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ムスビ ─ 祈りの形

執筆:美術家・山梨大学大学院 教授 井坂 健一郎

日本の風土が生み出した和紙と漆の力

日本の風土から生まれた和紙や漆から力をいただき、「よる」ことによって作品の中に自らの「気」を込めていきます。
手のひらで「よる」という行為は「祈る」姿勢にも似ています。
そうした制作の中で、「ムスビ」という響きが立ち現れました。
日本神話の中に天地創造に携わったとされる3人の神がいます。
名前を「天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)」「高御産巣日神(たかみむすひのかみ)」「神産巣日神(かみむすひのかみ)」と言います。
「天之御中主神」は霊的な力のある場所そのものを表し、「高御産巣日神」と「神産巣日神」は創造を生みだす力を与えてくれる存在だと言われます。
「ムスビ」という響きを耳にしたとき、日本人は心の奥深くにしまわれている「祈り」の記憶を呼び覚まされ、深い世界にいざなわれるのではないでしょうか。

上記は、漆造形作家の いらはらみつみ の言葉です。

和紙に願望などの言葉を書き、その和紙を「よる」ときに手を合わせることで祈りを込めるという解釈のもと、作品を制作してきました。

言霊を込めた和紙を、さらに漆で固めているのですが、その行為は漆の殺菌力を利用しながらも、すべてのものを祓い清めることでもあるのです。

最古の形を最新の技術で表現した「祈り」

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現在、山梨県甲府市にある朱宮神仏具店2階の「shumiya art window」にて展示中の彼女の最新作『ムスビ2020  – 祈りの形 –』は、展示場所のスケールや場の雰囲気から決定された形でのインスタレーションとなっています。

この展示が始まった6月1日からかなりの反響があります。
ここで鑑賞者の声を紹介しましょう。

◎システィーナ礼拝堂の天井画みたい。尊い! 気持ちが洗われる感じ。
◎御釈迦様が乗ってる雲のようにも見えるし、風の神様が疾走しているようにも見える。
◎天候、時間の経過で色んな表情を観せてくれそう。
◎力強い作品!向こうが見える空間も相まって雲のようにもみえますね。
◎凄い! こんなディスプレイ⁉ 初めて見た。
◎うわ〜、幻想的でかっこいい!これも漆なのね。
◎甲府にあんな説得力のある展示があったかなーと思えるほど不思議なインパクト、そこに佇んでしまうパワー。たまらんです。
◎なんか暗黒の嵐の中に龍が飛んでいるような感じですね〜。
◎漂う雲から龍が生まれてくるようで、すごい幻想的です。物語りができそうです。


風の如く、龍の如く、ムスビは超自然から

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上記の感想には、風を感じたり、龍を感じるという意見が多くみられます。

人は、何かに「見立てる」という行為をします。
例えば、空に浮かぶ雲を見て、「○○のようだ」とか「○○に見える」など。

いらはら作品にも想像を掻き立てる要素が多分にあり、多くの「見立て」を生んでいます。

つまり、いらはら作品が大いなる自然に基づいた、超自然な表現でもあると言えるのです。

自然への気づきから「造形」という完結した形が生まれ、そしてまたそこから自然回帰が起こり、「祈り」への「ムスビ」となるのです。

いらはらみつみ展「ムスビ2020 –祈りの形–」は、本年10月4日まで開催しております。
建物の2階にあるショーウィンドウですので、外から見上げての鑑賞となります。
日没から夜間21時までライトアップされています。
ぜひ、本物の息づかいをご堪能ください。

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井坂 健一郎(いさか けんいちろう)プロフィール】

1966年 愛知県生まれ。美術家・国立大学法人 山梨大学大学院 教授。
東京藝術大学(油画)、筑波大学大学院修士課程(洋画)及び博士課程(芸術学)に学び、現職。2010年に公益信託 大木記念美術作家助成基金を受ける。
山梨県立美術館、伊勢丹新宿店アートギャラリー、銀座三越ギャラリー、秋山画廊、ギャルリー志門などでの個展をはじめ、国内外の企画展への出品も多数ある。病院・医院、レストラン、オフィスなどでのアートプロジェクトも手掛けている。
2010年より当時の七沢研究所に関わり、祝殿およびロゴストンセンターの建築デザインをはじめ、Nigi、ハフリ、別天水などのプロダクトデザインも手がけた。その他、和器出版の書籍の装幀も数冊担当している。

【井坂健一郎 オフィシャル・ウェブサイト】
http://isakart.com/

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