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眠れる砂漠の美女

これから彼女は旅に出る。

私と彼女は親せきで、特に仲が良かったわけではないけどそれでもいままでずっと関わり合いを持っていた。
この湖のそばの砂漠の中のオアシス都市で私たちは生まれてからずっと過ごしてきた。
私と彼女は同性で同じような年齢だったので、小さいころから家族付き合いをしてきた。
そしてお互い結婚し、関係が疎遠になってからもなんとなく連絡は取っていた。
私はいわれるがままに結婚して子供が生まれ、この町で他の女性たちと同じようなありきたりな生き方をしてきた。
それが当然なことであり、疑問に思うこともなかった。

もう今ではよく覚えていないが、彼女は違った。
あまり幸せそうな人生とは言えない生き方だった。
当時は人と違う生き方はおかしなもの・まっとうなものではないものとされて周りから疎遠になることが多かった。
今では考えられないことだが、当時はそうだった。
彼女はまさにそうだった。
回りの人から敬遠され、最後はほぼ一人で生きてきた彼女は、今日旅に出る。
船の形をした棺に入れられ、砂漠に埋葬されるのだ。

今日がその葬儀の日だが、参列者は私を含め4人しかいない。
本来ならもっと多くの人達が参列するのが、彼女はその生き方のせいで参列しようとする者がいなかった。
私は親族で誰かが参列しないと一族の名折れになるので参列した。
でもそれほど嫌な気持ちで参列したのではない。
私は彼女をそれほど非難する気にはならず、むしろ彼女の境遇をとてもかわいそうに感じていた。
数少ない参列者の中で、私は棺の中に眠る彼女の顔を見た。

とても幸せそうな顔をしていた。

砂漠を船で旅立つ彼女を最後まで見届け、彼女の航海が幸せなものとなるように祈った。

私たちの体が塵となり一片のかけらも残らず消え失せた後、数世紀ののちに彼女の航海が終わりまた人々の前に現れた。
安住の地を得た彼女は今何を思うのだろうか。


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