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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ⑩ 新多 正典 『Mensageiro dos deuses』(京都府京都市)

毎年夏に開催される COLLECTIVE。夏休みの甘い思い出的な一過性のイベントに(絶対に)したくないので、できるだけ会期終了後もなるべく接点を持つようにしています。例えば誰でも気軽に参加できるグループ展を企画したり、ぼくが普段、広告の制作ディレクターや本やウェブの編集を仕事にしているので、出会ったひとと一緒にできるだけ仕事をしたり、もちろんこれを機に、パークに気軽に遊びにきてくれるようになるといいなあと思ったり。気軽に通いたくなるような空間づくりも心がけていけたらと思っています。

つい先日も、2年前の COLLECTIVE に京都からエントリーしてくれた写真家の新多さんと東京で会う機会があって、写真の話をしようと酒を酌み交わしました。ぼくがこの note や SNS で書き記す言葉や写真論に共感してもらったのがきっかけ。新多さんは古都・京都を拠点に写真の仕事を生業にしながら、ブラジルに通い続けて2冊の写真集を発行している写真家さん。一方ぼくは写真家ではないし、酔うと超テキトー人間になってしまうので大丈夫かなと思ったけれど、一応、こう見えても10年以上第一線で写真家や写真に携わる仕事をしているので、ぼくなりの解釈で、様々な現場を見てきての経験則や感覚の話をさせてもらいました。いまの僕は一貫して写真には『フィジカル』が必要だと感じているので、主にその話を。COLLECTIVE がきっかけで知り合ったひととこんな風に会って熱く話せるなんて、素敵なことだなと思いながら、今日はその新多さんから届いた ZINE のレビューです。

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ブラジル北東部文化のひとつ『マラカトゥ』を追って

乾いた暑さの中、徐々に意識を取り戻していくかのように、もしくは、レンズのフォーカスを少しずつ合わせるかのように、音が響いてくる。太鼓の音。鐘の音。言葉の輪郭のはっきりしない群衆の声。こどもたちの笑い声。闇夜に浮かんで揺れる橙色のあかり。さっきまで少し遠くにあったはずの音と光が、水しぶきのように一気に降りかかる。つばをぐっと飲み込み、息を止め、まばたきさえできずにいる。シャッターを押す瞬間なんてなく、水しぶきはいつしか波となって通り過ぎた。

京都在住の写真家・新多 正典さんから届いたのは『Mensageiro dos deuses』と題された PHOTO ZINE。『神々のメッセンジャー』と訳され、ブラジル北東部で行われる『マラカトゥ』という伝統芸能が行われる1日が記録されている。リオのカーニバルと似たルーツを持つ『マラカトゥ』だが、カーニバルや音楽フェスというよりも奴隷船で連れられてきたアフリカの人たちの神様を祀る『神事』に近いそうで、イベント感覚で参加する若者と、忠誠心を持って、ストイックに参加するひとたちとが共存していると言う。地球の反対側でも、お祭りのあり方は似ているんだなって、新多さんから話を聞いてて思った。

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写真集は(おそらく)時間軸で構成されている。前半は祭りの準備の風景、楽しみにする人々が、やさしい目でレンズに笑顔を向ける。マラカトゥがこの町の人たちの日常の延長線上にあるように治安が悪いという先入観があるだけに新鮮だ。フィジカルに、フィジカルに、何度も通ってる新多さんだからこそ見つけられる笑顔なのかもしれない。後半も同様に、現地のひとでしか入り込めなそうな距離で、マラカトゥの迫力が伝わってくる。この人たちはどういう気持ちで向き合っているんだろうと想像すれば想像するほどはかりしれず、こんな多様な世の中で、人種のこと、文化のこと、いろいろ理解した気になるって言うのはなかなか難しいかもしれないなと思った。頭だけで考えて、わかった気になっていてはだめなんだなと痛感する。言葉にするのもおこがましいくらい。ただ、難しいと言って拗ねててはダメだから、こういう『作品』を通じて、入り口の扉にタッチすることがなんだなと思った。ぜひ手に取ってみてほしい。

ちなみにレビューのはじめの数行は、『マラカトゥ』の描写ではなく、10年くらい前にぼくが見た徳島の阿波踊りの夜の記憶。しぶきのような音と光が、迫ってくる様子、いまでも昨日のことのように頭に焼き付いている。体が震える。写真は1枚も撮らなかった。

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写真とは『そこに立っている』ことの証明なんだと、改めて思う。

新多さんが、つぎ、どこに立つのか、気になる。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:新多 正典(京都府京都市)
写真家。ブラジル北東部のフォークロア・Maracatu(マラカトゥ)に密着し、それに関わる記録を主な写真表現としている。
https://www.instagram.com/nitta_masanori
【 地域の魅力 】
市内全域を自転車で巡れること。御所があること。
【 地域のオススメ 】
① 明記大陸食堂 ... 中華料理店、ソールフードです。安い、美味い、多いを実現しています。(残念ながら消費増税のタイミングで値上げされました)
https://tabelog.com/kyoto/A2601/A260304/26016478

② みなみ会館 ... 映画館、仕事場から自転車で5分の距離なのでサボるように映画を観れるのが良い。
https://kyoto-minamikaikan.jp
【 同じ地域で活動するひと 】
サルシッチャすずき / 「salsiccia deli」というイタリアンソーセージの店のオーナー兼料理人です。
http://salsicciadeli.kinugoshi.net


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