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【 レビューあり 】 小泉綾子 『LOVE is ЯK』 東京都

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ZINE REVIEW by 加藤 淳也(PARK GALLERY)

ここ数年でずっと身近になった ZINE という小さなメディア。一言に ZINE と言ってもその歴史は長く、根は深い。今回参加してる人の中で、どのくらいの人がその成り立ちを理解した上で『ZINE』を作ってるかと考えると「ほぼいない」んじゃないかと言えると思う。と、同時に立ち上がる「そもそもそういうのを考えないのが ZINE じゃないか」というアンビバレンス。ZINE の歴史なんてきっと知らなくていい。

ここで改めて簡単にぼくなりに説明すると、もともとはあるジャンルにおける特定の FAN たちによる情報交換のための非公式な MAGAZINE = FAN+ZINE(ファンジン)として生まれたのがルーツとされる。のちにアクティビストたちの政治的アジテーションやパンクムーブメント(日本だと大学闘争とか)へ派生し、ソーシャルな手作りのメディアとして確立した。90年代初頭、ストリートカルチャー(日本だとサブカル)を通じてアウトプットがよりドレスダウンしたことで、誰でも作れる個々のパーソナルなメディアとしての ZINE が定着し、今に至る。ちなみに「ただのキンコーズ(since1970)との歴史」と揶揄する人もいる。ネット印刷の進化も大きい。

雑誌や新聞に載せられないファンだけのひそかな楽しみからはじまり、次第に政治的で過激なメッセージ、暗号のようなコラージュと化け、壁の落書きのスケッチや高価な写真集、陳腐なマスメディアへアンチテーゼ的存在となっていった ZINE 。グレーとされてきた表現を詰め込んだものが ZINE のルーツと言えるが、半世紀たって、ZINE はまた「個人のひそかな楽しみ」へと原点回帰した。

今日紹介する ZINE『LOVE is ЯK』は、まさにルーツ・オブ・ZINE 。ファンだけのひそかな楽しみに原点回帰しながらも、過激なメッセージ、コラージュ、マスメディアへのアンチテーゼ、そしてグラフィティと、まるで ZINE の歴史が踏襲されたかのような1冊。グレーじゃないか、という人もいたが、ルナシーだと答えている。

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作者はフリーライターでZINE作家の小泉綾子さん。2020年の COLLECTIVE で多くの人に衝撃を与えた問題作『ホリエモンが教えてくれたこと』の作者といえばピンと来るひともいるかもしれない。もはや夏の風物ZINE。

ここでいうЯK とは90年代に一世風靡したビジュアル系バンド LUNA SEA のボーカル河村隆一のこと(どうやらプロデュース時の名前らしい)。歪んだまでの ЯK 愛に溢れた写真と名言のコラージュ(スクラップ)で構成されている。動機はいたってシンプルだ。

90年代~2000年初頭の河村隆一の偉大さを再確認する時期だと思ったから。― 小泉綾子

火のないところから煙はたたないように、ЯK の魅力的な写真がなければこんなにいいコラージュはできないし、ЯK の言葉がこんなにも偉大じゃなければいい ZINE にはならない。ここに収録されている ЯK はたしかに「存在」していて、そして、こういう時代が確かにあった。

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例えば ЯK の一番好きな食べ物は「数の子」。
これは妄想ではなく、まぎれもない真実なのだ。

河村隆一と聞いて「知らない」というひとと「知ってる」という人は COLLECTIVE の会場では半分くらいのようだ。音楽がサブスクリプションで配信される世界で、時代とともに埋もれていってしまう音楽があるのも仕方がない。しかし、80年代の AOR がシティポップとして再燃したり、山下達郎や細野晴臣のサウンドが若者の間で今でも多く聞かれているように、そのブームの裏には、時代の空気を操る<編集者>の存在がある。情報を切り取って整理し、時代のトリックスターを作り出す。それができる有能な編集者がどの時代にも存在している。DJ KOO が現代のテレビで引っ張りだこだという現象も似てると思う。

つまりこの ZINE が、ЯK を再燃させる可能性だってあるのだ。ЯK 側のポテンシャルは十分にあるのは、この ZINE を読めば一目瞭然だし、彼がウズウズしながら、この ZINE の中から飛び出す日を待っているかのようでもある。

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中身をここでこれ以上紹介してしまうのは「野暮」としかいえないので、個人的に疲れた時、元気を出すために見る ЯK の MV をここに貼っておきますね(まさかのレビュー放棄!)

最後にひとつだけ。おまけでついてくるステッカーを入手するためだけに ZINE を買う価値ありますよ。なくなってもおかしくないので、お早めに。ぼくはもうキメました。

それにしても、ファンジンというのは魔法だな。

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---- 以下 ZINE の詳細と街のこと ----


【 ZINE について 】

90年代~2000年初頭の河村隆一( ЯK )の偉大さを再確認する必要性を感じ、製作に至る。

あなたが素晴らしい映画を観たり、
Ubereatsで恋人と
最先端のおしゃれな寿司をオーダーし合ったり、
仕事で高い評価を得ながら、
大人として着実にステップアップしている間、

私は部屋にこもり、
くだらない、ばかげた、
独特な世界観ですねーと
失笑不可避なzineを作り続けていた。

あなたがTwitterで憂鬱さを垂れ流し、
自分のぬるさを正当化している間、

私は給料の大半をヤフオクにつぎ込み、
ЯKのきらめきを追いかけた。

あなたは私よりも
価値のある
遥かに立派な人間だけど、
(そもそも)あなたにこれは作れなかった。

私はやり遂げた、私は怒りと屈辱をエネルギーに変換させた、
そして私は完成させた。
私にはこれがあるから、
あなたとは違う。

これからもずっとそう。
私たち永遠に違うから。


価格:¥770(税込)
ページ数:12P
サイズ:148 × 210 mm


作家名:小泉綾子(東京都杉並区西荻北)

東京を拠点とし、文筆家、zine アーティストとして活動。

https://www.instagram.com/ayaquo
https://twitter.com/ayathecat

【 街の魅力 】
カフェとお菓子屋が多い。
【 街のオススメ 】
エルスール(花屋)... 予算内で想像以上の花束を作ってくれる。

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