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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ⑬ あやいろ 『さとやまの子』(東京都町田市)

COLLECTIVE はじまりました。初日は参加してくれている作家さんのみなさんのおかげで、コロナ禍においても人の波が途絶えずという感じで、すばらしい初日を切れた気がします。それぞれのソーシャルディスタンスで、納得のいくコミニュケーションを続けていけたらと思っています。

ZINE を並べてみて、感じたモノの価値。特にアート(表現)の価値っていうのはもともと、“見る側”が普段から抱えて醸成している様々なチャンネルのストーリーを、いかに“発信する側”=アーティストが生み出す作品の表層にタッチさせクロスオーバーさせるか、という点にあると思います。ここが交わった時に『価値』が生まれる。単に『縁』という言い方もできますが、もっと生々しいコミュニケーションが大事なんだと思えるような日でした。農家が店先にたって、野菜を売るみたいなことが、いまの時代には必要なんだと思いました。ぼくがいかに器用にいくらレビューを書いても、作家さん本人の口上にはかなわない。ZINE に出会えることもすばらしいけれど、ZINE の作者に会えるのもやっぱ醍醐味ですね。今日現場で新しい友達ができたって思った人もいるんじゃないでしょうか。そういう店でありたい。このレビューも作家さんとの1つの接点です。レビューとても喜んでもらえるとぼくもうれしいです。


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主人公は里山の自然を駆け巡る子供たち


いつか消えてしまう景色

今日紹介するのは、里山の自然を駆け巡る子どもたちを主人公としたシリーズを描き続けている画家のあやいろさんの ZINE『さとやまの子』。

『里山(さとやま)』と聞いて『?』と思うシティボーイ&ガールもいるかもしれないね、いるよね。あえて説明すると、『里山』は、もともと山だったところを開拓して、ぼくら人間が住んで、一度(程度の差はあれど)栄えた中山間部の地域のことをいいますね。経済の発展と共に人口が都会へ流出して、子どもが減り、高齢者が増え、世代交代が行われないまま過疎化してしまってる地域。例えば『ジブリに出てきそうな』と言えば多くの日本人が思い浮かべることができるくらい身近にある風景が残る場所です。「まだそんなところあるんだー」なんて思うかもしれませんが、都会に住んでいるとなかなか気づけないけれども、実は日本という島国の多くはいわゆる『田舎』で『里山』だと言えます。毎日のようにぼくらの食卓に並ぶお米や野菜の多くは、里山で育っていたりもするんですね。

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きょうは なにして あそぼかな

こんな一節で始まる『さとやまの子』。ニンテンドーDSがなくても、カードゲームがなくても、プリキュアなんかいなくとも、里山の子ども(昔の俺や君)は自然をフィールドに、草木を道具に、様々なアイデアを絞り出して全身をフル活動して遊んでいたもの。一人だろうが二人だろうが、大勢だろうが、その熱量と集中力というのはすばらしかった。子どもなりに人生かけて遊んでたんだと思う。

あやいろさんが描くのは、そんな里山に暮らす子どもたちが、思い切り遊んでいる風景。田舎という素朴なモチーフだけれど、季節のうつろいや、子どもたちの熱量が巧みに伝わってくる。デフォルメされた線と面の残り具合が思い出の中の残像みたいに絶妙で、里山の魅力を伝えるために必要な要素だけが、うまく簡素化されているのだ。ぼくらは確かに、赤でも黄色でもオレンジ色でもない夕焼けを見たことがある。ぼくらは確かに、青でも紫でもない朝焼けを見たことがある。記憶の中の森は緑じゃなくて青に輝いている。サイケデリックに見える色使いも、本当にあった色なんだと思う。そもそも里山の自然なんてサイケデリックだからね。あんなにトリップできる環境は都会にはないと思う。

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少し気になるのは、不思議な寂しさを感じるところ。子どもに顔がないからかみんな背中を向けているからか。いつかなくなってしまうかもしれない景色を前に、本を閉じると少し寂しくなって、何度も何度もページをめくってしまう。

COLLECTIVE にはいろんな地域出身のいろんな世代の参加者やお客さんが集まってくると思う。この景色に共感できる人、遠い異国の世界に思える人、さまざまだと思う。この本を通じて、地域のこと、子どもころのあそびのことなど話せたらきっともっと楽しいと思う。ちなみにぼくは小学校3年生の頃、山で、不思議な女の子と遊んだことがあります。そんな話もしたいですね。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:あやいろ(東京都町田市)
1991年東京生まれ。
自然豊かな里山を駆け回る子供のシリーズを描く。幼少期から実体験として知る地元の原風景をモデルに、自然と人がふれあい、共に生きる姿を探る。懐かしい情景をシンプルな要素とカラフルな色彩で描く、ポップでノスタルジックな世界を展開。国内外で作品の展示・販売を行っている。
2020年ザ・チョイス年度賞にて優秀賞受賞。
http://ayairoart.com
【 街の魅力 】
町田市といえば駅周辺の栄えたイメージが強いかと思いますが、実は谷戸や里山などの自然環境が多く残っており、田んぼや雑木林の中には本当に多種多様な生き物が生息しています。ウグイスやホトトギスの声が聞こえるのは日常で、蛇やタヌキなどに遭遇することも珍しくはありません。休日などには自然の中で遊ぶ子供の声が聞こえてきます。町田市自体がそれらの自然を緑地保全地域として守る取り組みをしており、都心に近い距離にありながらもここまでの自然を堪能できる場所は数少ないのではと自負しております。私の作品の多くも、この地元に残る風景をモデルとしています。
【 街のオススメ 】
① 高宮 ... 隠れ家の和食名店。近隣の農家から直接仕入れた野菜や敷地内で採れた山菜を使用した料理で、四季折々の旬の味を楽しむことができる。米は釜で炊き上げ、使用する食器もすべて国産品にこだわっている。
http://takamiya.la.coocan.jp

② 四季彩の杜 ... 今年春オープン。もともとあった牡丹園、えびね園、ダリア園、リス園などが統合されてできた自然あふれる公園。地場食品直売所や町田産の食材を使った料理が楽しめるカフェ・レストラン、クラフト体験などができる体験工房などがあり、自然を堪能したい人にはオススメ。
https://www.city.machida.tokyo.jp/bunka/park/shisetu/machidabotan.html

③ 町田市立国際版画美術館 ... 国内外のすぐれた版画作品が見れる。
http://hanga-museum.jp
【 同じ地域で活動するひと 】
大迫傑 / 町田出身の陸上競技選手。
https://suguruosako.com

美容室 Luce(ルーチェ) / 知り合いの美容師さんの店。
http://www.luce1014.net

アロマセラピストの友人

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