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いまさら真面目に読む『美味しんぼ』各話感想 第27話「直火の威力」

 「初期の『美味しんぼ』からしか得られない栄養素がある…そんなSNSの噂を検証するべく、特派員(私)はジャングルへ向かった…

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■ あらすじ

 直火、とは・・・いろんな意味が包含された味わい深いお話

 今回は私の大好きな回です、ちょっと力が入って超長文になるかも。ご容赦いただけると幸いです。

 周夫人の頼みである男の営む料理店への視察?を行うこととなった山岡・栗田コンビ。しかも夫である周大人には内緒で…というのも、その男は周大人の店で働いていた料理人であったが、周大人の娘と恋仲になりついには駆け落ちした相手なのである。夫人は娘が駆け落ちしてから、その行方を追い、半年ほど探したすえようやく居所を突き止めたのだ。

こんな価値観の周家。上流階級だなあ…

 おそらくこの調査も周大人には内緒で行ったものだろう。たぶん周大人は男の名や娘の名を聞くだけでも、阿修羅のような形相で怒りだすのだろう。しかし女親としては娘のことはそうスッパリ見放せるものではない、そういったところなのではないか。だから夫に内緒で調べを進め、居所を突き止めたといっても他に頼る人もなし…と思っていたところに山岡が現れ、この人ならと見込んで依頼してきたのだと思う。こういうところは作中で多くは語られないが、そう見込まれたら無茶振りでもやってしまうのが山岡という男なのだ。
 
 件の男の名は王士秀。男の妻となった、周大人の娘は香玉といった。2人は「蒲田の場末」に中華料理店を出しており、山岡らが赴いた際には行列ができるほど繁盛していた。香玉は赤ン坊を背負いながら客の注文を取り愛想を振りまき、士秀は厨房で腕を振るう。本場の材料を使い、いい腕で調理している…少なくとも栗田はそう思い「美味しい」と賛辞を送るが、山岡はいまひとつ浮かない顔をしている。
 山岡はひとしきり料理を食べた後、あらためて「チャーハンを一つ作ってくれ」と注文する。真意のわからない不気味なオーダーだ。出来上がったチャーハンを食べて一言

 と言い放つ。さすがに士秀もこれには腹を立て、真意を質そうとするが、2人が周夫人の「密命」を帯びてやってきたとわかると、急に士秀は怯え、反対に香玉は顔を真赤にして「私はもう周家とは関係ないんだから!」と怒る。 慌てて栗田が間に入り、周夫人の「密命」の意図を説明する。

やはり夫人は香玉を変わらず大事に想っていたのだ

 高架のガード下、店の2階部分にある2人の住まいに場を移し、2人と山岡・栗田コンビは話をする。列車が通るたびに轟音と振動がやってくる、在日華僑の顔役である周大人の娘の嫁ぐ先としては、たしかに「場末」という表現がしっくり来る環境だ。

 話を進めていく内にこの度の周夫人の「密命」が実はほんとうに娘夫婦の行く先を案じてのことだとわかる。なんでも、士秀はこの店が繁盛したのを自信とし、もっと大きな店を持つために広東同郷会に融資を申し込んだのだという。周大人はその会の会長だ。当然「あの王士秀が融資を申し込んでた」と周大人の耳にも届くだろう。小心なのか大胆なのか、士秀の人となりが分からん… 端々に周大人への恩を駆け落ちという形で裏切ることとなった申し訳無さを感じさせるが、同郷会の副会長の知己を得ているからといって、周大人に直につながる組織に融資を申し込むなんて、周大人の顔に二度泥を塗っているのと同じことだ。
 やはりというか、やっぱりというか、当たり前だというか、この話は周大人の知ることとなり、広東同郷会からの融資を引き出すために、試食会を行い、士秀の料理の腕を会員の前で披露し、その承認を得ることという条件が周大人会長閣下様から出されたのである。

周大人も副会長を無下に出来ず、もっともらしい条件をつけてきた

 受けて立て!王士秀!…といいたいのだが本人は若干意気消沈気味。
「旦那様のお怒りはそれほどまでに激しいのか…」と嘆息すると、香玉は香玉で「(もうあなたは周大人の使用人ではないのだから)旦那様というのはやめてと言ってるのにっ!」と怒りだす。

山岡は士秀の姿勢に一抹の不安を覚えるが…

 確かに料理の味を試されるのに、士秀の心がけ(使用人根性)の話をしてもなあ…ということで山岡は杞憂かと思いこの場面では指摘を避けた。
 そして試食会当日。絢爛豪華な料理の数々が卓に並び、概ね同郷会のお歴々の評判も良い。これはイケるかも…と手応えを感じた矢先に周大人は

