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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㊻ RIKA GALENTINE ROSE 『伏魔殿』(神奈川県相模原市)

こう見えても(どう見えてるのか知りませんが)24歳から32歳くらい前まで WEEKEND というラップユニットで MC を担当していました。3MC1DJ。自主制作でアルバムを4枚、インディーレーベルから全国流通盤としてアルバム2枚(今でもタワレコや iTunes でも買える)リリース。最後のアルバムはフィッシュマンズのベースの柏原譲さんがサウンドプロデュースを担当してくれたり、ベースを弾いてくれたり、tofubeats が僕らのファンということでトラックを提供してくれたりと、フェスとかには出ないまでも、そこそこ「売れかけた」という感じでした。自己肯定感すさまじかったです。

楽曲はほかのメンバーが。歌詞はそれぞれ自分で。ラップをする時の名前は『転校生』(事実ぼくは転校生)で、転校生特有の憂いや、虚しさ、倦怠感、人との距離感、他人事感などが特徴だったように思います。当時のモヤモヤとかイライラとかあったようななかったような。くだらないことも大事なことも、青春も恋も全部、言語化すると落ち着くというか、ボツになった暗い歌詞は星の数ほどあったし、ステージにあがって歌うような明るい人間ではなかったように思います(その証拠に事前に酒に酔わないとステージにあがれなかったので)が、とにかく、平凡な家庭に生まれた平凡な自分の、少しだけ翳ってる部分を、ちょっとだけ浄化するような効果は、少なからずあったように思います。すごく些細な、ぼくだけのごくパーソナルな想いを、レトリックな歌詞にこっそり忍ばせて発表する。まさに ZINE 的な行為だったように、いまは思います。1つ歌詞ができると、自分の中の1つの人格が旅に出てしまうようなイメージ。わかりますかね。

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これは自分へのセルフリスペクトと、解毒

さて、今回紹介する ZINE は、アクセサリー作家でセルフポートレートを表現の主軸にしているアーティストの RIKA GALENTINE ROSE(リカ・ギャレンタイン・ローズ)さんによる『伏魔殿』。「悪魔が潜む殿堂」「陰謀、悪事が絶えず企まれる場所」としながらも、社会的な(あるいは極私的な)地位や立場、環境をもとにした『反撃』と『再生』がテーマとなっている詩文集。悪意は中や読み手に向いておらず『社会』や『構造』に向いているので、そのタイトルに怯えることなく、読み進めることをオススメしたい。『伏魔殿』を崩す側の人間の文章と言えると思う、共感も、共鳴も、気づきもある。読み終えた時には、一種の痛みのあとの解脱感さえある。モルヒネ的な。

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冒頭の本人によるステートメントに「この ZINE の詩は、歌詞と詩の間を目指したもの」とあるように、前半の詩はリズミカルでまるでラップのリリックのよう。痛烈とまでは言わないリアルな心境や、環境の描写があいまって、音楽のように言葉や景色が入ってくる。自分が死にもの狂いで歌詞を書いていた頃を思い出したのはこのせい。本当に言いたいことを時々織り交ぜて、自分の人格を旅させるのだ。

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素直で平凡な女の子になれなくてよかった

前半はリズミカルに、意味を深く考えることなく読み進めた。あやうく『よくあるポエム ZINE』と片付けてしまうところだった。後半は、RIKA さんの子どもの頃の話から、いまの『私』を行き来するような形で『反撃』と『再生』の物語にグラデーション的にシフトしていく。そこからは息をするのも忘れて最後まで読み進めた。転校生としていじめを受けた話、家族のこと、コロナのこと=社会のこと、政治のこと。システム、スキームのこと。伏魔殿のぼやけた輪郭が徐々に浮かんで、消えていく。多少の痛みは伴うが、暗くはなく、力強く紡がれる言葉に、小さく息を飲む。表紙のアメジストの存在を理解した。

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これは自分へのセルフリスペクトと、解毒だ、と言い切る、RIKA GALENTINE ROSE の言葉の中に、ZINE の本髄を見た。そうだ忘れてた。ぼくが詩を描いて、歌っていたのは、なあんの才能もなく、夢に向き合う勇気もなかった、なんでもない自分へのセルフリスペクトと、解毒だった。いま、あの時の表現に、後悔は1つもない。

共感と、共鳴と、気づきを。他人の話と片付けるのは簡単だけれど、この ZINE から勇気をもらえるひとはたくさんいるんじゃないかと、そういう感想を持ちました。気になったひとはぜひ。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:RIKA GALENTINE ROSE(神奈川県相模原市)
2014年からハンドメイドのヘッドドレス販売を開始、4店のお店で取り扱い頂きました。近年はセルフ解毒をテーマに詩、エッセイ、セルフポートレート作品を中心にどこにも馴染まない王冠を持つ、全ての人への連帯と支持を表した作品作りを目指しています。
https://mobile.twitter.com/chinpuirika
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