issue 37 「聴こえるかガキ共!グッチ裕三のロックンロールショウ」 by ivy
人生最初の音楽番組はなんだろう。よく考えたら、幼い頃はNHKの教育テレビを見せられて、自然と歌を口ずさんでいた。みんな覚えているであろう『おかあさんといっしょ』はいうまでもない。歌詞がテロップで出て、歌があって、ダンスもある、あれは間違いなく音楽番組だ。
さて、『おかあさんといっしょ』に比べかなりマイナーな存在だけど『ハッチポッチステーション』ってわかる人いるかな?私が5歳くらいのとき(2003年)教育テレビ、『おかあさんといっしょ』の夕方回が終わったあとの枠。グッチ裕三とパペットで繰り広げられる子ども向け(?)音楽番組だ。私はむしろ『ハッチポッチステーション』が好きで、よく笑っていたとは母親の談。今回はそんな、『ハッチポッチステーション』について。
グッチ裕三、という渋い人選といい、ハッチポッチ(ゴチャ混ぜ)という意味深なタイトルといい、子ども向けとは信じがたい仕様だった。実際に内容もオヤジギャグ、社会人のいざこざ、与太話をポップに昇華したなかなかにブラックな内容で、製作側の意図が読みにくい。
パペットのキャラもクセが強い。売店のお姉さんは映画スターが正体を隠して働いていて、車掌さんは基本的に不憫な役どころ、関西弁を話すエチケットにやたらうるさい爺さん …。
簡単にいうと、ハッピーエンドや勧善懲悪の単純明快な展開とは、一味違うストーリーが毎回用意されているんだ。『おかあさんといっしょ』で優しい大人たちが幸せな世界を用意してくれているなら、こちらにはなんとも皮肉めいた現実の大人社会がほろ苦く待ち受けている。
そして、やっぱり音楽番組だから「歌」にも触れておきたい。『ハッチポッチステーション』は子ども番組ではあるけれど、非常にロックな歌番組でもある。グッチ裕三が繰り広げる極上のエンターテイメントは、子ども心にもクオリティとバカバカしさを両立した稀有な芸当だ。
ビートルズと童謡のマッシュアップ、キッスの替歌、時に大真面目に懐メロを歌い上げたらお約束の親父ギャグでオチをつける。このクオリティがやけに高い。ビートルズのコード進行で童謡のフレーズを時々拾い、強引に歌詞を組み合わせる手法は、大人になった今だからこそ笑える。
さて、ブラックユーモアに洋楽ロック、懐メロ、子どもが一度も登場しないストーリー展開…。ここには果たして、子どもたちの共感する場所はあるのか⁉
これこそが番組のミソ。『ハッチポッチステーション』は、子どもたちへのロックである。グッチ裕三の歌には、ネガティブな内容が多い。子どもたちの欲求不満だ。「腹減った」、「わからない」、「怒られた」…子どもたちの日常にある不満や不安を往年のロックに乗せてかき鳴らす、知らないおじさん。
これは、みんなのお兄さん、お姉さんを自称する「先生」的な大人がハッピーエンドで塗り固めて作る、『おかあさんといっしょ』への強烈なカウンターだ。子どもたちにだって、怒りはある、不満はある。それを無理にポジティブにしなくたっていいじゃないか、って。
ビートルズは知らなくて、キッスもギャグかなんかだと思っていた5歳児の私。そんな子どもにも、確実に響いていたんだ。グッチ裕三のロックンロール!彼は、幼児の代弁者だ。
人生最初の音楽番組は『ハッチポッチステーション』。もしかしたら今目にするどんな番組よりもロックだったかもしれない。DVDやらアーカイブやら、何かしら視聴方法はあるはずなので、気になった方はぜひ。
イラスト:あんずひつじ
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