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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ⑪ 山田 将志+真鶴出版 『港町カレンダー』(神奈川県足柄下郡真鶴町)

COLLECTIVE まであと2日。設営も終わって、いよいよ並べるだけ、というところまできました。全部で30タイトルと少し。8月のあいだずっとやってますので、開催中も参加は受け付けております。今からでもおそくないので、ぜひ。そして、様々なジャンルの多様な ZINE が集まるエキシビジョンとなりました。みなさま、お楽しみに。そして47都道府県、全国どこからでも、COLLECTIVE に集まった ZINE の魅力をキャッチできるよう、こうしてここで、1冊1冊レビューを書いていきたいと思います。暑苦しいかもしれませんが、今の時代、こんくらい暑苦しいくらいがいいんじゃないでしょうか。どうぞよろしく。


05のコピー

カレンダーと言う名の不思議な本

神奈川の県西、東海道線で『熱海駅』のふたつ手前にある小さな港町『真鶴』から届いた、ほんのちょっとだけ磯の香りがする『港町カレンダー』(著・山田 将志、発行・真鶴出版)。

真鶴の多くの町民が1年の真ん中と捉える『貴船祭り』が開催される7月末を記した8月のカレンダーと、真鶴に移住し2匹の猫、1匹の犬、彼女と暮らす画家の山田将志くんによる真鶴の日常の絵と、ある日の日記のような言葉で構成された不思議な1冊だ。毎年、町内外問わずファンの多いこのカレンダーの企画と編集は、真鶴町でゲストハウス兼出版社を営む『真鶴出版』の川口瞬くんによるもの。これはカレンダーでも画集でも、詩集でもなく、地域の魅力を伝えるメディアでもない(だってどれも機能していない!)。

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ただなぜ、小さな町の、一人の画家の極私的な暮らしと、名前のない場所を描いた風景画が、なぜなぜこんなにも人を魅了するのだろうかと、頭では解けないパズルを前にしてるかのような気持ちであっという間に読み終え、心だけがぽっかり真鶴を旅したまま、体は封筒を開け、本誌を開いたままの状態で立ち尽くし、気づいた頃には「COLLECTIVE に出展してほしい」と、こちらからお願いさせてもらった。少しでも多くの人にこの不思議な魅力の詰まった『本』を手に取ってほしいと思った。

点を分解して混ぜたような

もしこれがカレンダーなら1月からはじまってほしいし、月と月の間に余計なページは必要とされないだろう。壁にかけられるようにしたほうがいいし、卓上に置ける方がいい。もしこれが画集ならばカレンダー機能はいらないし、その分もっと山田の絵が見たい(敬称略)。これが詩集ならば、いや、詩集としてはとても美しい。だって山田の言葉は飾りっ気がなく、力強く、暮らしの息吹を感じることができる。絵本のようにシンプルで、みずみずしく、荒々しい。ここに載っているのは『絵』ではなく、1つひとつの(筆の)タッチと、一言ひとことの言葉の節、1日1日刻まれるカレンダーの暦。この小さな港町で、ぼくらは「暮らしている」「生きている」という証明のような、絵具と言葉、日々という『点』の集まりが、この1冊を構成している。多くの事象を、やさしく淡々と、俯瞰して、分解して見る力のある川口くんならではの編集だなとも思った。山田の魅力と真鶴の魅力を見事に一度点に分解して混ぜてみせている。表紙に『真鶴』という言葉がないのもうつくしい。

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山田(敬称略)の絵を、「写真みたい!」と評する人たちがいる。確かに、パッと見ると写真みたいだったりする。けれど、次の瞬間にはむしろ『写実的』と言うには稚拙な塗りやパースが浮かび上がってくる。ではなぜ、彼の絵を、みんなは「写真みたい」と言うのか。こればかりは、言語化するのはおこがましいけれど、技術でもセンスでも、経験則でも知識でもなくて、町(風景)に対する『愛』なんだと思う。このギミックやロジックは言葉にならない。強いて言えば『暗がり』に光をあててるという行為が写真に似ているのかもしれない。光を切り取ることでうつくしさが助長される『写真』と同じロジックなんじゃないかと思う。そういう目で山田の絵をみると、『光』の描写だということがよくわかる。太陽を反射する肌や町や海、窓の外の光、米粒や味噌の照りなどすべて光だ。それがわかるような山田の作品がある。

真鶴の町のとある場所で、真鶴の港を一望することができる。晴れた日にそこから写真を撮ると、海と町は青くきれいに撮れるが、森は露出の都合で黒く翳る。写真みたいな絵を目指すならば、海を青く、森を黒に描くだろうけれど、山田のその作品は、海も森も同じくらい明るさで描いている。その方が、目で見て、心が感じたままなんだよね。目で見て心が感じたであろうそのままが見れた時、ひとは自分の記憶とそこを重ね、「写真みたい」というのだと思う。

