事業特性には直接当てはめにくい制度設計になっている部分も少なくありません。

そして、知的財産法を専門に扱う私たち弁理士自身が、種苗法をはじめとする農林水産部門の知的財産制度活用の業務を取り扱えるにもかかわらず、そのサポートが十分に行われてこなかったという反省もあります。

しかし、今後農林水産業はIT技術分野にもならぶ我が国の成長産業であることは間違い無く、現に日本の産品と新品種は世界から「目をつけられている」のが現状です。

そこで、フィラー特許事務所ではシャインマスカットの事例をもとに品種登録制度と知的財産制度活用に必要な法律の解説を行なったテキストを新たに書き下ろし、農林水産業に携わる方々へ提供することといたしました。

内容は浮ついた希望論でも誰かを批判しあう水掛け論でもなく、これから必要になる法制度の仕組みを解説したいわば教科書です。

そして、この情報を必要とするのは一般の従事者ですから、限りなく平易でありつつ、それでも内容の精度とボリュームは犠牲にしない最適なバランスを取ることに細心の注意を払いました。

私たち法律家はどうしても自分をすごく見せようと必要以上にわかりにくい説明をして自己満足に浸りがちなのですが、そもそも興味も持てない理解もできない話をしても、時間と紙を無駄にするだけでただの害悪でしかありません。

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弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp

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フィラー特許事務所|弁理士・中川真人
2021年に誕生した大阪梅田の新しい特許事務所「フィラー特許事務所」を経営している弁理士です。 弁理士は、知的財産権に関する業務を行うための国家資格者で、一般には特許、実用新案、意匠、商標に関する特許庁との手続きの代理を行う専門家です。