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FP1級実技 2022/2/19 PartI 面接体験記(答え合わせ付き)

以下、過去問とは全く傾向が異なる、あっと驚く内容の設例が出た2022年2月19日 PartI、緊張と冷や汗の面接体験レポートです。

設例はこちら(金財サイトより)
https://www.kinzai.or.jp/fp/news-fp/34707.html

※尚、やり取りにおける回答は正解ではありませんので、お取り扱いには十分ご注意下さい。

<追記:2023年1月5日>
受検から10ヶ月以上経ちましたが、ようやく公式筋の正解例が判明しましたので、答え合わせの章を追加しました。

設例課題を渡され、15分間読む

設例を読み始めて、いきなりぶったまげる。

<主人公Aさんは、米国に親会社がある外資系企業の日本法人の役員を来年退任予定…>

米国!? ヤバイ。海外の税制なんて知らないぞ。

さらに、

<Aさんは役員報酬としてストック・オプション(税制非適格)を付与されていて、その課税関係を知りたいと思っている…>

え、マジで? ストックオプション!? 

「そこかよ!」と思わず声を上げそうになる。(いや、ちょっと声に出たかもしれない)

そんなのPart Iに出すのかい!

ストックオプションって…学科の勉強の時に国税庁のタックスアンサーで確認したことがあったような。えーっと、何だっけ。思い出せない…

いかん。ここでパニックって、後のテーマが頭に入らなくなるのは避けないと。

落ち着け。集中しろ。とにかく読み進めよう。

そして次は…

<長男Cさんとの同居の問題。二世帯住宅に建て替えるか、敷地内に新居を建ててあげるか>

あっ、これは小規模宅地等の特例の適用可否がテーマだろう。

確かネットで敷地内の別棟の事例を見たことがあるぞ。

これは何とか考えがまとまりそうでひと安心。よし立て直せ。

しか〜し、最後に、待っていたのは…

海外関連だから悪い予感がしてはいたけど、やはり、出るわなあ、そこは当然出るわなあ…

<Aさんがニューヨーク州に所有している賃貸アパートに長女Dさんが居住。相続時にどう取り扱われるか>

海外不動産の相続、ドカ〜ン‼️

過去問の傾向を完全無視した、この奇問ぶりには、もはや笑うしかないぞ。

動揺が極に達する。

ここで、もはや詰みか。

いや、諦めるな。

記憶をたどれ、何かないか。えーっと…

確か、いつか読んだ本に、米国の不動産の相続はややこしくて、裁判所管轄になるとかなんとか、そんな事が書いてあったような…

それ以外は、まったくの知識ゼロ。

これでは、面接官の助け船にも乘れそうにない。

あーあ、持ち帰り確定…

いちおう設例自体は、相続がテーマだが。

通常Part Ⅰに出る事業や資産の承継が絡んでの大小のテーマ満載のパターンでなく、いたってシンプルにストックオプション、二世帯住宅、海外不動産の3つだけがテーマ!! 

知らなきゃ轟沈だよね。

とりあえず、ストックオプションのキーポイントが思い出せたのでそこと、二世帯住宅と別棟の小宅の課税関係を必死でメモって、15分の時間切れ。

果たしてどんな展開が待ち受けているのか。

恐る恐る面接室へ。

12分間の面接の模様

案内係に誘導され、設例の紙・電卓・筆記具を持って、ドアをノックし「失礼します」と言って入室。

【私】
ラスパーと申します。宜しくお願い致します。

【面接官】
ラスパーさんですね。本日は私のほうから質問させて頂きます。

(質問担当の方は温厚そうな男性。お隣りの書記担当の方も男性で、目をこちらに上げ、優しそう。良かった。)

【面接官】
それでは、Aさんの相談内容と問題点について挙げて下さい。

【私】
はい。まず、ストックオプションの課税関係について。

次に、長男Cさんとの同居について。二世代住宅が良いか、敷地内の別棟が良いかですが、これは小規模宅地等の特例の適用の可否が問題になると思われます。

そして、Aさん所有のニューヨーク州にある賃貸アパートの相続時の取り扱いについて、です。

【面接官】
Aさんの相談内容について、何か潜在的な問題点があれば教えて下さい。

【私】
(潜在的問題点? なんだ? 他に何か隠れている問題点があるのか?)
えーっ。潜在的な問題点と言いますと…

【面接官】
Aさん自身が気づいていない隠れた問題点がないかどうかということですが。何かありませんか?