毎月のように通っていた真鶴旅行も、今はコロナで自粛している。真鶴の旅は、いわゆる観光型の旅行ではなく(観光を求めたら半日で終わってしまう)生活に密着した体験型の旅なのだ。まるで暮らしているかのような気持ちになれるのが真鶴の旅なのだ。

遠くにいても、旅したような気持ちになれるカレンダーとにらめっこしながら、いつか真鶴に行ける日を想像する。

それにしても山田は似顔絵が下手だ。いつまでたっても似てない。でも描かれたひとはうれしいんだな。なんでだろう。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:山田 将志(神奈川県足柄下郡真鶴町)
1986年神奈川県生まれ。
アクリル絵具で営みの風景や町の人、料理や食材を細かいタッチでリアルに描いています。写真とは違う質感や、あたたかさ、生活の匂いが伝わってくるような絵だと思っています。
雑誌やウェブサイトなど様々な媒体でイラストを手掛けています。
https://yamadamasashi.jimdofree.com

「僕と同じ町で暮らす人」ー 山田 将志

2017年、僕は神奈川県西部にある小さな港町 真鶴に移住した。
神奈川県唯一の過疎地域に指定された人口7千人ちょっとの真鶴では、道を歩けば誰かしらに会い、年配の方でも子供でも立ち話をして「それじゃあまた」と別れる。

この当たり前だけど新鮮な日常のやりとりを僕は真鶴に来るまでやってこなかったのだろうか。先日、畑を貸してくれている近所のおばさんが亡くなった。

畑ではおばさんの要望でスイカを育てることになっていた。数年前に亡くなった旦那さんが、最後の夏に作ったスイカがものすごく甘くて美味しかったらしく「山田君も作って〜」と頼まれていたのだ。

そして、スイカができる前におばさんはいってしまった。小さな町では噂だってすぐにまわる「今日は○○さんのお通夜がある」という会話をよく耳にする。過疎地域で暮らすということは都会に住んでいたときよりも町の人の死を身近に感じるということだと思った。誰だっていつかは死んじゃう。
それを実感するのは家族や友人のような繋がりがある人が死ぬ時だと思っていた。でも今はそこに“同じ町で暮らす人”という新しい繋がりが芽生えていた。

車から手を振ってくれるあの人や、飲もう!と誘ってくれるあの人、「おかえり」と言ってくれるあの人たちの顔が次々と思い浮かんだ。
当たり前の日常のやりとりの中で町の人と距離が近づき繋がり、ただの町民ではなくて“同じ町で暮らす人”と認識するようになっていた。それが移住する前との違いだ。

僕はまだまだこれから真鶴で、いろいろなことを経験していく。
楽しいことも辛いことも向き合って、この町で歳をとりたい。
土からあたまを出したスイカの芽をみて、そんなことを考えていた。
【 街のオススメ 】
① 居酒屋『宵』 ... 真鶴魚市場の側にある居酒屋。なにを食べても美味しい。甘辛タレで作った煮魚は絶品。自家製塩辛は必ず注文する。
港にあるので潮風を感じながら飲むことができるのも魅力の一つ!
https://tabelog.com/kanagawa/A1410/A141002/14037705

② 草柳商店 ... 港に側にある角打ちのできる酒屋。看板おかあさんあーちゃんと店主のしげさんに会いに全国各地からお客さんが訪れる。個性の強い常連さんも集まり、朝の連続テレビ小説のような笑いあり時には涙あり?どんちゃんしている憩いのお店。しげさんいわく草柳商店は「真鶴の底」だそう。真鶴のディープスポット。
https://colocal.jp/topics/art-design-architecture/manazuru/20161017_83108.html

③ 道なし海岸 ... 歩いてだと行きづらい隠れ海岸。熱海や網代、伊豆半島や大島など相模灘を見渡すことができる。たまにここでお昼ごはんを食べたりする。小石でできた海岸で、波が引く時に聞こえるコロコロコロ……と小石が転がる音に癒される。
http://www.shizengate.com/locationguide/content/manazuru01.html
【 同じ地域で活動するひと 】
川口瞬さん(真鶴出版)... 真鶴に移住し “泊まれる出版社” 真鶴出版を営んでいる。今までの真鶴カレンダーや今回の港町カレンダーを制作するきっかけを作ってくれた、同年代だけど僕とは違いすごくしっかりしている。川口さんには学ぶことが多く、時には気持ちを鼓舞してくれる頼もしい人。 真鶴出版はとても風通しのいい場所だと思う。打ち合わせをしていると、真鶴出版を求めて町内から他県まで様々な人が訪れてくる。
https://manapub.com

鈴木大輔さん(DOTMARKS) ... 真鶴に移住されたデザイナー。今回、鈴木さんがカレンダー制作に加わったことでできることの幅が広がり、ただデザインするのではなく「日常を切り取ったような」という鈴木さんの意向が散りばめられたすばらしいカレンダーが出来たと思う。 夕方、僕が犬の散歩をしていると歩いている鈴木さんにたまに会う。どこに行くのかと聞くと「釣りをします」と晩御飯を釣りに港へ向かう姿がたくましかった。
http://dotmarks.jp  

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