山岡の心配が的中してしまう

「チャーハンを作って来い」「しまった!」
山岡が士秀の店で注文したのと同様に、周大人もチャーハンを作らせる。そしてこれまた同様に、評価は芳しくなかった。中華料理の基本たるチャーハンがうまく出来ないのではコックとして失格、という落雷の如き厳しい一言を浴びせられる。コックとして失格であるものに融資ができるわけもなく、士秀と香玉は将来を絶たれた…かのように思われたが、山岡が助け舟を出すのだった。

それでも尻込みする士秀に発破をかける

 もう一度士秀に機会を与えて、それでもダメだったら士秀は香玉と離婚、香玉を周家に帰すというハチャメチャな条件で再試験とあいなった。奥さんを賭け代にしたらアカンてぇ…
 店に戻った山岡は士秀に何故彼のチャーハンがダメなのか、自分で鍋を振るって教える。

山岡熱血指導!セリフマシマシ

 チャーハンひとつ作るのに山岡も額に汗だ。理論はともかく、山岡の指導がみのり、士秀は心を入れ替え再試験に臨む。周大人の結論は…

ドーンと3千万
そして香玉との関係も認めた

 周大人の3千万宣言が口火となって、同郷会のメンバーも我も我もと融資を申し出る。ここで金出さなかったら周大人の見識を認めてないこととイコールになりそうな融資合戦のすえに、同郷会の融資額トータルは1億5千万円にもなった。(龍の彫刻とか置いてある店が出来そう…)
愛し合う2人の未来に背中で無言のエールを送る山岡であった。


◆ 「直火」「炎の主人」の意味

 私はこの話で出てくる「直火」「炎の主人」という言葉はダブルミーニングだと思っていて、士秀は直火を恐れるがあまり炎を御せず、炎の主人になれていなかった。だから料理もぺしゃっとしてしまっていた。炎を御し、炎の主人になるためには、その強力な炎よりもさらに強い心が必要だと山岡は士秀に説く。これは炎を人生、世間の荒波に重ねているんじゃないかなと思う。だから妻をお嬢さんと呼び、義母を奥様と呼び、義父を旦那様と呼ぶ使用人根性が、家族の大黒柱であり一国一城の主としての気概を持つことを妨げていた。

確かに、大きなものの陰に隠れ、「直火」にさらされない人生はある意味楽かもしれない。貧しくとも責任を持たずに済む。しかし、駆け落ちとはいえ妻を娶り、子をなした今、それではダメなのだ。「直火」に立ち向かい、制御し、支配する「炎の主人」とならなければ家族を守っていくことは出来ないのだ。それを頭ではなく心で理解した士秀は、これから「直火」を恐れることはないだろう、香玉と子の幸せを全力で守ってくれる「炎の主人」になってくれることだろう。

◆ 周大人との絆がさらに強固なものに

ちょっと表情が怖い

周大人は山岡に「これで二度も日本人に中華料理のことでしてやられた。このお返しはきっとしますぞ」と約束する。お返しというのが報復ではなく、報恩であることを祈るばかりだ。きっとそうだ。そうですよね周大人。

◆ 山岡はなぜ士秀にこうまで親身になるのか

 作中で明かされることはないが、山岡の世話焼きがまた炸裂しただけ…とは思えない。士秀への熱血指導は今までの回には見られないほどの熱の入りようであった、そしてセリフも多くて長い。あまりにも偉大な存在から逃げてきた、という背景が共通する山岡と士秀。山岡は日本の美の権威・海原雄山という実の父親、士秀は在日華僑のドン・周大人。山岡は士秀に強いシンパシーを感じていたのではないだろうか。他人事ではないというか。そして見たところ、まだ山岡自身が「炎の主人」になりきれているかは怪しい。もしかしたら山岡は士秀に自分の身の上を重ね、士秀を叱咤することで自分も「炎の主人」となる宣言をしたのではないか、と思う。士秀に比べ「直火」への立ち向かい方は屈折していたり、決意が鈍ったりもするひねくれものだが…

今回はここまで!

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・私の本業は…

 私の本業は観光促進、移動交通におけるバリアフリーを目的とする組織のイチ職員で、食い物のことに関しては偉そうに話せる立場にないんです。
鉄道オタクではない 視点で、日本の鉄道はこれからどうなっていくのか、特にローカル線って維持するのがいいの?すべきなの?っていうところを考えるためのマガジンも作っています、お暇なときにでも、是非以下の記事もあわせてご一読くだされば幸甚です。
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