【私】
(え! なんだろう…他に気づいていない問題点って)
えー、すでに挙げた点以外には…あとは、遺言書の作成方式とかでしょうか? すみません、ちょっと思いつきません。

【面接官】
はい、それでは、一つ一つ見ていくことにしましょうか。

【私】
(意味するところがわからず)
はい。

【面接官】
まず、Aさんが付与されたストックオプションですが。ストックオプションとは何でしょうか?

【私】
自社の株式を時価よりも安く役員などに付与することです。

【面接官】
付与するのは株式そのものですか?

【私】
いえ。株を買う権利です。

【面接官】
そう、株を予め定められた価格で購入できる権利のことですね。

それではAさんの場合、ストックオプションの権利を行使した時の課税関係はどうなりますか?

【私】
その時の株価と権利行使した額との差額が給与課税されます。

【面接官】
はい、そうですね。

(隣の面接官の方がこちらを見てウンウンと頷いてくれる。これ、嬉しいなあ) 

それではその株を売却した時の課税関係はどうなりますか?

【私】
この場合は、売却時の株価と権利行使時の株価との差額が譲渡所得として課税されます。

【面接官】
権利行使時には、その時の株価と権利行使価格の差額が給与所得となり、売却時には、その時の株価と権利行使時の株価との差額が譲渡所得となるわけですね。

【私】
(きれいにまとめて頂いた)
はい、そうです。

【面接官】
譲渡所得の税率は?

【私】
(よし、これは簡単)
20.315%です。

【面接官】
それでは所得税の最高税率は? 住民税を含めて。

【私】
(えーっと、所得税の最高はたしか45%で。住民税は10%だから)
55%です。

【面接官】
はい。

それが税制非適格のストックオプションということになりますが、もし税制適格だったらどうなるのでしょうか?

【私】
(来たぞ。これは確か通常の株を買って売るのと同じ形になるはずだったような…)
その場合は、通常の株式を取得して売却する、つまり譲渡所得課税のみとなります。

【面接官】
その場合の取得価額は何でしょうか?

【私】
権利行使価額です。

【面接官】
はい。

それでは次に、二世帯住宅か敷地内の別棟の新居か、どちらが望ましいかという点ですが。

Aさん名義で二世帯住宅を建てて、長男Cさんが相続した場合、敷地全体について小規模宅地等の特例は適用できますか?

【私】
はい、二世帯住宅については適用できます。

但し区分所有登記をした場合は除きます。

(隣の面接官がウンウンと頷く)

【面接官】
では、建物の名義を長男Cさんとする場合ですが。

例えばAさんの資金で建てた建物を後でCさんに贈与することも考えられると思いますが、この場合、直系尊属の住宅に係る贈与の非課税は適用できますか?

【私】
(え? 建てた物の贈与って…あくまで、これ取得資金を贈与したときの特例じゃなかったっけ?)
適用・・・できないと思います。

【面接官】
はい。

その贈与の非課税制度ですが、令和4年の税制改正で今年1月1日に遡って継続となりますが、非課税枠はいくらになりましたか?

【私】
(やったぜ、これは事前にチェック済み!)
省エネ住宅等は1000万円、その他は500万円です。

【面接官】
そうですね。

それでは敷地内に別棟を建てる場合ですが。

Aさん名義で別棟を建てCさん家族が住んだとして、Cさんが相続した場合はどうでしょうか。

Aさんの自宅と別棟について、小規模宅地等の特例は適用できますか?

【私】
これは…Aさんの自宅と別棟、どちらも適用できないと思います。

但し、Cさんが同一生計だとしたら、適用できる可能性はありますが、この場合は難しいのではないかと思います。

別棟で独立して住みながら、同一生計というのが、ちょっと。

【面接官】
例えば介護のために、別棟と自宅を行き来したりしていたら、どうでしょうか?

【私】
うーん、どうでしょうか。生計を一にしているという実態があるかどうかですが、なかなか判断が難しいところです。

【面接官】
はい、わかりました。

それではニューヨーク州に所有している賃貸アパートに長女Dさんが住んでいる件ですが。相続はどうなりますか?

【私】
すみません。海外不動産の税務については十分な知識を持ち合わせておりません。

【面接官】
それでは持ち帰って確認して頂く形ですかね。

(あれあれ、面接官から言われちゃったぞ)

【私】
(でも。あきらめるな! なんか言おう。必死で不確かな知識を絞り出しながら)
えーっと。米国では相続が発生した場合、裁判所の管轄となり、手続きが煩雑で時間がかかると聞いたことがあります。

【面接官】
米国で課税されるだけですか?

【私】
いえ、日本は日本、米国は米国でそれぞれ課税されるはずですが…

いろいろと面倒なので、相続発生前に早めに処分するなりの対応を考えるべきかと。

【面接官】
(知らないのなら仕方がないねえという感じで苦笑しながら)

もしご存知なら教えて欲しいのですが、小規模宅地等の特例は海外不動産に適用できますか?

【私】
(えー、そんなのご存知なわけないよ、知らないよお。えーい、当てずっぽで・・・)
でき・・・ます。

【面接官】
そう、適用できますね。

(当たり! 良かった…)

後は、FPの職業倫理ですね。挙げて頂きますか?

【私】
顧客利益の優先、守秘義務の遵守、アカウンタビリティ、コンプライアンスの徹底、インフォームドコンセント、能力の啓発です。

(ここでタイムアップのベルが鳴る。)

【面接官】
本件で重要なものとその理由を挙げて下さい。

【私】
はい。様々な税制や特例・措置等について顧客にわかりやすく説明し、理解・同意を得つつプランニングを進めていく必要がある点から、インフォームドコンセントが重要と考えます。

【面接官】
はい、ありがとうございました。

面接後の感想

冒頭に面接官が言った「潜在的問題」というのが、結局わからずじまいでした。

この設例は3つの主要テーマしか思い当たらず、問答もそれらに終始しました。

今思うと、3つのテーマに潜む「Aさんが気づいていない」問題点と考えると、ストックオプションは一部給与課税されるので税率が高くなるとか、二世帯住宅の場合は別棟だと小規模宅地等の特例適用がなくなるとか、そういった答えが期待されていたのかもしれません。

過去問対策が役に立たない完全に想定外の設例でひどく焦りました。

それでも切り抜けられたのは、たまたまネットや関連本で確認したこと(※注)がうっすらと記憶に残っていたことと、何よりもジェントルな人柄の面接官の方に当たったことです。

パニックにならず、関連したいくつかの基礎的な質問にも大過なく(当てずっぽうもありましたが)答えることができたのも良かったと思います。

※注

・ストックオプションについて
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1543.htm

・敷地内の別棟における小規模宅地等の特例の適用について
http://office-m2.jp/qa/668.html

・読んだ本

以上のPartⅠに比べて、先に受けたPartⅡのほうは傾向通りで対処しやすい設例のはずでしたが、緊張のあまり、とんでもないミスをやらかして意味不明のことを口走るという最悪の展開に・・・ やはり面接試験には魔物が棲んでいると実感しました。

10ヶ月ぶりの「答え合わせ」

米国不動産の相続

米国不動産の相続については、合格後も一体何が正解なのか気になって仕方がなく、自分で色々と調べた結果を記事にまとめたりもしました。

ようやく公式サイドの正解例を手にしたのは、受検後10ヶ月を経た、2022年12月23日。

試験実施団体である「金財」の別会社である「きんざい」から刊行された『FP技能検定1級実技対策問題集(2021年度分収録)』の解説によってでした。

正解例のポイントは以下の5点です。

  1. 主人公Aさんは日本に居住しているので、その保有財産は国内外を問わず日本の相続税の課税対象となる。

  2. 海外不動産の評価は、外国に路線価等がないことから、時価(売買実例価額や精通者意見価格等)によるものとする。

  3. 小規模宅地等の特例は国内に限定されないので要件を満たせば適用できる。

  4. 米国の不動産に米国で課税された場合には、日本において外国税額控除の適用がある。

  5. 米国では相続財産の名義変更にプロベートという裁判所の手続きが必要な場合があり、手続きに平均1~3年を要し費用もかかることから、生前から回避対策(生前信託や共同保有など)をしておくことが望ましい。

1.~4.は米国にある不動産に対する日本の相続税法上の取り扱いです。

一方、米国での課税については、5.のプロベートと呼ばれる相続手続きについて概略を答えればよいということのようです。

私が「米国不動産の相続について」にまとめたように、米国での連邦遺産税の課税計算にまでは踏み込む必要はなかったようです。

ともあれ、読んだ本の薄っすらとした記憶と当てずっぽ(海外不動産への小宅の適用)のみでも、諦めずに沈黙しなければ何とかなるものです。

それを示す格好の例として私の体験記を読んで頂ければ幸いです。

ストック・オプション、二世帯住宅か別棟か

次に、他のテーマの答え合わせもしておきましょう。

まずは、ストック・オプションの課税関係です。

  • ストック・オプションとは、会社の役員や従業員などが一定期間内に予め決められた権利行使価格で、会社から自社株を取得できる権利のことである。

  • ストック・オプションの課税については、税制非適格と税制適格の2つの場合がある。

設例中の税制非適格は、

  • 権利行使時には、権利行使価格と権利行使時の株価との差額が給与所得として総合課税の対象となる。

  • 株式売却時には、売却価格と権利行使時の株価との差額が譲渡所得として申告分離課税の対象となる。

一方、税制適格の場合は、

  • 権利行使時には、権利行使価格と権利行使時の株価との差額は非課税(課税繰延べ)。

  • 株式売却時には、売却価格と権利行使価格との差額が譲渡所得として申告分離課税の対象となる。

次に、二世帯住宅か別棟の新居か、についてですが、

  • 二世帯住宅の場合は、長男Cさんは同居親族となり、Aさんの相続時に妻Bさんまたは長男Cさんが取得すれば、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例(330㎡まで80%減額)が適用できる。

  • 別棟の新居の場合は、(長男Cさんは別生計の親族となり)長男Cさんが居住する別棟の敷地部分は特定居住用宅地等には該当せず、Aさんと妻Bさんが暮らしていた自宅を妻Bさんが取得した場合のみ特定居住用宅地等に該当する。(自宅を長男Cさんが取得した場合は、長男Cさんは「3年以内家なき子」ではないので、該当しない。)

尚、二世帯住宅であっても、Aさんと妻Bさんの居住部分と長男Cさんの居住部分とが区分所有登記されている場合は、別棟の新居のケースと同様に、Aさんと妻Bさんの居住部分を妻Bさんが取得した場合のみ特定居住用宅地等に該当することになります。

ポイントは小規模宅地等の特例

この設例では、鬼門となるストック・オプションと米国不動産の相続についてはほとんど答えられないことが想定されますので、その分、二世帯住宅か別棟の新居かの課税関係(小規模宅地等の特例の適用)をいかに正確に答えることができるかがポイントになってくると思われます。

PartⅠの他の設例でもよく出てくる小規模宅地等の特例については、瞬時に正確な判断を下すための思考回路を作っておくことをお薦めします。

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